開業から半世紀以上が経過した東海道新幹線山陽新幹線も全線開業から45周年を迎えます。この間、新幹線車両はスピードアップに加え、乗り心地や車内サービス内容も進化しました。一方で、約30年間変わらないものもあります。

進化する座席、一方で座席数は変わらない

鉄道を利用するうえで気になることのひとつに、「乗り心地」が挙げられるでしょう。ここでは、東海道・山陽新幹線の座席や設備について見ていきます。

東海道・山陽新幹線の開業当初から走っていた車両は、ご存じの通り、0系電車です。1964(昭和39)年、東京~新大阪間の開業に合わせてデビューしてから1986(昭和61)年まで、実に22年間にわたって製造され続けました。もともと0系の普通車は、リクライニングしない転換クロスシート(背もたれを前後に動かすことで向きを変えられる座席)でしたが、その後リクライニングが可能になり、快適性が増しました。また、1985(昭和60)年に営業を開始した100系電車は、シートピッチ(座席の前後間隔)が980mmから1040mmに広がり、0系では固定式だった3列座席が進行方向に回転できるようになりました。

続いて開発された初代「のぞみ」用の300系電車では、座席の構造が大きく変わりました。軽量化を図るため、座面を支えていた金属製のばねをなくしたのです。これは高速走行に大きく貢献しましたが、一方で乗り心地が悪くなってしまい、利用者からの評判はあまりよくありませんでした。このため、現在活躍するN700系電車は、金属製のばねが復活しています。

新幹線の座席は時代とともに進化していますが、一方で約30年にわたって変わらないものがあります。それは、座席の数。実は、300系700系電車、N700系は、3形式とも1編成(16両)の乗車定員が1323人で統一されており、さらに1号車は65人、2号車は100人、3号車は85人……というように、各号車の座席数もそろえられているのです。こうすることで、たとえば車両が故障した際に違う形式で運行できるほか、形式ごとに予備を用意する必要もなくなるなど、効率的な運行が可能になりました。

3列席中央は幅が広く、先頭車はシートピッチが狭い

ちなみに、300系の次に東海道・山陽新幹線用として開発された500系電車は、各号車の座席数が300系700系と異なります。そのため、もし500系が故障してほかの車種で運行しなければならなくなった場合、「きっぷに表示された座席が存在しない」という事態が起こってしまいました。500系は、300系よりも早く2011(平成23)年3月に東海道新幹線での運用を終えましたが、その背景にはこうした事情もあったのです。

このように、現在は新幹線の座席数が統一されている一方、場所によってその大きさが微妙に違います。例えばN700系の座席幅は、3列席の中央にあたるB席だけが、ほかの座席よりも20mm広い460mmとされていて、両隣に人がいる圧迫感を軽減しているのです。

また、N700系の先頭車は“鼻”が少し長くなりましたが、1両の長さはそのままなので、客室部分を少し短くする必要が生じました。そのため、中間車はシートピッチが1040mmですが、先頭車は20mmほど詰められています。それでも、在来線特急よりも広いスペースが確保されているため、圧迫感を覚えるほどではありません。ちなみに、グリーン車の座席幅は480mm、シートピッチ1160mmです。

ところで、N700系のうち九州新幹線との直通運転用に導入された7000・8000番台は、普通車指定席のシートが大幅にグレードアップされています。2列+3列の5列から2列+2列の4列となり、座席幅は460mmに統一。ひじ掛け部分も広く、まるでグリーン車のようなゆったりした座席が自慢です。グリーン車もレッグレストを備え、枕部分を大きくするなど、グレードアップしている普通席との差別化を図っています。山陽・九州新幹線東海道新幹線と比べて利用者が少なく、また京阪神~九州間における航空機との競争も激しいため、さらなる快適性が追求されているのです。

電源コンセントに続き、Wi-Fiが当たり前になる

こうした山陽新幹線ならではのサービスは、「ひかりレールスター」としてデビューした700系7000番台を受け継いだものです。これらの車両は8両編成のため、東海道新幹線で営業することはありませんが、山陽新幹線に乗る際は積極的に利用してみるのもよいでしょう。

座席以外に目を向けてみると、乗客から最近とくに喜ばれている設備が電源コンセントです。700系は当初ありませんでしたが、2000(平成12)年に登場した山陽新幹線専用の7000番台「ひかりレールスター」で、各車両のデッキ仕切り壁に電源コンセントと大型テーブルを設置。翌年からは、東海道新幹線に直通する16両編成にも導入されました。この時は1両あたりわずか10か所のみの設置で、しかも仕切り壁にあったため、進行方向後ろ側のコンセントは使いづらい状態でしたが、N700系では普通車の各列側窓下やグリーン車の全席に設置され、利用できる人数が大幅に増えました。

そして、2020年7月に営業を開始する新型新幹線車両「N700S」では、ついに普通車も全席で電源コンセントが使えるようになります。新幹線での移動中に、スマートフォンやパソコンを使う人は多く、そうした人たちには力強い“味方”となることでしょう。

電源コンセントに続いて人気の設備が、無料Wi-Fiサービスです。これまでにも、携帯電話キャリア各社の有料Wi-Fiサービスは提供されていましたが、2018年夏からは乗客の誰もが使えるサービスがスタート。スマホなどの設定で「Shinkansen_Free_Wi-Fi」を選択し、メールアドレスまたはTwitter・FacebookなどのSNSアカウントを登録することで、使えるようになります。現在、Wi-Fiを提供するための機器を各車両に設置する工事はほぼ完了し、ほとんどの列車で利用が可能です。

5月から「特大荷物スペースつき座席」の運用開始

最近は、新幹線バリアフリー化も進んでいます。11号車には車いす対応座席とともに、電動車いすでも利用可能なトイレを設置。このトイレはオストメイト対応となっています。余談ですが、N700系ではすべての大便所が洋式便器となり、さらに一部編成には温水洗浄便座となっていて、より快適に利用できるようになりました。

さらに、この車両には多目的室も設けられ、体の不自由な方でも新幹線を利用しやすくなっています。また、多目的室が空いていれば、体調が悪くなったときや赤ちゃんへの授乳などに利用できるので、必要なときは車掌に相談するとよいでしょう。

そして、2020年5月からは新幹線に持ち込む大型荷物に関して、新たな制度が始まります。指定席車両の最後列が「特大荷物スペースつき座席」となり、幅・奥行・高さの合計が160cmを超えて250cm以下の「特大荷物」を持ち込む場合は、この座席を指定することが必要になります。「特大荷物スペースつき座席」の指定席料金は、ほかの座席の指定席料金と同額ですが、座席数に限りがあるため注意が必要です。

なお「特大荷物スペースつき座席」を確保せずに、新幹線に大きな荷物を持ち込んだ場合は、手数料1000円を乗務員に支払い、所定のスペースに荷物を置くことになります。大きな荷物がある場合は、少し早めに指定席を購入したほうがよいでしょう。

時代とともに、新幹線の座席や設備もどんどん快適できめ細かくなっています。次にどんな設備が登場するか、楽しみです。

横1列に複数の席が並ぶ新幹線車両の車内(2018年3月、草町義和撮影)。