朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

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 中国のIR関連企業「500ドットコム」から賄賂を受け取ったとして、自民党の秋元司議員が逮捕されました。事件はさらに他の議員に広がる可能性を秘めていますが、個人的にはこの事件、その構図から見ても、授受された金額から見ても、「大疑獄」と呼ぶような事件にはならないと感じています。

 一方で不可解なのは、「なぜ国会議員が外国企業から贈賄の『カネ』を易々ともらってしまうのか」ということです。そうしたお金の授受が問題になることは素人でも分かること。なのに、何度も当選している国会議員が、ほいほい現金を受け取ってしまう。これは、明らかに「政治の劣化」の表れだと思うのです。

二大政党制は自民党が割れることで実現する

 こういう話をすると、その原因を「選挙制度」に求める人もいます。つまり、中選挙区制のときには、自民党が政権を取るのが前提で、各々の選挙区では自民党の派閥同士の争いがあった。そういう環境の下で、政治家個々人は派閥の中で政治家としての振る舞いを学び、人間力を鍛えられた。もちろん、そうした派閥同士の熾烈な争いの中で政治とカネの問題はありましたが、金額も案件ももっとスケールの大きな話が中心でした。しかし、これが小選挙区制になると、選挙は政党同士の勝負となった。極端に言えば、それぞれの候補者は政党の駒みたいなもので、「自民党公認」とか「立憲民主党公認」という立場にしてやれば、誰でもいい。だから政治家が小粒になり劣化したのだ――という理屈です。

 その論旨には納得できる部分も多いのですが、だからといっていまさら中選挙区制に戻すべきではない、と私は思います。いま中選挙区制に戻したからといって、政治家の人間育成が急に進む、ということもないでしょうから。

 小選挙区制の導入で想定されていたのは、二大政党制の実現です。そこで大事なのは、二つの主要政党がそれぞれ切磋琢磨することです。それができれば、政治家の人間形成も自然に行われるはずです。ただ残念なことに、小選挙区制が導入されはしましたが、現実は二大政党制には全くなっていません。

 今の選挙制度がきちんとその理念を実現していくためには、まずはきちんと二大政党制をつくることが必要です。日本の改革を進めるためにも、政治家の質を高いものにしていくためにも、そこに期待したいと思っています。

 では、どうしたら二大政党制が実現できるのでしょうか。つい最近まで交渉が行われていた立憲民主党国民民主党との合流に期待すべきだったのでしょうか。実は私はそうは思いません。本質的な二大政党制は、はっきり言って自民党が割れることでしか実現できないと考えています。そして、近い将来、それが現実になることを期待しています。

自民党分割は「あり得る」

 なぜ立憲民主党国民民主党の合流に期待できなかったのか。その理由は明確です。立憲民主党が取っているスタンスは「野党戦略」です。「今の与党に取って代わる」というよりは、「与党がやっていることを徹底的に批判する」という戦略です。このスタンスは、将来的にも野党という立場を貫こうというものですから、本質的な二大政党の一方にはなりません。旧社会党のようなスタンスです。

 対して、国民民主党は、規模や支持率はまだまだですが、今の与党に取って代わってやろうという、何でも反対、ではなく、タブーなく議論しようという与党志向のスタンスです。同じ野党という立場にありながら、見ている風景が全く違います。この両党が一緒になっても、うまく機能するはずがないのです。

 では、自民党が割れていくということなど現実としてあるのでしょうか。私は「あり得る」と見ています。

 安倍政権が長期政権化する中で、自民党の中で、日本の本質的改革を進めようとするグループの存在感が非常に希薄になってきています。安倍政権の前半は、アベノミクス安保法制TPP参加といったような国論を二分するような問題で果敢に勝負をかけていました。それぞれの賛否はあるにしても、そこでは「改革するぞ」という気迫が見られました。ところが、後半はその改革機運は停滞しています。そこで、安倍政権に対して不満を募らせる集団が必ず出てくると思うのです。

 もちろん安倍総理も、日本の本質的な構造改革——例えば年金制度、国と地方の関係、行政の在り方——などを根本的に見直していこうとはしています。問題はそのスピード感です。少しずつ、徐々に改革していこうというグループと、大きく大胆に改革していくグループがあります。現在の安倍政権は、前者のグループが主導権を握っていると言えます。「それでは遅すぎる」と考える集団が、自民党を割って飛び出す。そういう形での二大政党制が望ましいのではないかというのが私の見解です。

小泉進次郎が「近衛文麿化」する懸念

 政界再編というのは、一つが動き出すと一気に大きな流れが出来ることがあります。その意味では、2020年にこうしたことが起きても不思議ではありませんし、私自身はぜひとも起きてほしいと願っています。そのうえで今年、期待したいキーパーソンを3人挙げてみたいと思います。

 1人目は小泉進次郎さんです。小泉さんとは数回お会いしたことがありますし、わが青山社中フォーラムにもゲストスピーカーとして登場していただいたこともありますが、改めて感じるのは進次郎さんには人を惹きつける話し方や強いオーラがあるということです。政治の重要なポイントのひとつに国民の感情を動かしていくことが求められています。そこからすると進次郎さんのカリスマ性やオーラというのは稀有なものです。話の切り返しや聴衆を惹きつける力もとにかくすごい。あの若さで、政治家としての才能を備えているのです。それらを存分に使って、大きく改革を進めていくグループの旗頭になってもらいたいのです。

 ただ、現在の進次郎さんを見ていると、私にはある懸念が浮かんできます。それは進次郎さんが「近衛文麿化」してしまうのではないか、という懸念です。

 近衛文麿と小泉さんは3つの共通点があります。

 近衛文麿1937年昭和12年)、45歳という若さで総理になります。これは伊藤博文の44歳に次ぐ、史上2番目に若い就任でした。進次郎さんも38歳で大臣になるなど、やはり若いころから頭角を現し、国民的期待を集めています。これが1つ目の共通点です。

 2つ目の共通点は、実の親に育てられていないということです。近衛は成人するまで継母のことを実母だと思っていたとされていますが、進次郎さんも両親の離婚後、母親代わりをしてくれた伯母さんを「ママ」と呼んで育ったと報じられています。近衛と進次郎さんは、心象風景として、同じような家族観を持っているとしてもおかしくありません。

 3つ目の共通点は、兄弟に芸能関係者がいるということです。近衛文麿は、弟の秀麿、直麿がともに音楽家になっています。進次郎さんはご存知のように、兄・孝太郎さんが俳優です。華やかな世界で活躍する兄弟がおり、その影響で本人も、他の政治家以上に世の中の関心の的になりやすい存在と言えます。

 近衛文麿小泉進次郎さんに共通するこの3つの要素を重ね合わせて浮かび上がってくる人物像は、常に周囲からの視線を意識しながら、集まってくる期待にできるだけ応えようと、バランスよく立ち回ろうとするものです。それでいながらエッジの立ったことをやっている感を出す能力に長けている。進次郎さんのちょっとした発言が、メディアで大きく取り上げられるのもそうした能力のなせる業です。ただ、バランスよく立ち回るという性格は、悪く言えば、敵をつくろうとしない「八方美人」的なものとも言えます。

 近衛文麿は、この「敵をつくらず八方美人」的性格のため、大切な決断ができなかった政治家です。近衛の第一次政権は、日中戦争に入っていく少し前の時期に成立します。私が見るところ、近衛自身は泥沼化が見えている日中戦争をしたくはなかったはずです。しかし彼は、軍部をはじめ各所の期待に応えようとしてバランスを考えました。その結果、日中戦争に足を踏み入れ、結局政権を投げ出す、ということになってしまいます。

 近衛の第二次・第三次政権はまさに日米開戦前夜の時期でした。この時に近衛は、米国のルーズベルト大統領と首脳会談を持って戦争回避の方向に持っていこうとしていましたが、やはり「敵をつくってまで」というほどの覚悟はありませんでした。結局、日米開戦が避けられない事態となり、近衛はまたもや政権を投げ出してしまいます。近衛の跡を受けて首相になったのが、東条英機でした。

 このように、周りに気を配り、全てにおいてバランスよく立ち回ろうとする近衛には、誰かと激しく対立してでも断固として自分のスタンスを貫くという気概がありませんでした。そういう傾向が、小泉進次郎さんにも少々見えるような気がしてならないのです。

あえて敵をつくる気概はあるか

 また進次郎さんも、非常に人を引き付ける力を持っていますが、現在のところ「これ」という実績はありません。しかし、自身をエッジの効いた存在に見せる技術は長けています。それがまた周囲の期待値を高めてしまうわけなのですが、ただ最近は、国民もそこを揶揄して、進次郎さんの発言を「ポエム」と称したり、平易なことをさも大切なことのように言うことを「進次郎大喜利」などと批判的に呼んだりするようになってきています。しかし、30代であそこまで発信力のある政治家は他に例を見ません。だからこそ叩かれているのでしょう。

 自民党の中で四方八方に気を配りながら、そつなく政治家をこなしていくだけの存在にはなってほしくはありません。高い能力のある人だからこそ、進次郎さんには、大胆な改革を進める旗頭として、自民党と対峙するもう一つの政党をつくる旗頭になってほしいと希望します。例えば進次郎さんは、自民党の非主流派に収まっている石破茂さんと近いので、石破さんと連携して自民党を割るような行動を起こし、そして与党的志向を持つ野党関係者を糾合することもできると思うのです。もしもそうなれば、本格的な二大政党制に大きく近づくことができると思うのです。

 私が期待する2人目の人物は、国民民主党代表の玉木雄一郎さんです。実は玉木さんは私が官僚時代の上司だったので、その人物像や仕事ぶりは良く知っています。どんなに大変な事態に直面しても常に沈着冷静で、前向きで明るくて、キャパシティが大きい人です。行政改革担当大臣秘書官として、石原伸晃、金子一義、村上誠一郎の三大臣に仕えたこともあります。通常、大臣が変われば秘書官も変わるものですが、三人の大臣に仕えたという事実は、玉木さんの有能さと人柄のよさを裏付けるものでしょう。

 その玉木さんが政界に転身され、現在は国民民主党の代表になっています。玉木さんが国民民主党で目指しているのも二大政党制のはずです。要するに、「なんでも反対」の野党戦略ではなく、「将来的には与党になる」というスタンスで党運営をしている。確かに支持率では伸び悩んでいますが、だからといって今「野党戦略」を基本とする立憲民主と一緒になるのはいい方法とは思えません。

 互いに妥協を重ねて合流したとしても、基本思想の違う政党同士ですから、いつかはまた離れ離れになるはずです。であるならば、ここは歯を食いしばって、合流を見送るべきではないかと思うのです。むしろ、自民党内の非主流派に党を割らせ、彼らと組んで与党たりうるもう一つの党をつくる。その方向に進んでほしいと思うのです。

橋龍以降、大きな改革図を提示したのは橋下徹だけ

 期待したいもう一人の人物は、橋下徹さんです。

 私が1997年に当時の通産省に入省した時の総理大臣橋本龍太郎さんでした。政策通でいらした橋本さんは、政策によって日本を変えようとした素晴らしい総理の一人だったと今でも思っています。総理になった当初、橋本龍太郎さんは「5つの改革」を唱えて日本の大外角に手をかけます。当時は金融危機に襲われていたので、「金融制度改革」。さらに「経済構造改革」として、今でいう成長戦略を描きます。また、それまで景気を良くしようとして財政政策を推進した結果、財政赤字が膨らんでいたので「財政構造改革」。さらに行政改革と社会保障改革です。その後、そこに「教育改革」が加わって「6つの改革」と称しますが、これらをやろうと取り組んだのでした。

 今の時点で、橋本龍太郎さんの問題意識を眺め直して感じることは、「当時と現代とで何も変わっていないじゃないか」ということです。金融危機は落ち着きましたし、行政改革にしても内閣人事局が出来るなど進展した部分もありますが、20年ほど前に橋本さんが危機意識を抱いていた課題は、何も解決されていないのです。

 ただこの間、こうした日本の課題を根本から変えなければいけないと主張して、大きな改革の画を提示した人が一人だけいました。日本維新の会を率いた橋下徹さんです。橋下さんは橋本さんの改革などを横目で見つつ、諸政策を改革マインドでもってスピーディに進めるにはガバナンス改革をするしかないと考えたのだと思います。

 即ち、一院制、道州制、首相公選制など統治機構改革からはじまり、経済・財政、社会保障、エネルギー政策、外交・安全保障など、幅広い分野で根本的な制度改革・政策転換を訴えたのでした。

 私が官僚だった当時、霞が関の若手の中にも、「このままでは日本は立ち行かなくなる。大きな改革が必要だ」と主張する人が数多くいました。しかし、現実に政策をつくり、遂行していく仕事をしていく中で、一気に改革することの困難さに直面します。そうした中、霞が関では大胆な改革を実現できないとして、私のように外の世界に飛び出す人も出てくれば、「改革は現実を見ながら徐々に、漸進的に変えていかなければならない」と考える人も出てきます。

 安倍政権の前半は前者的な「急進的」性格が強かったのですが、後半は後者の「漸進的」改革にシフトチェンジしています。橋下徹さんは、明らかに「いますぐ大胆に改革しなければ」という前者的な思考を持った人です。

 これからの二大政党制とは、例えば「保守vsリベラル」という対立軸ではなく、改革に対して「急進的vs漸進的」という軸で形成されるべきではないでしょうか。現在の自民党は「漸進的」な改革を志向しています。であるならば、小泉さんや玉木さん、橋下さんたちに協力し合ってもらい、急進的改革政党をつくり上げてもらい、日本にも真の意味での二大政党制を確立してほしいと思うのです。

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国民民主党代表の玉木雄一郎氏(写真:アフロ)