近年の災害は所構わず発生し激甚化しているが、国際情勢もどこで発火し、燃え上がるか分からない状況である。

JBpressですべての写真や図表を見る

 英国のEU離脱、中東からの米軍の撤退志向、NATO(北大西洋条約機構)の軋みなど、国際社会の安定要因となってきた米国の存在感の低減から混乱要因が山ほど見え隠れしている。

 中国は対米貿易摩擦の影響で経済成長の低下が顕著になり、また台湾の蔡英文総統の高得票再選を受けて、香港・台湾への戦略の練り直しを迫られている。

 その一方で、自由・人権、さらに法を無視した覇権志向が世界秩序の混乱要因であることに変わりない。

 ロシアは冷静崩壊後の弱体化に終止符を打って大国への復権を顕わにするようになり、中国との連携を深めている。

 北朝鮮は昨年後半から米国との駆け引きに出ていたが一時的に静謐を保っている。金正恩朝鮮労働党委員長イランの革命防衛隊の精鋭コッズ部隊を率いて英雄と称えられてきたスレイマニ氏の殺害に肝を冷やしたことも影響しているであろう。

 しかし、核やICBM(大陸間弾道ミサイル)の誇示で米国の関与を排除しつつ、韓国が親北政権のうちに韓半島の統一を容易にする方策を周到にめぐらしているとみていいであろう。

 日本にとっては安穏としておれない、容易ならざる国際環境に突入した2020年と言えるのではないだろうか。

オリンピック年は大事件発生の危惧

 今(令和2、2020)年はオリンピックパラリンピック イヤー(以下五輪年など)であるが、過去の事例を見ると軍事・安全保障の観点からは危険な年でもある。

 夏季五輪だけでなく、冬季五輪やアジア競技大会、サッカーのワールド・カップなども含めた平和の祭典の影で必ずと言っていいほど野望を抱く国が動くからである。

 ではどのような事象が五輪年(前後も含む)に起きたかを概観することは、日本開催の五輪年だけに、平和の祭典と浮かれてばかりはおれない警告にもなろう。

 中国が初の核実験を行ったのは1964年東京五輪期間中であり、その後は「両弾一星」(原水爆・ICBMと人工衛星)の号令一下、宇宙を含めた軍事力増強路線を確立し、覇権国家を目指す足がかりを作った。

 また2008年の北京五輪直前には、長野でのトーチリレーに合わせて行われたチベットの人権弾圧に抗議するデモを、中国人留学生4000人近くが妨害する事件を起こした。

 五輪年に特に油断ならない動きをしてきたのはロシア旧ソ連)である。

 1980年モスクワ五輪では旧ソ連アフガニスタンに侵攻(日米など西側諸国が五輪参加をボイコット)した。2008北京五輪時にはグルジアに侵攻し、2014年のソチ冬季五輪ではウクライナのクリミヤ半島を占領する横暴を働いた。

 北朝鮮絡みでは1968年メキシコシティ五輪年の初頭に青瓦台事件(大統領官邸が北朝鮮ゲリラに襲われる)、74年のアジア競技大会直前には文世光事件(朴正煕暗殺未遂、79年暗殺)、84年ロサンゼルス五輪前年にはラングーン事件(ビルマ訪問中の全斗煥大統領一行暗殺未遂)、そして88年のソウル五輪前年には大韓航空機爆破事件(北朝鮮工作員2人が爆破し115人死亡)が起きた。

 北朝鮮絡みはさらに続き、2002年の日韓共催サッカーワールドカップ時は北の警備艇が韓国領海に侵入して銃撃戦が起き、2010年アジア競技大会時には北朝鮮が延坪島に砲弾を撃ち込んだ。

 中露朝絡みではないが、1972年ミュンヘン五輪ではパレスチナ武装勢力がイスラエルのアスリート11人を殺害した。この年の2月にはリチャードニクソン大統領が訪中し、国際政治に大きな変化をもたらす端緒をつくった。

 1996年アトランタ五輪時は野外コンサート会場で爆破事件が起き、2人死亡、111人が負傷し、2012年のロンドン五輪では2億件を上回るサイバー攻撃に曝され、開会式の照明が消える恐れがあった。

2020年の世界

 以上、五輪年(直近の前後を含む)に起きた事件を概観したが、2020年の世界は情報技術(IT)の発達で、ハード兵器やテロなどによる局所的事件をはるかに超越した、予測しがたい事態が発生しないとも限らない。

 現に東京五輪ではサイバーテロの危険性が懸念される。

 日本では政府・与党一極の驕りや怠慢がもたらす憂慮すべき事案、例えば花見招待者の異常な増加やIR疑惑、選挙違反問題などが頻発している。

 多くの野党はその追及に熱を上げるべく手ぐすね引いて通常国会の開会を迎えたであろうが、本当にそれでいいのだろうか。

 政府・与党が引き起こしている数々の問題を疎かにしていいわけではないが、政府を詰問して日本の国家・国民の安全と幸せを増大させる施策に向かわせたいという愛国心からではなく、単に政府・与党の瑕疵を難詰すればよしというだけにしか見えてこない。

 野党に政府の受け皿となるシャドウ内閣があるわけでもなく、ただ長期政権となっている安倍晋三憎しの感情だけである。

 相手の過失だけを攻撃し、あわよくば倒閣すればこれに越したことはないというのでは、国家と国民にとって無責任な野党であり、真の政治ではない。

 国際政治を見れば、国家主権、民主主義、人権、法の支配といった16世紀以来確立されてきたウエストファリア体制ともいわれるものが存続の危機に直面している。

 一党独裁で言論の自由も人権も認められない強権国家の軍門に下れば、日本人が愛してやまない諸々の価値観が蔑ろにされ、正しく奴隷の生活を強いられることになろう。

旧社会党左派議員の国家観

 手元に平成17年2月号『正論』がある。その中に特定失踪者問題調査会理事(当時)・岡田和典氏の「社会党議員の発言が教える国家の意思」という玉論がある。

 昭和28年当時の社会党左派議員がいかに愛国心をもっていたかを、国会における「李承晩ライン」論戦から思い出させようとしたのである。

「公海におけるわが日本の操業が向こうの武力によって脅威を受けている。国権がまさに犯され、日本の数十万にわたる国民の死活問題であり、大きな脅威を受けておるこの急迫した事態に、これ(日米行政協定24条による両政府による共同措置)がなぜ適用されないのか。安保条約というものが発動されなければならぬ。交渉がアメリカになされなければならないのじゃないか」(赤路友蔵委員)

「アメリカがこの韓国問題に対しましてはまるで傍観の態度をとっておる。日本政府の活動として実力を以ってこれを排除するということではなくて、最後のやむを得ざる段階におきましては、今の国際法上合法な手段でありますアメリカ駐留軍がその任に当たるべきが当然であると思う」(穂積七郎委員)

 両委員は「いたずらに韓国ペースに任せて時間を弄することなく、交渉のパイプは残すものの、直ちに安全保障条約に基づいてアメリカに解決を求めるべきである。軍事力という圧力・担保がなければ交渉など意味がない。(中略)不法な侵略、不当な拿捕・抑留に対抗して国内的にまた国際的にもできることは何でもやるべき」と主張したのだと岡田氏は要約する。

 そして、「当時の左派人士の多くは、軍事力の保有は独立国家として当然のこととし、日本国憲法に異を唱えた」と述べ、「憲法ボケをした現在と違い、普通の考えを持った人たちが生活した時代であった」と述懐する。

 岡田氏は職務がら、当時の委員たちの提言を拉致問題の解決に生かせと主張したのであるが、拉致が北朝鮮の国家犯罪と金正日が認めた後の野党は拉致問題を然程追求することもなかった。

 安倍首相がいくら自分の内閣で拉致問題を解決する意志を持っていても、何かと言えば「人権」を主張する野党が他人事みたいに口をつぐんでいては、(最悪の選択としては武力をもってでも被害者たちを取り戻したい)日本国民の総意が北朝鮮に届くはずもない。

今日の左派系議員たち

 その後の野党は、国際情勢がさらに厳しくなったにもかかわらず、国家の安全保障・防衛においても無関心の体で、倒閣の一本で時間を浪費している。

 川久保剛・麗澤大学大学院准教授は最近の論文「左派系野党はどこに向かうのか」(『正論』令和元年11月号所収)で、かつての(有識者)左派は「愛国左派」であったが、今日は対極の「反日左派」でしかないと言い、次のように述べる。

「(かつての左派は)日本人としての自覚があり、日本人として『人類益』に貢献したいという気持ちがあった。言い換えると、日本の伝統的価値観や歴史的経験、現在の国力を生かして『人類益』の増進に寄与したいという思いがあった。人類愛と共に祖国愛があり、しかもそれが一体の関係におかれていた」

 しかし、今日は「世界のあり方を示し、そのために日本は何をするべきかを論じる左派が消えてしまったように思う」と述べ、愛国左派でなく反日左派になってしまったからだと断言し、小田実と上山春平の両氏を愛国左派の人物として例示する。

 小田は「『平和憲法』を日本の誇りとする人がいたものだが、強大な軍事力を今は持ち、日米が強力な軍事連携を形成する現在、誇りはただの自己満足に過ぎない」とし、「『平和憲法』の『護憲』を叫び、『第九条』をおらび挙げ』ていれば『日本は安泰、世界は変わる』と考えるのは『甘い幻想』である」と言い切っていた。

 こうしたことから、川久保氏は小田を9条肯定派であったが、反日的左派とは異なっていたとみる。

 小田は日本人を根本的に平和愛好的と考え、日本文化の本質は「もののあはれ」の精神に示されており、「戦力放棄を謳う九条は、そのような日本の『もののあはれ』の感性に見合ったもの」とみていたからだという。

 これに対し、「(今日の)『反日』的な左派は、日本人は本質的に軍国主義であり、世界の中でも有数の好戦的な国民であると見なしている。それゆえ、戦力放棄を謳う九条で日本人の好戦性を押さえつけておかなければならないと考えている」という。

 しかし、この考えは「自国に対して民族差別的な見方」であり、その背景に「『日本=悪玉』史観ともいえる東京裁判史観の影響があろう」と分析する。

 上山の九条論は哲学者らしくやや込み入っている。

 川久保氏は「九条に盛り込まれた『武力放棄』の理念の実現は、日本=『枢軸国』に対してだけでなく、『連合諸国』に対しても課せられていたはずだ、言い換えると、人類の『共同責任』だったはずだ」と上山は指摘したという。

 そして「自衛隊はたしかに憲法違反の疑いがあるが、その責任を日本政府や保守政党にだけなすりつけるのは、どんなものだろうか。よく考えてみると、それは全人類の責任なのではあるまいか。(中略)まわりの国々が肩をいからして国家主権を主張し、強大な軍備をたくわえて、力にモノをいわせる外交に専念している現状では、いまくらいの規模の軍隊をもつのはやむをえないのではないか」と、自衛隊是認論を述べているというのである。

『1984年』の世界

 台頭著しいい中国の動きがこれまで以上に焦点になろう。

 中国は平然と約束を破る国である。一帯一路に関わる国の多くでインフラ整備が進められているが、契約通りに進んでいないとの報告が多い。

 これはひとえに、超過債務で「債務の罠」に陥るばかりでなく、工事の遅延や環境破壊など、契約内容に違反する行為が目立つからである。

 科学技術の進歩が監視という網を通して、人間の虐待に繋がろうとしている。こうした世界が日本の至近距離にある国で行われ、世界を席巻するかもしれない情勢に向かいつつある。

 ウイグル人の強制収容、違法な臓器の売買移植など、断片的な情報が飛び交うが、取材の制限で真実の解明ができない。

 日本関係でも、安倍首相の重なる要請にもかかわらず、犯罪内容を明かさない日本人の拘束と判決が続いている。尖閣諸島の領海侵入も頻度を増しており、領空侵犯に対するスクランブルも増大の一途である。

 中国が支配する自治区ばかりでなく、日本(人)に対する行動においても暗黒に包まれた面が多く、ジョージ・オーウェルが描いた『1984年』の世界が実感させられるようである。

 一衣帯水で領土を接する大陸に暗黒の巨大国家が出現しては、日本の行く末が案じられる。米国の対中関与も暗黒の世界の排除と普遍的価値観の共有に向けた熾烈な闘いとみてよい。

 日本の闘いは日本のためであり、決して米国やその他の国のためではない。ともあれ、最大の軍事力で対処する米国の戦列に日本が加わるのは当然すぎるほど当然である。

 一端、想像されるような暗黒の世界が出現したら、反対者はテレスクリーン(『1984年』の中の監視網)で直ちに発見され、粛清されよう。強権抑圧政治に対抗する勢力は消され、一部の権力者の世の中となり、大衆はまさしく奴隷と化すほかないのである。

 これ以上に日本の安全を損なう危惧はない。そうした危惧をもたせる国の主席が日本に国賓として招かれようとしている。

 この来日は日本のあり様や存立に関わる大事であり、憲法と自衛隊の関係と共に国会で野党が率先して論戦に挑まなければならない問題である。

おわりに:
犬猿の枝野・玉木ではないのか

 このように日本が存立する国際情勢が厳しい中にあって、野党は合流ごっこに明け暮れている。何たる視野狭窄症であろうか、呆れてものが言えない。

 そもそも民進党が分裂した最大要因は、左派的議員と右派的議員の政党では一本に纏まることができないという理念の違いからではなかったのか。

 その根本には憲法観やエネルギー政策の違いがあったであろう。立憲民主党を立ち上げ代表となっている枝野幸男議員の信念とやらも、疑わしいと言わざるを得ない。当人の意識には憲法9条では日本がなりゆかないという認識があったはずだからである。

 また、ジャーナリスト氷川貴之氏の「枝野・玉木―犬猿の二人『密談』の中身」(『WiLL』2019年10月号所収)によると、枝野氏は「党同士の数合わせには与しない」「政策が違う党で統一会派を組んだり、一つの党になったりするのは野合だ」と断言し、大きな塊の野党を主張してきた玉木雄一郎国民民主党代表らの野党を無視し続け、常日頃から「絶対に並んで写真を撮られたくない」と公言して玉木氏を忌み嫌っていたという。

 一寸先は闇の政治ではあっても、政治家の基本は理念であり、共有する理念の実現を目指すのが政党であろう。

 ただ政権与党にダメージを与え、安倍政権を倒すだけでは、野党の一時的な満足感と政治の混乱をもたらすだけである。

 混乱を喜ぶのは極く一部の政党でしかなく、大多数の日本国民ではない。国民のための政治の基本に帰ってほしい。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  海自派遣を政争の具にする主要野党の狭い視野

[関連記事]

韓国に奨めたい共産主義の体験

北海道の植民地化を着々と進める中国

オリンピック開催の年は世界中で大事件が発生している。写真は水泳の競技