―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―


◆<第29回>NHKから移動し30分後にはステージへ。深夜の凱旋ライブでも頑張る48歳

 国民的テレビ番組に生出演し、そのステージを務めあげる――言うまでもなく、紅白歌合戦に出演する歌い手アーティストの任務である。だが、酒井一圭にはこれに匹敵……いや、来たる2020年を踏まえればそれ以上と位置づけてもいい重要なミッションを背負っていた。

 紅白における純烈の楽屋は前年と同じで、NHK本社社屋8階一番端の会議室。何しろおびただしい出演者数のため、ホールの部屋だけではまかなえない。

 そこは長い長い廊下の向こうにあり、大晦日とあって途中の部屋の電気は消えている。6月のNHKホール単独公演では、個室トイレつきのメイン楽屋を味わったものの、陸の孤島のようにポツンと離れていた方が落ち着けた。

 そんな会議室の扉をコンコンと叩く音がするたびに、酒井は身構える。紅白では「楽屋御見舞」としていくつもの差し入れが届く。各出演者のマネジャーが持ってくる、いわばエールの交換のようなものだ。

 純烈の場合、4人いるから複数のものであれば分けて持ち帰るが、1個しかないものはじゃんけんで決めるなどして盛り上がるのが楽しい。ただ、これだけは自分が確保しなければというものが酒井にはあった。

ジャニーズ事務所さんからもいただいたんですけど、それが嵐さんからの楽屋御見舞で。これを確実にゲットして奥さんに渡すのが最大のミッションなんです。まかり間違ってほかの者の手に渡り、年が明けて家へ戻った時になかったら『あんた、何しに紅白へ出たの?』となる。それほどウチの奥さんは嵐好きで。

 だから、嵐さんの熨斗紙がついたそれを渡せば、その年一年は何があっても円滑に僕のことをサポートしてくれる。つまり、純烈の力になってもらえるということなんです」

 酒井いわく美紀夫人は純烈にはあまり興味がなく、嵐関連の動向によって家庭内の空気が豹変するほどだという。たとえばコンサートのチケットが取れなかったりしようものなら、その不機嫌電波は旦那に向けられる。

 その一方、そうした反応を日常の中でぶつけられることによって、純子と烈男がチケットを押さえるにあたりどんな思いをしているか疑似体験できる。そしてそれをMCのネタにも持っていく。

「今こそこうなっているけど、奥さんは純烈が世に出る前からすべてを知っているんですよ。まだ形になっていない時点で僕が頭の中にある構想を喋って、それを聞いてもらっていたから。仕事の現場には興味ないし見ていないけど、考えていることはわかっている。

 もちろんそれに対し意見を言うことなんてなくて、完全な聞き役です。ほとんどが右から左に抜けていっているんだろうけど、その時のリアクションが純烈をやる上でのヒントになっている。『それ、いいんじゃない』と思われたことはやらずに『へぇー』ぐらいのことを純烈ではやる。なぜなら、奥さんが反応しないことがウチの客層で、反応することはジャニーズだから」

 ジャニーズとは違うところを突き詰める上で、美紀夫人の嵐推しが重要な判断材料となっているのだ。そんな家庭内事情を知ってか、酒井がその楽屋見舞に伸ばした手を止める者はおらず。暗黙の満場一致により無事、リーダーはお宝をゲットしたのであった。

 あらゆるミッションを終え、他の出演者とともに新年を迎えたあと純烈はお台場へと向かった。昨年に続き“凱旋ライブ”をおこなうためだ。

NHKホールから東京大江戸温泉物語へ直行

 初出場となった2018年も、その足で草加、厚木、相模原と3か所の健康センターを回って2019年スタートさせた。圧倒的にきらびやかな紅白のステージを目指しながら、自分たちのホームリングがどこなのかは見失っていない。

「一年のスタートをここから始めないと自分たちが何者なのかわからないっていうようになっちゃうと思うんです。一年間の感謝とともに、誰よりも早く2020年スタートさせないと。できる人が寝ているスキにやらないと、勝てないですもん」

 2年目となる凱旋ライブの会場は、年間を通じ定期公演をおこなっている「東京お台場大江戸温泉物語」。ファンにとってそこは聖地であり、施設としてもスキャンダル以後の純烈をバックアップしてきた。

 この凱旋ライブは事前に開始時間を決めず、メンバーが到着後にスタートすると告知されていた。にもかかわらず何時間も前から熱心なファンが大江戸温泉に集まってきたこともあり、ステージとなる大広間・中村座で紅白を放送。畳に座り4人+DU PUMPによる晴れ舞台を見守った。

 深夜2時前に会場へ着くと、自宅で紅白を見てから駆けつけた組も加わり、大広間はいっぱいになっていた。同じ頃、メンバーも到着。開始時間は未定なのだから少し横になるだけでもだいぶ違うはずなのに、30分ほどの取材を済ませるとすぐにステージへと向かっていった。丑三つ時のライブが始まった。

『星降る街角』『純烈のハッピーバースデー』からスタートし、MCへ。酒井が「思ったより眠いやろ?」と振ると、最年長の小田井涼平がカラ元気を見せるかのように「僕はメチャクチャ元気よ。龍に乗ってきたから」と数時間前、NHKホールで見た氷川きよしパフォーマンスをマネし、ハリのある声で『限界突破』の一節を歌いあげるも、白川裕二郎に「でも、さっき楽屋に入っていったら座布団の上で寝てました」とバラされる。

 そこからはライブに足を運んだ純子&烈男だけが、どこよりも早く知ることができる紅白話へ。そのオープニングが、Foorinとともに出演者も一緒になって『パプリカ』を踊るという趣向だった。

 前夜のレコード大賞でもFoorinが不在だったため、そのVTRに合わせて純烈ほか優秀作品賞を受賞したアーティストが舞台で踊り、祝福していた。つまり4人は、2日続けて『パプリカ』を踊った。

 紅白のオープニングでは階段状のセットとなっており、純烈は最後部中央に並んでいた。揃って背が大きいため、前の方に立つと見えない出演者が出てくるからだ。そこは日本を代表する有名人たちの後頭部が見放題。これも純烈を続けてきた特権なのかもしれない。

 中でも、小田井が動くと階段がグラグラと揺れた。小学生を相手に必要以上の負けじ魂を発揮しシャカリキになるも、見様見真似なダンスのため腕ぐらいしか動かせず。

 そのため表現が激しくなり、白川にいたっては「手とかすごい当たる」実害を被った。本人的には「どうだ見たか! オッサンだってやればできるんや」とドヤ顔だったが民意は違ったようで、ネット上では「純烈のおじさんうるさい」のひとことでバッサリと斬り捨てられていた。

「孫といってもおかしくないほどのFoorinへの対抗意識をムキ出しにした」(酒井)結果、紅白用に仕立てたばかりだった衣装のワキの下が自分たちの出番前に破けた。張りきったのに、何もいいことがなかった。世の中、そういうものである。

「小田井さんのような頑張る48歳、今どきテレビじゃ見られませんよ。DA PUMPと一緒にやった時も小田井さんが騒がしいから気配を感じて振り向くんです。DA PUMPは人を立てるけど、問題はあなたですよ。Foorinを負かそうとするんだから」

「いやいや、負かそうと思ったわけじゃないよ。あれほどたくさんいる中で、何回か映ればいいなぐらいに思っていたのが、あんなに映されるとは思わんかったわ。衣装一着台無しにした結果が『純烈のおじさんうるさい』やで。君たちも巻き込まれとったよ。全員、名前さえ書かれておらんというな」

 酒井に突っ込まれつつも、ユーモアで返す小田井は夜中の3時近くになっても頑張る48歳だった。整理番号1番(この日は入館料以外無料公演)の人からリクエストを受け付け、それを今から歌うというファンにとっては夢のようなお年玉企画。

「小田井さん、歌入りと今歌うのはどちらがいいですか?」
「歌入りとなると……AI小田井になるな」

 歌入りというのは純烈によるボーカルコーラスの入った通常ヴァージョンで、カラオケだったら生歌を披露するというもの。前者であれば、歌が入っているからそれに合わせて何かができる。そこで小田井が口にしたのは、今年の紅白で話題となったAIだった。

美空ひばりさんのAIを見た時、横で『俺がAI小田井涼平になったらどうする?』って聞くんですよ。何言っとんや、このオッサンと思いつつも『面白いとは思うけど、ほなら紅白終わったあとのお台場でAI小田井できるものなんですか?』って聞いたら、じゃあ『六本木は嫌い』を歌入りならって言っていたんです。そうしたら今、六本木リクエストされました!」

「見切り発車すぎて何も練習していないので、ワンコーラス」という条件つきながら、小田井は音源にボーカルを任せ、じつにAIっぽい動きで自身の持ち歌である『六本木は嫌い』を聴かせた。終わるやいなや酒井が「なんで普通にできんねん? 昨日今日じゃできないですよ」と驚きの声をあげるほどのクオリティーだった。

 紅白リハーサルの時点でAI美空ひばりを見て「これはいける!」と思い、密かに自宅で持ち歌全曲をシミュレートしたらしい。そんな小田井コーナーのあとは『桜よ散るな』『ふたりで一緒に暮らしましょう』『アカシアの白い花』と、3曲とも後上翔太がメインボーカルを務めるナンバー。この間、他の3人はマイクを置いてラウンドを繰り広げる。普段はマイク片手で回るが、この日は両手を握れるとあり、ファンも大喜びだ。

 もちろん後上も、歌いながら手を差し出す。一人で3曲歌いあげた頃には3時15分を過ぎていたが、その空間の中ではあまり深夜という感じがしない。それはメンバーが、どんな時間帯であろうともいつもの純烈のノリでオーディエンスと接していたからだ。

 ファンからのリクエスト、AI小田井、後上曲3連発と、通常のステージとはちょっと色を変えることで4人も楽しむような形となった凱旋ライブ。「もうやめようよ、体に毒だよ」などとMCでは言いつつも、終わらせようという素振りがまるでない。

 酒井は壇上からクラウンレコードアーティスト担当・新宮崇志と、マネジャーの山本浩光を呼ぶようスタッフに指示。呼び込み用にアカペラで歌ったのは、夏の甲子園でお馴染み『栄冠は君に輝く』……2人がいずれも元高校野球球児であることは、ファンの間では広く知られている。

 まさか真夜中にこの曲を聴くとは……NHKにおける冬と夏の看板番組を、世の中が寝静まったスキを見て数時間で勝手に網羅する純烈だった。

撮影/ヤナガワゴーッ!

鈴木健.txt
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボールマガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』が発売

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紅白から日付変わって、元旦の午前2時半、凄まじいテンションを見せつけた小田井涼平