海外VIPの来日時や皇室行事、あるいは大相撲などで演奏している自衛隊の音楽隊ですが、音楽を主任務とする彼らの「ふだん」は、やはり音楽漬けの日々なのでしょうか。陸自中央音楽隊の現役隊員に、その実際のところの話を聞きました。

自衛隊の「音楽隊」における「日常」とは?

陸海空の自衛隊は、いずれにも音楽隊が設けられており、外国の軍隊における軍楽隊にあたるものです。「隊員の士気高揚のための演奏」が主任務といい、定期コンサートなどを開いているほか、たとえば大相撲千秋楽でも、国歌斉唱などの際にその演奏を耳にする機会がありますが、ふだんは何をしているのでしょうか。やはり音楽漬けの毎日なのでしょうか。

ひと口に「自衛隊の音楽隊」といっても、陸海空で少々、その様相は異なります。共通しているのはいずれにも、防衛大臣直轄の部隊がひとつずつあることで、このほか各地域を管轄する、陸上自衛隊の各方面隊に5隊、海上自衛隊の地方隊に5隊、航空自衛隊の航空方面隊に4隊置かれ、さらに陸上自衛隊は師団や旅団の音楽隊が15隊、編成されています。

なぜ陸上自衛隊だけ多いのか、陸上幕僚監部広報室に問い合わせたところ「陸上自衛隊はほかと比べ人数が多いので、そのぶん士気を上げなくてはならない人数も多いからでしょうね」とのことでした。

普段の生活は、やはり音楽漬けなのでしょうか。陸上自衛隊中央音楽隊の守屋3佐は「演奏会があるたびに、日頃からその準備のため、合奏訓練や個人の練習など欠かしたことはありません。確かに練習漬けの一面もあります」としつつ、「それだけでなく数々のデスクワーク、演奏会の調整業務、クルマの運転や整備に至るまで多くの仕事を両立させています」といいます。

自衛隊の音楽隊 演奏の場は「特別儀仗」から災害派遣先まで

陸上自衛隊中央音楽隊の隊員は、隊内では「音楽科職種隊員」という肩書になりますが、陸上自衛官でもあり、演奏以外の訓練や任務もあるそうです。守屋3佐は「音楽科隊員として特別メニューがあるというわけではなく、体力検定、射撃検定、格闘訓練などはほかの職種部隊と同様に行っております」と話します。

「演奏以外の任務としては、当直勤務あるいは駐屯地の警衛勤務のほか、災害派遣活動(演奏を含む)に参加した経験があります。また、中央音楽隊は全国の音楽隊員に対する教育も行っております」(陸上自衛隊中央音楽隊 守屋3佐)

災害派遣時も、いわゆる通常の任務のほか、被災者に対する慰問演奏活動をすることもあるそうです。

「中央音楽隊は、東日本大震災などにおいて災害派遣演奏を実施した経験があります。また、これらの任務に従事する隊員に対する演奏も、我々音楽隊の任務のひとつです」(陸上自衛隊中央音楽隊 守屋3佐)

演奏に関する任務として守屋3佐は「『特別儀仗』はテレビでご覧になったことがあるかもしれませんが、中央音楽隊は、各国の首相、大統領などが来日された際、お出迎えのための式典演奏をします」といいます。このほか、恒例行事の「自衛隊音楽まつり」、皇室行事、海外演奏、自衛隊観閲式、CD録音協力、オリンピックなどのスポーツイベント、大相撲千秋楽での「君が代」、また「ニコニコ超会議」といったイベントなどを挙げます。

陸上自衛隊で音楽隊員になるためには?

では、そのような音楽隊員になるためには、どうすればよいのでしょうか。

守屋3佐は「陸上自衛官の採用試験に合格していただくのももちろんですが」と前置きしたうえで、「音楽科職種説明会におきまして実技体験、ソルフェージュ(読譜)、口述試験を受験していただく必要があります。そこで音楽隊員になるための素養があると総合的に判断された方が、音楽隊員になることができます」といいます。

陸上自衛隊音楽隊は日本全国で21個ありますが、音楽隊を希望する受験者は毎年人数も多く、狭き門となっています」(陸上自衛隊中央音楽隊 守屋3佐)

なお楽器ではなく「歌」で所属する隊員もいるといい、守屋3佐によると「陸上自衛隊中央音楽隊陸上自衛隊中部方面音楽隊には歌手専門の女性隊員が所属しており、国歌斉唱だけでなく幅広い演奏ジャンルにわたり活躍しています」とのことです。

2019年6月16日、東京芸術劇場にて開かれた「創隊68周年記念 第157回定期演奏会」より(画像:陸上自衛隊中央音楽隊)。