コンゴとルワンダの国境に位置する「キブ湖」は、総面積2700平方kmを誇るアフリカ有数の巨大湖です。
キブ湖周辺に暮らすコンゴやルワンダの漁師たちの漁場ともなっていますが、彼らにはある不思議な伝統があります。
それは、キブ湖の漁師しか知らない言語が存在することです。
「アマシ(Amashi)」と呼ばれるその言語は、ルワンダやコンゴでも使われておらず、キブ湖周辺に住む漁師しか使えないそう。
一体、どんな秘密が隠されているのでしょうか。
「アマシ」を使った漁師の歌
アマシは、キブ湖の漁師同士が湖上で漁の調子やその日の仕事についてコミュニケーションを取る際に使用されます。
また、漁に出る際は、豊作を祈って、アマシを使った漁師の歌が歌われます。
その歌がこちらです。
歌には、複数人で歌うハーモニーや口笛も取り入れられており、歌詞には「勇敢であれ」とか「神のご加護がありますように」といった内容が含まれます。
キブ湖で漁師をするネルソン・ハビマナさん(28)は、「父も祖父も漁師で、二人からアマシを教わりました。キブ湖で漁をする人はみんな使えますよ」と話します。
ただツラいのは他の地域から漁師としてキブ湖にやってきた人です。ジャック・ベニマナさんは、「最初はアマシをまったく知りませんでしたが、他のみんなが使ってたので、一から勉強しました」と言います。
「アマシ」の謎めいた起源
ルワンダ言語・文化協会の研究員によると、アマシがキブ湖の漁師に使われるようになった起源は、いまだ謎めいているようです。
最も有力な説として、次のような逸話があります。
昔、ルワンダ人が、未婚なのに妊娠した地元の女性たちを罰としてキブ湖の島に置き去りにしました。その際、コンゴ側の漁師たちが、女性たちを引き取り結婚します。その中で、ルワンダとコンゴの言葉が混ざり、アマシができたようです。
それ以来、キブ湖の漁師の内でアマシが定着していったといいます。
しかしその一方、漁師の間でも、純粋なアマシはなくなってきているといいます。というのも、現在のアマシは、コンゴ側の漁師とルワンダ側の漁師とで使われ方が少しずつ違っているのです。
また、アマシを使える漁師の数も年々減ってきており、キブ湖独自の言語が、歴史の闇に葬り去られることが懸念されています。そのため、地元の言語学者たちは、キブ湖の漁師たちと協力し、アマシの録音や記録などの保護活動を進めています。
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