【識者コラム】縦に速い攻撃とハイプレス、リバプールにつながる1980年代ミランの革新的戦術

 リバプールが止まらない。第23節のマンチェスター・ユナイテッド戦も2-0で、第24節のウォルバーハンプトン戦にも2-1で勝って開幕からの無敗(22勝1分)をキープ。2位のマンチェスター・シティとの差は、1試合未消化のなかで16ポイントもある。ちょっと気は早いが、今季のプレミアリーグ優勝は決まったようなものだろう。

 リバプールといえば縦に速い攻め込みと、それに続くハイプレスである。3トップのモハメド・サラーサディオ・マネロベルト・フィルミーノが速くて強力、ジョーダン・ヘンダーソン、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、アレックスオックスレイドチェンバレンらMF陣のボール奪取力が高い。今季は攻め直しも多用しているので、一見ポゼッションも採り入れているように見えるが、スペースがなくなった時に相手を釣り出すためにボールを下げているだけなので、基本的な戦い方は変わらない。相手が前に出てくれば、また素早く縦へ攻め込んでいく。

 リバプールのストロング・スタイルは、イングランドの伝統にも合っている。最初の国際試合、スコットランドイングランドが行われた時から、イングランドのロングパス戦法とスコットランドのショートパス戦法というスタイルの違いがあったという。この2つのスタイルはその後もそれぞれに発展し、時代によって覇権を握ってきた。

 ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いて三冠を成し遂げたバルセロナは、近年のショートパス・スタイルの最高峰だった。しかし、その前は1980年代の終わりにプレッシングとゾーンディフェンスを組み合わせたACミランが頂点に立っていた。こちらはロングパス戦法とは言わないまでも、考え方はそっちである。プレッシングの発想は、パスをつないで崩すよりも敵陣にあるボールを奪ってしまえば手間が省けるというものだからだ。守備の革新で、攻撃力を増強していた。これは現在のリバプールにつながっている。というより、ミランのアリゴ・サッキ監督が参考にしたのは、1970年代に強力だったリバプールなのだ。

 戦術の進化の仕方は、同じところを回っているように見える。1970年代に全盛だった4-3-3システムは、80年代以降すっかり見なくなっていたが、現在はまたメインのシステムに返り咲いた。

そのうちリバプールの模倣者が次の波にさらわれていく

 攻撃が優勢になったら、次には守備が優位になる。ただ、同じようなことを繰り返しているようでいて、やっぱり前には進んでいる。リバプールのプレスは、かつてのミランのそれとは違っていて、元に戻っているわけではない。戦術は回りながらも、転がるように前に進んでいるのだろう。

 プレッシングのミランが登場してきた時は衝撃的だった。ゆっくりとパスをつないで組み立てていこうとする古典的で技巧的なチームは、ことごとくミランのハイプレスに食い尽くされていた。だが、そのミラン方式のプレスが世界的に普及した頃、今度はスペイン代表とバルセロナが規則的な守備戦術の隙間を突くパスワークで、ミランの追随者たちを総ナメにしてしまう。

 今は、バルサの戦術をようやく吸収したチームがリバプールのカモにされている。そして、そのうちリバプールの模倣者が次の波にさらわれていくのだろう。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

第24節のウォルバーハンプトン戦に勝利し、リーグ戦無敗をキープしたリバプール【写真:Getty Images】