airship-1140366_640_e

Reimund Bertrams from Pixabay

 想像して欲しい。あなたがいるその部屋の壁も、床も、天井も、それどころか建物全体や配線・配管の類までキノコでできていたとしたら?

 木材やコンクリートといった建材はもはや過去のものだ。街全体がキノコでできており、成長しては死に、また再生するという大いなる循環の中で人々の暮らしが営まれている――。

 こんなことを考えているのは、ヨーロッパの真面目な学者たちだ。

―あわせて読みたい―

死後はキノコの苗床に。埋葬後に発芽し遺体がキノコの養分となる「キノコの死装束」がまもなく登場
鉱山から採掘するより、電子廃棄物からの有価金属を回収する方が経済的にお得なことが判明(国際研究)
プラスチックを食べるキノコが世界的なゴミ問題の救世主となるかもしれない(英研究)
不思議の国のアリスの世界かな?キノコにバクテリアを3Dプリンターで印刷することで発電キノコが誕生(米研究)
蓋をした瓶の中で40年以上。青々とした葉を保ちながら生き続けているツユクサのテラリウム

未来の建築資材としてのキノコの可能性

   そのビジョンは、未来の建築資材としてのキノコの可能性を調査した世界初の論文、『Emerging Technologies』12月31日提出)で語られている。

 論文では「生きた真菌の菌糸体を利用して、構造基質を開発するよう提案する」と述べられている。

 このアイデアは、破壊的な温暖化への対応策として考案された。その狙いは、生物素材から成長する建材を使うことで、建築のさいの化石燃料や鉱業への依存を減らすというものだ。

 論文の著者であるオランダ、ユトレヒト大学のハン・ウーステン氏によれば、真菌素材はフォーム状、木材状、ポリマー状、エラストマー状など、幅広い特性を獲得できるという。「木材状の素材を作れるのなら、建築にも利用できるでしょう」とウーステン氏は話す。

cave-114261_640_e

Reimund Bertrams from Pixabay

生きた建材で実現される循環型経済


 じつはキノコで建物を作ろうというアイデアは新しいものではない。たとえばNASAなども、火星でキノコを育てることができれば、低コストの建材として利用できるかもしれないと考えている。

 だが、従来のアイデアはいずれも、頑丈な建材を作り出すためにキノコを殺す。1本の生きたキノコの中で暮らす可能性が模索されたことはない。

 「我々の素材のウリは、生分解性で、循環型経済実現へ向けた一助になるところです。それと同時に、利用している間に分解しては建材としてはまずいでしょう。この相反する要素はコーティングで対応できます。実際、木材だってオイルで防腐処理をしますよね」とウーステン氏は説明する。

 彼らが目標とするのは、コーティングを施してもなお生きているキノコ建築だ。これでできた建物は、補修や改修が必要になれば、水をやって若返らせることで、さらに成長させ、実施される。

mushroom-3800390_640_e

Enrique Meseguer from Pixabay

キノコの内部ネットワークを配管や配線に利用


 また、このコーティングを利用することで、キノコ内部のネットワーク構造を配管や配線として最大限に活用することができる。

 ただし、このアイデアは、あくまで理論上のものであることに注意が必要だ。

 研究グループの1人、イギリス、西イングランド大学のアンドリュー・アダマツキー氏は、現在キノコを使った神経形態学的回路などの開発に取り組んでいるが、従来の配線の方が安上がりで、楽であることは認めている。

 しかし、従来の回路にはない「自己成長、自己構築、自己修復」といった特徴は大いに魅力的である。

 「難題ですが、建物が成長、自己修復、適応する方法や、地産地消の建材で従来の建築ではかかってしまう運送や生産上のエネルギーを最小限にする方法を模索するチャンスです」とデンマーク王立美術院のフィルエアーズ氏は話す。

 彼らが目指すのは、建築の循環型経済だ。

iStock-1165996300_e

dottedhippo/iStock

References:These Researchers Want You to Live In a Fungus Megastructure/ written by hiroching / edited by parumo 全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52286901.html
 

こちらもオススメ!

サイエンステクノロジーについての記事―

生物学の教育は早期から。巨大化した微生物やウイルスのぬいぐるみを使った人形劇(イギリス)
がん細胞だけを殺す免疫細胞が発見される。万能ながん治療の開発につながると期待(英研究)
史上初、原子が結合・分離する様子がリアルタイムで撮影される(独英研究)
脳に知識をダイレクトにアップロードする方法が判明(米研究)
未来のドローンは鳥型になるかも?鳩の翼を持ち機敏に空を飛び回れるハトボット(PigeonBot)

―植物・菌類・微生物についての記事―

氷河の中から未知の古代ウイルスが発見される(チベット)
宇宙でも、都会でも。驚くほど速くぶどうのように実るミニトマトが遺伝子編集で誕生(米研究)
ただ反応しているだけではない。単細胞生物は自ら意思決定している可能性(米研究)
巨大な球となって転がって人を襲う怖い植物、タンブルウィードの襲来で下敷きになる車が続出した件(アメリカ)
ブロッコリーってこんなに種類が!? 97種の異なるブロッコリーを1枚の写真にまとめてみた
巨大キノコの中で暮らしたらどうなるか?科学者が未来の建築資材としてキノコの可能性を模索中