1月19日、日米安保条約が改定されて60年を迎えた。

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 日米同盟は歴史上最も成功した同盟といわれている。冷戦時、ソ連の脅威に対する抑止力としてNATO(北大西洋条約機構)と共に、日米同盟は西側陣営の重要な役割を果たした。

 冷戦終焉後は、湾岸戦争での日本の「小切手外交」などの不手際もあり、日米の連帯感は地に堕ちた。

 その後「同盟漂流」に近い危機的状況が続いたが、1996年には日米共同宣言で日米同盟の再定義がなされ、冷戦後にふさわしい同盟のあり方に進化した。

 日米同盟は日本の防衛にとどまらず、国際社会の公共財として位置づけられ、今ではインド太平洋地域、ひいては世界の平和と安定の基盤としての役割を果たすようになった。

 だが近年の中国の急激な台頭、北朝鮮核ミサイル開発、そして中東地域の不安定化が顕著になるにつけ、日米同盟にも綻びの兆しが見え隠れしないでもない。

 最大の要因は日米同盟の宿痾とも言うべき「片務性」にある。

「基地の提供」の代わりに「安全を保障する」という「非対称性」は、日米相互の国益にとってウイン・ウインであり、論理的には「双務的」である。

 だが、感情的にはやはり「片務的」に映るのもやむを得ない。

 米国の力が相対的に低下してきた現状において、この「片務性」「不公平性」はなおさら目立つようになってきた。

 是非善悪は別にして、日本の存立にとって日米同盟は不可欠であるのは事実である。

 米国のドナルド・トランプ大統領がしばしば口にする「片務性」が、今後、同盟の「蟻の一穴」にならぬよう日本もさらに努力する必要がある。

 脅威認識を含め、価値観や認識に相違があれば、直ちに修復していかねばならない。

 例えば弾道ミサイル防衛である。

 日本は専守防衛の下、日本に飛来するミサイルは日本が弾道ミサイル防衛で対応し、第2撃以降のミサイル攻撃に対しては、弾道ミサイル防衛と共に米軍の打撃力によって防ぐのが日本の防衛構想である。

 政治家もメディアも無条件にそう信じて疑わない。

 だが、現行の規則や「日米防衛協力のための指針(日米ガイドライン)」は果たしてそうなっているだろうか。

 実は長年、日米同盟に胡坐をかいて思考停止に陥った結果、日米で認識の相違があることが見過ごされている。

 自衛隊法の第八十二条の三には「弾道ミサイル等に対する破壊措置」が定められており、これに基づいて自衛隊弾道ミサイル防衛を実施している。

 この規定には「防衛大臣は、弾道ミサイル等が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるとき」にこれを破壊する措置をとることが定められている。

 他方、2015年4月に定められた「日米ガイドライン」では、「自衛隊及び米軍は、日本に対する弾道ミサイル攻撃に対処するため、共同作戦を実施する」とあり、「自衛隊は、日本を防衛するため、弾道ミサイル防衛作戦を主体的に実施する。米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」と役割分担が定められている。

 つまり、日本に対する弾道ミサイル攻撃に対応する 「弾道ミサイル防衛」は自衛隊が主体的に実施しなければならず、米軍は自衛隊の作戦を支援し、補完するだけである。

 では、この「弾道ミサイル防衛」とはどこまでの軍事行動を含むのだろう。

 米国は2017年12月に公表された米国国家安全保障戦略で「弾道ミサイル防衛システム」を定義している。

 これによると「弾道ミサイル防衛システム」とは、飛来する弾道ミサイルを迎撃する能力はもちろんのこと「発射前のミサイル脅威を破壊する能力を含む」とある("This system will include the ability to defeat missile threats prior to launch.")。

 この定義はICBM(大陸間弾道ミサイル)だけでなく、もちろん日本に対する弾道ミサイル攻撃に対する防衛システムも含まれる。

 2018年5月、自民党の安全保障調査会で「敵基地反撃能力」の議論が行われ、自民党は「敵基地反撃能力」の保有を政府に提言した。

 だが、政府はこれを採用しなかった。この議論の過程においても、「敵基地反撃能力」は米国の定義では「弾道ミサイル防衛システム」に含まれる事実は無視された。

 先述の日米ガイドラインで決められた役割分担では「発射前にミサイル脅威を破壊」することも含め自衛隊が主体的に実施し、米軍がこれを支援、補完することになっている。

 つまり2015年以降、日本は既にそういう弾道ミサイル防衛システムを整備保有し、いざ有事の際には主体的に実施できる能力を保有しておかねばならなかったのだ。

 現実はどうだろう。国内での徹底した議論を避け、対米協議でも深く踏み込まず、従来の「矛と盾」に逃げ込んで思考停止している。

 これまで日米同盟と言えば「矛と盾」と、深く考えもせずパブロフの犬のように条件反射的に反応し、思考停止のまま60年が過ぎ去った。

 その結果、随所に日米で認識のずれが生じてきている。日米同盟そのものに対する認識のずれがトランプ発言であり、それに日本は狼狽するばかりである。

 同盟にとって、こういった認識の違いが「蟻の一穴」になりかねない。

 弾道ミサイル防衛も平時には、上記の認識の相違は問題にはならないかもしれない。だが、有事の際には、作戦調整の段階で直ちに問題は顕在化するであろう。

 国内で議論が活性化しないのは「敵基地反撃能力」という不適当な用語を使ったせいもある。

 この用語では相手の国土を広範囲で攻撃するようなイメージを持っても不思議ではない。オドロオドロしく感じた結果、更に思考停止を加速している面もある。

 正確には「発射前のミサイル」を撃破する行動であり、これは明らかに「弾道ミサイル防衛」に含まれるのだ。

 もし日本が弾道ミサイルで第1撃を受けたとしよう。その場合、第2撃以降も日本に対しミサイル攻撃があると判断するのは合理的である。

 だとすると第2撃の発射準備をしている弾道ミサイルを発射前に地上で撃破するのは、明らかに「弾道ミサイル防衛」であり「専守防衛」の範疇である。

 それは日本が主体的に実施せねばならない作戦であり、「矛と盾」を口実に米国に要請するものではない。

 現在、弾道ミサイル技術の進展により、変則軌道の新型ミサイルが登場しつつある。これに対しては、現状の弾道ミサイル防衛システムでは迎撃が困難といわれている。

 この場合、発射準備の段階か、ブースターが燃焼しているブースト・フェーズしか対応できない。

 ブースト・フェーズで弾道サイルを撃破する能力は、現在米国でも試験段階であり、実用化には至っていない。

 逆に発射前のミサイルを撃破する長射程ミサイルなどは既に実用化されている。航空自衛隊も使用目的は異なるが導入することが決まった。

 要は「発射前ミサイル撃破」を弾道ミサイル防衛システムに組み込むかどうかの政策判断次第なのである。

 繰り返すが、「敵基地反撃能力」と言った途端、パブロフの犬よろしく「矛と盾」「専守防衛に反する」と条件反射的に思考停止に陥っている時代ではない。

 残念ながら日米同盟なくして日本の安全保障は成り立たない。この現実を直視する時、少しでも「双務性」に近づける努力は欠かせない。

 安保法制で限定的ではあるが集団的自衛権の行使が可能になり、「双務性」に半歩前進した。現行憲法でも「片務性」を改善して「双務性」近づける余地はまだまだある。

 その努力と共に、何より日米で認識の差異が生じることだけは是が非でも避けねばならない。

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