―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]―


大手ファミレスチェーンすかいらーくグループは’12年に大規模な営業時間の見直しを実施、’17年には約600店の深夜営業時間を短縮してきたが、1月20日に働き方改革の一環として24時間営業の全店廃止を発表した

セックス・アンド・ザ・ダイバーシティ/鈴木涼美

 朝までファストフードで過ごしたのが懐かしいと歌ったELTは、みんなで楽しい時間を過ごしていたのにその内の一人とうっかりセックスしたせいで微妙な関係になっちゃってできればあの頃に戻りたい、という意味で懐かしいという言葉を充てたはずだが、それが全く別の意味で使われる日がこんなにも近いと、朝までカラオケではしゃいでいた私たちの誰が予測していただろうか。

 このほどすかいらーくグループが系列ファミレスの24時間営業を全店撤廃すると発表、朝まで友情に盛り上がったり、そのうち誰かと誰かがセックスしたり、久しぶりのオールでやっぱりサイコーだと確かめあったりしたアドレッセンスは、文字通り過去の遺物にまた一歩近づいた。今後もこの流れは止まることなく、夜の街はかつての賑わいを失い、暗い道をコンビニファミレスが照らすこともなく、昼間とは違う文化が開花することも、深夜の浮ついた空気の中で男女が出会うこともなくなるだろう。

 これらはすべて国力が失われつつある過程において受け入れざるを得ない変化なので、一企業を断罪することが無意味なのは自明だ。少子高齢化と人口減と低い成長率と広がる格差によって各産業の売り上げは伸び悩み、人件費は削られ、人手不足が深刻化し、治安は悪化し、店舗も活動時間もサービスも縮小を余儀なくされる。私たちは退屈な日常を都会がドラマチックに補完してくれていた時代を懐かしみ、以前よりつまらなくなった街を悲観して地獄を生きるしかない。

 国が弱体化するとは、多様性に気を配ることなどできなくなることなので、決められた時間に食事をして、決められた時間に寝ることが強制されるようになり、標準的ライフスタイルからはみ出す者は居場所を失う。

 仕方のないことだが、夜の蝶だったころから標準的ライフスタイルに馴染めぬ私はこの現状を悲観しているし、すかいらーくグループリリースの文面には「女性やシニアの方々も活躍いただける社会の実現」なんていう言葉が躍っていて、なんだかまた言い訳に使われたような、ケムに巻かれたような気分になった。景気悪化の営業縮小は受け入れざるを得ないが、やむを得ず多様性をカットするリストラクションと女性の活躍は特に関係がない。

 深夜に街に出ることのない一部の箱入り娘は守られても、逃げ場を失う女だって多い。大企業チェーン店の深夜バイトは男性が多いと思われがちだが、夜職を含むとキャバクラ嬢だけでその数は100万人を下らないとされており、夜を主戦場とするのは男だけじゃないのだ。

 会社も社会も本人たちも、女を「気を使っておけば多様性を担保した気になる便利な弱者」として扱い続けるなら、多様な生き方なんて景気不調のスケープゴートとしてすぐにでも消え失せて、その消失にさえ無自覚なまま、またつまらない日常を重ねることになるのだろう。

写真時事通信社
※週刊SPA!1月28日発売号より

【鈴木涼美】
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』(集英社)が発売中

―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]―