世界中で毎年50万人の人々が火傷を負っており、多くの人が亡くなっています。
これまでの重度の火傷治療方法は自家皮膚移植が行われてきましたが、火傷が全身に及んでいる場合は、利用できる健康な皮膚が残っていません。
そのため大きな火傷では、十分な健康的な皮膚が利用できないため、患者が死亡するケースが少なくなかったのです。
そこで研究者たちは、組織の再生を促進する能力がある幹細胞と、コラーゲンのような再生の足場を提供するタンパク質から成るバイオインクを作りました。
そして、このバイオインクを患部に3次元的に塗り重ねることで、組織を素早く再構成することに成功しました。
研究内容はカナダのトロント大学の研究者であるリチャード・Y・チェン氏らによってまとめられ、2月4日に学術雑誌「IOP Science」に掲載されました。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1758-5090/ab6413
バイオインクに幹細胞を含ませる
従来の3Dプリント技術を用いた組織再生には、コラーゲンやフィブリンといった皮膚を構成するタンパク質を用いてきました。
コラーゲンなどには火傷や傷の回復を促進する効果がありますが、再生はあくまで周辺の細胞の働き(分裂・増殖能力)に頼っています。
そのため、火傷が体の深くまで及び周辺組織のダメージが大きい場合には、回復効果は限定的でした。
そこで研究者は、3Dプリントのインクカートリッジ内部にコラーゲンなどに加えて、幹細胞の一種である間葉系間質細胞(MSC)を含ませました。
幹細胞は体のあらゆる細胞に変化する能力があり、損傷部位の組織に付着するとその部分の細胞に変化して増殖します。
そのため研究者は、プリントに幹細胞を混ぜれば失われた細胞を純粋に補充できると考えたのです。
人間の皮膚に近いブタの皮膚を使って実験をした結果、幹細胞の働きによって、失われた皮膚の再上皮化、真皮細胞の再増殖、血管新生が改善されました。
このことからも、幹細胞を用いた3Dプリント治療が既存の方法より優れていることがわかります。
バイオインクのレシピ
バイオプリンターのカートリッジ部分には、幹細胞の一種である間葉系間質細胞(MSC)とコラーゲン及びフィブリンが充填されています。
間葉系間質細胞(MSC)は火傷部分に付着すると、皮膚の細胞に変化して、組織再生にダイレクトに作用します。
また肌の主成分であるコラーゲンは損傷部位の細胞成長を促進し、フィブリンは血管から分泌される血小板と赤血球を巻き込んで血餅をつくり、止血を行います。
この技術を人間に応用することで、重度の火傷からも速やかに回復できると期待されています。
肌プリントは火傷だけじゃなく美容にも応用できる
研究チームのジェシュケ氏は、今回の実験結果が「火傷治療の革新になる」と述べています。
新たに開発された3Dプリント装置を使えば、火傷の治療方法が根底から変わり、ケロイド状の跡がのこることもなくなると考えているからです。
ジェシュケ氏はさらに「今後5年以内に3Dプリントによる皮膚の再生を臨床現場でみられるだろう」と自信を滲ませています。
この技術が発展すれば火傷だけでなく、多くの医療分野に応用できるでしょう。
美容分野もその1つです。
シワシワになった肌を取り去って、新しいツヤツヤの肌を3Dプリントしてくれる肌交換サロンができるかもしれません。
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