金髪パンチパーマや決めゼリフ「まじやべぇ!」など強烈なキャラで業界内外から注目を浴びる橋本崇載八段、軽妙な語り口やスイーツ大好きという個性的なキャラで将棋ファンに愛される加藤一二三九段といった個性的な棋士が話題になる一方、コンピューターとプロ棋士がガチンコで将棋の強さを競う「電王戦」をニコニコ動画生放送するなど、最近何かとアグレッシブな動きを見せる将棋界。

 そんな中で、いま特に注目を集めている棋士が「みっち」こと高橋道雄九段だ。御年53歳にして、先日開催された第5回AKB48選抜総選挙の上位3位の予想を見事に的中させ、ニコ動で放送された将棋の生中継では解説そっちのけでアニメけいおん!』に対する思いを熱く語るなど、将棋のお堅いイメージとは真反対のキャラクターを発揮する氏は、3月より個人ブログを開設。そこでもやはり、アニメアイドルに対する、ほとばしるパッションを炸裂させている。

 こうなったら、思う存分大好きなアニメアイドルについて語ってもらおう! ということで、本人を直撃した!


──4月にニコニコ生放送で配信された第71期名人戦第2局2日目の解説で、「『けいおん!』で人生が変わった」と発言され、多くの将棋ファンアニメファンに衝撃を与えた高橋九段ですが、この発言は事実なんですか?

高橋 はい。まさしくそうです。ブログを始めたのも、それが言いたかったからです。昔からずっと漫画──特に少年誌が好きで、「サンデー」「マガジン」「ジャンプ」といった雑誌やコミックスを買っていました。ただアニメとなると、娘が小さい頃は「娘と一緒に『セーラームーン』とかを見ている」という理由付けが世間に対してできていたんですが、この年になって男一人でアニメを見ているというのは、ちょっと恥ずかしくて……(苦笑)。それに最近はアニメがあまりにも多すぎて、どれを見たらいいのか分からなくて少し疎遠になっていたんです。

──その中でも、特に『けいおん!』がよかった理由はなんだったのでしょうか?

高橋 説明しろと言われて、言えるようなものではないですね。パッと見て「これはいいな」と思ったから、そのままハマっちゃった感じでした。キャラクターの存在もありましたが、何より音楽が絡んでいるのが大きかったです。

──『けいおん!』のキャラの中では、誰がお気に入りですか?

高橋 (ちょっとはにかみつつ)私はムギちゃんキーボード担当の琴吹紬)。ホワホワしたところが大好きです。

──分かります(笑)。しかし、ハマる最大のポイントは音楽だったんですね。

高橋 私の基本は音楽です。アニメも音楽が絡んでくるかどうかですごく違ってきて、今ハマっている『ラブライブ!』もそうなんですが、歌を一緒に歌って楽しめる部分があるかどうかは重要ですね。私にとって音楽は聴くためではなく、歌うためのものです。ほぼ毎日、寝る前に口パクで歌う練習もしています。

──ちなみに、最近のヒットチューンはなんですか?

高橋 『ラブライブ!』の曲と、『とある科学の超電磁砲シリーズオープニングテーマです。

──『ラブライブ!』といえば先日、「6thシングルセンター争奪第5回総選挙」が行われましたね。

高橋 そうなんですよ。終わってから選挙の存在を知って「あ~、しまったな」と思いましたね。次は絶対に参加したい! ……でも、誰が一番とか選べないですよ(ため息交じりに)。本当は全員に投票したいです。それじゃ、選挙にならないけど(笑)

──声優だと、三森すずこさんがお気に入りだそうですね。

高橋 まだあまり声優さんについては詳しくないんですが、とある作品で三森さんの声を聞いて「いい声優さんだな」と思いましたね。彼女以外にもPileさんは歌もダンスもうまいし、飯田里穂さんも明るい感じでいいですね。でも、私にとってアニメの基本は『けいおん!』なので、声優さんも「あ、『けいおん!』に出ていたあの人は、次はこのアニメに出るんだ」っていうふうに見ちゃいますね。

──もし誰か一人、声優さんにお会いすることができるとしたら、どなたと会ってみたいですか?

高橋 もしできることならば、豊崎愛生さんと一緒に歌いたい! やっぱり『けいおん!』の曲を歌いたいです。「GO! GO! MANIAC」「Utauyo!!MIRACLE」とかかなり速くて大変な曲をあんなに楽しく歌っているのを聴いていると、自分も一緒に歌いたくなります。

──そろそろ4月スタートの春クールアニメクライマックスに突入していますが、高橋九段が今ハマっているアニメはなんですか?

高橋 一概にどれが一番とかは言えないのですが、やっぱり『とある科学の超電磁砲S』かなあ。あとは『翠星のガルガンティア』がすごくいいですね。ほかには、世間的に注目されている『進撃の巨人』を、個人的にはどう判断すべきか悩ましいところですねえ。面白いんだけど、あのストーリーはどうだろう、とか(笑)。ただ画面の作りが素晴らしいので、見ていて面白いですよね。

──アイドルにも精通されている高橋九段ですが、最近はAKB48関連でメディアに出ることも多いですね。

高橋 アイドルも好きで、アニメに行く前はそっちに傾いてました。基本的に、それぞれの時代に注目されている人たちは見てきました。最初は恐らく桜田淳子、山口百恵、森昌子の三人娘で、それからキャンディーズピンク・レディーおニャン子クラブモーニング娘。とハマって、必然的にAKB48に行きました。要するに、テレビが好きだったんです。テレビを見ていて面白いなと思ったのが、アニメアイドル、音楽だったわけです。昔は音楽番組も花盛りでしたから、ずっとテレビを見ていました。

──ちなみに、高橋九段の推しメンは誰ですか?

高橋 ゆきりん柏木由紀)です。

──でも今回の総選挙では、NMB48山田菜々さんに投票されたそうですね。

高橋 彼女のことが好きというか、評価しているんです。チームのため、仲間のためにすごく努力していて、もう少しみんなに知られてもいいんじゃないかなという人って何人もいて、山田さんもその一人です。NMBの中でも、トップ2の陰にちょっと隠れがちなので、もっと前に出てほしいなと思って入れさせていただきました。そんな山田さんは今回28位。大躍進しましたね(第4回では46位)。ちゃんと評価してくれる人が、ほかにもいてくれるのはありがたいです。

──最近では、ももいろクローバーZなんかが人気ですが、そちらはいかがですか?

高橋 (ももクロは)佐々木彩夏さんはかわいいと思うんですが、歌があまりピンとこなくて……。

──やっぱり、音楽が重要な判断基準になっているんですね。

高橋 はい。結局、自分が歌いたいかどうかなんですよね。AKBは、だいたい30曲くらいは歌えますよ。ただ、確かにアニメとかアイドルを見るのも好きなんですけど、週に2回くらい、かなり向上心に燃えつつ30年くらいテニスをやってるんです。だから私の趣味は、アニメアイドルテニスの三本柱ですね。

──こうやってお話を伺っていると、娯楽に対する感度がすごく高いことに驚かされます。一方、高橋九段の本業である将棋界は、既存のイメージだと非常に堅い印象もあったのですが、ここ最近は「電王戦」やネットでの実況中継など新たなメディアを活用した展開や、個性的な棋士がメディア露出する機会が増えて話題を呼んでいます。

高橋 対局している姿だけ見ると、将棋の世界って難しそうなイメージがあると思いますが、実のところは比較的伸び伸びとしています。拘束時間は少ないし、完全に実力主義なので、年齢に関係なく尊敬される方も、そうでない方もいますし、上下関係もあまりない。意外と「こうしなきゃいけない」というルールがないので、自分なりの個性を出せる方が多いのではないかなと思います。そうは言いつつも、恐らく今までの将棋界だと何かと堅い意見も出てきたと思うんですけど、時代も世代も変わっていく中で、今の時代に合わせていこうという人たちが増えてきていることは確かですし、当然そうせねばいけないと思います。

──一時は人気が低迷した時期もありましたが、最近では、子どもたちの間で将棋人口が増えていると聞きます。

高橋 はい。子ども大会みたいな催しをやると、どの会場にも何百人と子どもたちが集まります。人間同士でゲームを楽しむことで、考える力や人とのコミュニケーション能力もつくと思いますし、テレビゲームに負けず劣らず、子どもたちに娯楽として受け入れられている現状はうれしい限りです。現在、ネットの世界でも将棋が受け入れられているのも、やはり将棋という存在そのものに魅力があるということだと思います。

──ネット時代になって、新たな魅力を発信している将棋界ですが、「まじやべぇ!」で有名な橋本八段など、若くて個性的な新世代の棋士が出てきていますし、人気の若手声優・岡本信彦さんはかなりの実力者だという話も聞きます。

高橋 私としてはAKB48グループの中で、将棋を指す子が出てこないかなという希望があるんです。将棋のプロや達人の中からアイドルが出てくるのではなく、アイドルの中から将棋の強い子が出てきてもいいんじゃないかなと思います。

──そういう子たちを集めて、高橋九段プロデュースの将棋ユニットとか作ってみたり……。

高橋 やれるものならやってみた(笑)。それはたぶん、その人自身のためになると思います。あれだけ多くのアイドルがいたら、かわいいだけだと個性が埋没してしまいますし、「アニメが好き」とか言っても、そこまで注目されないですしね。そこで「将棋をやっている」ってなったら、注目されると思いますよ。まあ将棋界だと、私みたいにアニメが好きとかいうと、異端ということで注目されるんですけど。……本当にプロデュースさせてくれないかなあ。

──ところで、『けいおん!』好きをカミングアウトしたニコ動での解説に関して、将棋連盟から何か言われましたか?

高橋 たぶん将棋連盟の人たちは、なんの話をしているか分かっていないと思います。だから特に何も言われていません。ただ従来の将棋番組だと将棋の話しかできなかったし、そうであるべきだったんですけど、今回のニコ動での実況を含めて、ネットのおかげで自分の本当の姿を出せるようになりました。

──ネットというメディアは、今までテレビでは出せなかった個性を出せる自由なメディアだと思いますか?

高橋 それは思いますね。以前より世間には将棋に対する固定観念があって、ごく一面しか見てもらえていない。素の自分が出せていないと、ずっとじれったく思っていたんです。今回ブログを始めたのも、本当の自分、素の部分を出したかったというのが最大の理由ですね。

──いい大人がアニメを見るなんて、という風潮はまだ世の中にあると思いますが、そんな中で高らかにアニメ愛、アイドル愛を掲げる高橋九段に勇気づけられる同世代も多いと思います。

高橋 それが一番言いたいことなんです! 私も、この年代でアニメを見るなんて恥ずかしい、って思っていたことが恥ずかしいです。何歳になっても、好きなことは好きって言っていいんじゃないか。それが一番大事なことだと思います。「みんな好きなことは、好きなようにやっていこうよ」って、同年代の人たちに言ってあげたいですね。もちろん、やるべきことはちゃんとやりながらですよ(笑)。でも、「人生は一回しかないから、しっかりやりたいことはやっていこうよ」というメッセージに共感していただけたらうれしいです。
(取材・文=有田シュン

●たかはし・みちお
1960年4月23日生まれ。将棋棋士。タイトルを5期獲得、順位戦A級を13期に渡って在籍。重厚・沈着な棋風と無口な印象から「地道高道」と呼ばれる、棋界の重鎮。また、AKB48の大のファンであり、漫画・アニメや特撮などのサブカルチャーから英会話テニスまで幅広い趣味を持つ。

ブログ「みっち・ザ・わーるど」
http://ameblo.jp/t-mitch142

高橋道雄九段