昨年4月に発表された「little flower」以降、作品をリリースするごとにアーティストとしての進化を提示してきた足立佳奈。その間に彼女は20歳の誕生日を迎え、一人の女性としても大きな成長を遂げた。その過程で抱いた様々な感情をリアルに、フレッシュに注ぎ込んだ楽曲群を詰め込んだのが、約1年4ヵ月ぶりに届いたニューアルバム『I』だ。レーベルメイトであるRude-αをフィーチャリングしたナンバーや、初めて弾き語りに挑戦した楽曲など新たな表情満載の本作は、足立佳奈の“これから”を鮮やかに照らしている。

取材・文 / もりひでゆき
撮影 / 荻原大志

◆どんな20歳になっていきたいのか、そして実際20歳になった上での気持ちみたいなものがしっかり表現できた

ーー 昨年12月の「話がある」、今年1月の「Good day」に続き、3ヵ月連続リリースの締めくくりとなる作品『I』がついに到着しました。約1年4ヵ月ぶりとなる2ndアルバムですね。

今回は2つのテーマを持って制作に臨んだんですよ。まずひとつめは3月からツアーが始まることが決まっていたので、ライブで楽しめる曲をたくさん入れること。そしてもうひとつは20歳になることに対しての思いを曲に乗せること。この2つを大きな軸として曲を作っていきました。

ーー 昨年10月14日に足立さんは20歳になったわけですけど、そのことはご自身の音楽にも大きな影響をもたらしたわけですね。

そうですね。20歳になる3ヵ月くらい前からアルバムの制作がスタートしたので、どんな20歳になっていきたいのか、そして実際20歳になった上での気持ちみたいなものがしっかり表現できたんじゃないかなって思います。そういう意味で今の私がたっぷり詰まったアルバムになったと思うので、タイトルを『I』にしたんですけど。

◆どうやったら楽しんで聴いてもらえるかなということを徹底的に考えるようになった
ーー 1stアルバムの頃と比べて、楽曲制作に対する向き合い方に変化はありましたか?

ありました。1stアルバムも自分なりにやれることをしっかり注ぎ込んだ作品ではあったんですけど、今振り返るとちょっと消極的な部分があったかなって思うんです。今よりもわからないことが多かったし、ちょっと遠慮していたところがあったというか。でも今回は歌詞や楽曲に対してはもちろん、どんな曲順にして、曲間をどのくらい空けるかっていうことにまでしっかりこだわることができて。最初から最後まで、どうやったら楽しんで聴いてもらえるかなということを徹底的に考えるようになったのは、前回とは違うところだと思いますね。

ーー ミックスやマスタリングまで立ち会ったり?

はい。現場ではプロの方にいろいろ教えてもらいながらの作業にはなりましたけど、そこでも自分なりの意見をいろいろ言わせていただいたりもして。そうやって、より深くかかわるようになったことは自分にとっての自信にもなったような気がしますね。

ーー 曲順はどう決めていったんですか?

基本的にはライブのセットリストをイメージして組んでいった感じですね。最後の方に元気な曲をわーっと並べつつ、ラストはちょっとしっとりした雰囲気で終わる、みたいな。それぞれの歌詞をしっかり見返して、ストーリー的にすんなり聴いてもらえるような流れを考えたところもありましたね。もちろんこのままの曲順でライブをするわけではないですけど、1枚のCDとして心地良く、楽しみながら聴いていただけると思います。

ーー 1曲目は昨年4月にリリースされた「little flower」。この曲をきっかけに、足立さんの音楽性は徐々に変化していったような気がしていて。

うんうん。まさにそうですね。あの曲があったから、よりいろいろなタイプの曲に挑戦できるようになったところがあったと思います。

ーー アルバムには「こんな足立さんもいたんだ!」という驚きを与えてくれる曲が満載されていますからね。ご自身としても、新しい挑戦ができたという手ごたえを感じられる曲も多いんじゃないですか?

たくさんありますね(笑)。例えば……「20」という曲なんかは、作詞という部分ではけっこう大きな挑戦で。2番に<言いたいことがあるなら隠さないで言いなよ/目の前で言えないことならどこにも言わないでよ/黒く染まらないでよね>って歌詞があるんですけど。

◆強めの言葉選びをしたのが初めてだったので、どう受け取られるのかがちょっと怖かったりはするんですけど(笑)
ーー そこはかなり印象的ですよね。すごく強い書き方をされています。

そういう強めの言葉選びをしたのが初めてだったので、どう受け取られるのかがちょっと怖かったりはするんですけど(笑)、でもそこが今の自分のひとつの主張になったとは思うんです。結局は自分自身に言い聞かせてる内容ではあるんですけど、今までにはなかった、元気で明るいだけじゃない応援歌になったなって。

ーー 「20」というタイトルからしてね、今の足立さんの思いがリアルに注ぎ込まれていることは明白ですし。

そうそう。やってみなきゃ何もわかんない、好きなことを好きなだけやって自分らしく生きていきたいなっていう、まさに今の自分の意志を込めていますからね。<黒く染まらないでよね>っていうフレーズは、そういった自分の気持ちを忘れないようにっていう戒めでもあるっていう(笑)。

ーー 忘れそうになる瞬間もありますか。

今はまだ大丈夫ですけど(笑)、でも気づかないうちにそうなってしまう可能性もあるじゃないですか。他人を羨んで、コソコソ何かを言ってしまったりとか。絶対にそうはなりたくないので、迷いそうになったらこの曲を歌うことで初心を思い出していきたいですね。

ーー 「20」は跳ねたバンドサウンドになっていて、ライブではかなり盛り上がりそう。

「これ歌えるのか?」って思っちゃったくらいテンポが速いですしね。この曲はメロディ的にもサウンド的にもけっこう挑戦できたと思います。ライブではみんなで盛り上がりたいなって思ってます!

◆すごくリアルなラブソングになったと思います

ーー Rude-αさんをフィーチャリングした「Like it」も新たな挑戦ですよね。

初のフィーチャリング楽曲です。しかもお相手が男性の方っていうのも新鮮ですよね。歌詞は自分が歌うパートをそれぞれで書いたんですけど、男の子にしかわからない気持ちと女の子にしかわからない気持ちが重なり合って、すごくリアルなラブソングになったと思います。カップルの人が聴いたら「めっちゃわかる!」ってなるんじゃないかな。

ーー レーベルメイトでもあるRudeさんとは年齢も近いですよね。

年齢的にはRudeくんのほうがちょっと先輩ですけど、常に明るく陽気に話しかけてくださるので、すごく楽しく制作をさせていただけました。私とはジャンルが違う音楽をやっている方ですけど、だからこそのおもしろさもあって。先日、MVの撮影でもご一緒させてもらったんですけど、彼はダンスもめっちゃお上手なので、「私も頑張んなきゃ!」っていう思いで必死に食らいついていきました(笑)。いろんな面で刺激をもらえましたね。

ーー 歌に関しても、1人での曲とはまた違った表情が出ているようにも感じました。

そうですね。歌録りは別日だったんですけど、曲の中にRudeくんの存在があることで自然と違った表現が出たところはあったと思います。普段、ラブソングを歌うときは想像を膨らませて主人公のキャラクターになり切って歌う感じなんですけど、この曲では自然と彼女として歌えた感じがあったというか。Rudeくんの素敵な歌が導いてくれたことで、ありのままの自分で歌えたんだと思います。いつかライブでもご一緒できたらいいですよね。

ーー 「Like it」のようなハッピーラブソングって、足立さんのレパートリーとしては案外珍しいですよね。

ここ最近、ちょっとせつない曲が続いてましたしね。せつない歌詞を書くのって、歌詞の世界に入り込むから気持ちが落ち込んでしまうこともあるんですよ。「どうして“さよなら”って書かなきゃいけないんだろう……」みたいな(笑)。なのでアルバムにはハッピーラブソング曲も入れたかったんです。世の中には楽しい毎日を過ごしているカップルもたくさんいらっしゃると思うので。

ーー かと思えば新たなタイプのせつないラブソング「ホントのコト」があったりもして。スキャットが盛り込まれたオシャレな雰囲気のサウンド感ですよね。これまたすごく新しい。

落ち着いているんだけど、でも軽快なテンポ感のラブソングは今までやってこなかったので、自分でも新しいなって思いました。お昼の時間帯が似合う感じですよね(笑)。

ーー 作詞は足立さん、小木岳司さん、宇野水木さんの共作になっていますね。

それぞれが書いたものをすり合わせながら、「ここはこのワードがいいかもしれないですね」みたいな感じでつなぎ合わせたりして作っていきました。久々に女性の方と作詞をご一緒できたのが楽しかったですね。女性だからこその「わかるわかる!」っていうポイントを宇野さんと共有しつつ、そこに小木さんの男性目線が入ってくることで歌詞がよりいい形になったところもあって。楽しい作業でした。

◆曲を聴いた瞬間、ハワイの波打ち際で歌ってる姿がパッと浮かんだので、そのイメージを持ちながら歌ったりもしましたね
ーー 歌はどんなイメージで乗せましたか?

この曲は落ち着いて冷静な感じで歌いましたね。後半の落ちサビでわっと叫びっぽく感情を高ぶらせたかったので、そこに至るまではできるだけリラックスした雰囲気で淡々と歌ったほうがいいなって。曲を聴いた瞬間、ハワイの波打ち際で歌ってる姿がパッと浮かんだので、そのイメージを持ちながら歌ったりもしましたね。気持ちをどこに置くかで歌い方が変わってくるので。結果、全体的にはサウンドに寄り添ったスッキリした歌になって、新しい自分を出せたような気がします。

ーー 8曲目の「Just Do It」は疾走系の応援歌。聴き手を力強く鼓舞するメッセージは足立さんらしいですね。

この曲は応援歌ではあるんですけど、歌詞に込めたのは自分の心なんですよ。20歳になる少し手前に書いたので、終わってしまう10代とこれから始まる20代に向けた気持ちの葛藤が一番出ているなって思います。速いテンポのサウンドに、今までにないくらい言葉をグッと詰め込んだことで、自分の中にある焦りみたいなものを表現できた気がして。そういう私の思いをふまえて聴いてもらうとまたおもしろいかなって思います。

ーー 葛藤はありながらも、未来に向けた強い意志を描き切ったこの曲が作れたことで、20歳になることも怖くなくなったんじゃないですか?

そうかもしれないです。この曲はアルバムの中では早いタイミングで作ったので、それ以降の制作に関しては「大丈夫。やれるな」って自信を持って臨めたところがありましたし。私自身の思いを込めたこの曲で、聴いてくださるみなさんの気持ちも励ますことができたらうれしいですね。受験シーズンでもあるので、ぜひ聴いて欲しいです。

ーー 「music」は、そのタイトル通り“音楽”をテーマにしたナンバーですね。この曲もすごくオシャレだなと思いました。

この曲は初めてライブのバンドメンバーと一緒に作ったんですよ。作曲と編曲をマツジュン(松本ジュン)がやってくれました。彼の提案してくれたサウンドが今までの私にはなかったものだったので、歌詞では自分にとっての音楽観みたいなものを、ライブを意識しつつ書いていきましたね。地方の文化祭ライブの合間に、一緒にメロディを考えたりもしたので、すごく思い入れが強い曲でもありますね。

◆実は、中学を卒業するときに音楽の先生に言われた言葉なんです
ーー 歌詞で特に気に入っている部分ってあります?

1番のサビ前、<いつだって君のそばにいる>のところですね。これ実は、中学を卒業するときに音楽の先生に言われた言葉なんですよ。「音楽はいつでもあなたたちのそばにあります」っていう言葉をきっかけに私はより音楽が好きになったので、どうしても歌詞に入れたかったんですよね。

ーー 楽しいときはもちろん、ツライときも音楽はそばにいてくれる。歌詞にあるように、泣きたい夜や全てから逃げたいときも音楽が救ってくれるわけですよね。

まさにそうですね。私の場合、落ち込むことがあったら音楽に浸ることで元気になるタイプなので、そういった部分もありのまま、今の自分の等身大の言葉として歌詞にすることができました。

ーー この曲もライブで早く聴きたいですね。

うれしいです。レコーディングするにあたって、キーをどこに持っていくかをかなりみんなで検討したんですよ。落ち着いた雰囲気を出すために下げようっていう意見もあったんですけど、結果的にはライブで盛り上がることを意識してちょっと高めのキーにしたんですよね。なので私も早く歌いたいです(笑)。

◆帰りの電車に1人で乗っているときに、目の前にカップルさんがいて
ーー そしてラストは、アコギ弾き語りによる「二子玉川」。ほっこりしたラブソングです。

これは実際、友達と二子玉川レイトショーを観に行ったときに書いたんですよ。帰りの電車に1人で乗っているときに、目の前にカップルがいて。女の子は彼の肩に寄りかかって寝ていて、男の子はケータイを眺めている。で、窓の外に見えるマンションにはあたたかな明かりが灯っている。その光景を見たときに、「わ、なんかこれ絵になる!」と思っちゃって(笑)。マンションの明かりもね、それを見ながら彼は未来の自分たちの家庭を思い描いたりしてるのかなぁ、みたいな想像がどんどん湧いてきちゃったんですよね。

ーー まさにそのまんま歌詞になってるじゃないですか(笑)。

そうなんですよ! 2番と3番は自宅に帰ってから書きましたけど、1番は歌詞もメロディもその場でできちゃいましたからね。あの日、レイトショーを観に行って良かったなって思ったし、何よりあのカップルには本当に感謝感謝ですね(笑)。

ーー 弾き語りでのレコーディングはいかがでしたか?

弾き語りで、しかも一発録りのレコーディングは初めてだったので、「できない、できない! わー!」ってなってしまって。結局、スタジオに10時間くらいこもって歌い続けたんですよね。

ーー 10時間ってすごいですね。

途中で1回、納豆巻きを挟んでパワーをチャージしましたけどね(笑)。1本1本、魂を込めながら録るのは本当に大変でしたけど、スタッフのみなさんの協力の元、ライブのような緊張感を持ちながら最終的にすごくいいテイクが録れたので本当に良かったなって思います。レコーディングのときには、ライブメンバーの(サトウ)カツシロくんが来てくれたのもうれしかったですね。

ーー ギタリストであるサトウさんからアドバイスをもらったりも?

そうですね。細かい部分でレクチャーしてくれたり、あとは気持ちの面でもサポートしてくれました。実は一度、カツシロくんにギターを弾いてもらって、それに合わせて歌っててみたりもしたんですよ。あまりにも自分で弾き語りするのができなさすぎて。

◆20歳になった足立佳奈として、1人でやりきりました!

ーー なるほど。弾き語りを諦める可能性もあったと。

はい。そりゃね、カツシロくんにギターを弾いてもらったほうがキレイな仕上がりになるわけですよ。でも、『I』というアルバムに入れるこの曲は、それじゃダメだなと思ったんです。たとえキレイにまとまっていなかったとしても、自分でやることこそに意味があるんじゃないかなって。なので、20歳になった足立佳奈として、1人でやりきりました!

ーー 様々なトライをし、アーティストとしてひと回り大きくなった足立さんの姿。今回のアルバムにはそれがリアルに詰め込まれていると思います。3月からの全国ツアーが俄然、楽しみになってきますね。

楽しみです! バンドメンバーと作った「music」がひとつの軸になってくるのかなぁとは思っているんですけど、とにかくみんなで盛り上がるライブがしたいなって思います。何かしらのサプライズもやりたいなっていう気持ちもあったりはします。で、今回のツアーは全10公演なんですけど、それ以上の本数を回るツアーもやりたいんですよねー

◆とにかく今の私はライブがしたくてしょうがないんです
ーー 今回のツアーがまだ始まってないのに、早くも次の目標が(笑)。

あははは。そうですよね。まずは目の前のツアーを成功させないと。その上で、年内にもう一度ツアーをやるっていうのが今の目標です。とにかく今の私はライブがしたくてしょうがないんですよ。今年は経験値をどんどん増やして、たくさんの人たちを巻き込めるパフォーマンスを手に入れたいなと思います!



足立佳奈 20歳の今を詰め込んだアルバム『I』。リアルな感情と成長が歌声から響く意欲作について訊く。は、WHAT's IN? tokyoへ。
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掲載:M-ON! Press