日本中を巻き込み、過去類例を見ない一大疑獄へと発展した「森友事件」。

 総理夫人との密接な関係、不可解な国有地の割引売却、公文書の改ざん、担当者の自殺。数々の疑惑を残したまま、事件発生から早3年が経とうとしている。2月19日に迫る地裁判決を前に籠池泰典氏が全てを明かした『国策不捜査』が発売された。あの騒動はこんな風にはじまった――

◆◆◆

大阪地検の入るビルの前には50名を超える報道陣

「シェイク、飲みたい」

 突然、家内が口走った。

 言い出したら聞かないたちなので、大阪地検特捜部へと向かっていた車をUターンしてもらう。

 幸い、JR福島駅の近辺にマスコミの姿は見当たらない。

 最寄りのミスタードーナツに入って注文したものを飲みながら、

「やっぱりマクドナルドの方がおいしい」

 と口では文句を言っているものの、満面の笑みがこぼれた。

 あいかわらずカワイイ女性だ。この人のことを見ていると、不思議と元気がみなぎってくる。

 飲み終えると店を出て再び車に乗り込む。

 大阪地検の入るビルの前には50名を超える報道陣が集まっていて、高い脚立がいくつも並べられていた。もはや見慣れた光景だ。スロープを降りて地下から建物に入る。小さな部屋には前回の取り調べでも顔を合わせた検察事務官が待機しており、携帯電話を提出するよう求められた。ほどなくして女性の係員が呼びに来て、エレベーターに乗り込み、17階へと向かう。

「こちらです」

 先導されるままに廊下の奥までまっすぐ歩く。

2017年7月31日午後2時34分。事情聴取がはじまる

 振り返ることはなかったが、後ろに続いていたはずの家内は手前の部屋に入ったようで、足音が聞こえなくなった。この日を境にその後300日近くにわたって話すらできなくなるとは思いもよらなかった。

 2017年7月31日午後2時34分。通された1701号室では堀木博司検事が待っていた。つい4日前の取り調べ、そして6月19日の自宅ガサ入れ、と今回で3度目の対面となる。ポマードで黒髪をオールバックになでつけ、太い眉とギョロッとしたまなざしはいかにも強面といったところだ。

 挨拶もそこそこに事情聴取がはじまる。

 報道によるとボクに対する嫌疑は「(学校法人森友学園の)小学校建設にからむ国交省のサステナブル補助金の不正受給」と、「運営する幼稚園における大阪府大阪市からの補助金の不正受給」というものだった。

 一方で、財務省や近畿財務局の当時の局長や担当者らが、大阪府豊中市の国有地を森友学園へ売却する際、ごみの撤去費用名目で8億円を値引きし、国に損害を与えたとして背任容疑で刑事告発されていた。

「森友事件」の最大の問題

 マスコミによる報道も「森友事件」の最大の問題は、国有地売買における8億円値引きについての疑惑だという点で一致していた。

 4日前の7月27日に行われた一度目の取り調べでは、その前日にNHKが報じた「森友学園値引き経緯明らかに」というスクープについて詳しく聞かれた。国有地値引き交渉で、実は学園側から支払い上限の金額として1億6000万円の提示があった、という報道だ。

 これは財務省の佐川宣寿理財局長が4ヶ月前の3月15日の国会答弁で「価格につきまして、こちらから提示したこともございませんし、先方から幾らで買いたいといった希望があったこともございません」と話したことを真っ向から否定する内容だった。

 ボクはこの件について取り調べを受け、

「特捜部は国有地8億円値引きを本気で立件したいんだ」

 そう実感した。

「籠池さんは近日中に予定など入ってますか?」

 途中、雑談をすることもあった。

「籠池さんは近日中に予定など入ってますか?」

8月6日の広島平和記念式典に参加しようと思ってます。被爆した父の名が原爆死没者名簿に登載されましたので、慰霊に行ってこようかと」

「へー、そうなんですね」

 こんなやり取りもあったので、「本日の逮捕はないな」と思っていた。

 午後3時30分よりサステナブル補助金についての話になった。それと同時に堀木検事がしきりに時計を見るようになったことが印象に残っている。3つの契約書の存在について問われたので、弁護士の指示通り黙秘した。すると、

「ちょっと待っていてください」

 そう言って、しばらく部屋から姿を消していた堀木検事。

 戻ってくるなり袖机から書類を取り出して読み上げる。

「……の容疑で逮捕します」

手錠をはめ、腰縄をかけ出した――逮捕容疑は詐欺。

 内容は頭に入ってこず、その言葉だけが耳に飛び込んできた。

「なんだ、最初から部屋には逮捕状が用意されていたんだ。それならとっとと逮捕してくれればよかったのに。時間稼ぎをしていたんだな」と言い返す。

 逮捕状の有効期限は7月31日から8月7日まで。つまりこの日に発行されたものである。

 突然、5人の係員が検事室へとなだれ込んできた。ボクの周囲を取り囲むと手錠をはめ、腰縄をかけ出した――。

 逮捕容疑は詐欺。

籠池氏にかけられていたふたつの嫌疑

 その内容は先にも述べたように「小学校建設にからむ国交省のサステナブル補助金の不正受給」というものだ。補助金の審査を担当する国交省管轄の「一般社団法人木を活かす建築推進協議会」に対し、校舎の建築費として23億円という金額の契約書を提出。しかし実際にはそれほどかかっていないため、金額を水増しし、5644万円もの補助金を不正受給したとの容疑をかけられていた。

 もう一つボクには嫌疑がかけられていた。それは「運営する幼稚園における大阪府大阪市からの補助金の不正受給」というもの。幼稚園の補助金の額は専従の職員数によって決まるのだが、その人数を水増しして受給していたと。さらに障がいやアレルギーのある児童に対して、特別な配慮をすることにより交付される特別支援教育費補助金についても不適切な申請が行われたという疑いをかけられていた。

 弁解録取手続きのあと、同じビルの地下にて「しんゆう法律事務所」の秋田真志弁護士、水谷恭史弁護士と面会。2人はボクのことを励ましてくださったと思うのだが、正直、なにを話したのかあまり覚えていない。その後、堀木検事の部屋である1701号室で、おにぎりをほおばった記憶があるのだが、どの時間帯であったのかも判然としない。

 午後6時半過ぎには身柄を移送されることになった。

スッポンポンになって四つん這いのまま一周

 護送車の中から外の様子はまったくうかがえない。極度の緊張が解けたのか、少しまどろんでしまう。しばらく走ったあと、フラッシュの光が立て続けに窓を照らしたので、大阪拘置所に到着したのだとわかった。

 手錠をしたまま廊下を歩かされ、一室に入れられると数人の看守がいた。身長、体重などを測定したあと、医師の診断を受け、既往症などを報告。

 身体検査では・カンカン踊り・もさせられた。

 椅子に座る4人の看守の前でスッポンポンになって四つん這いのまま一周する。身体の具合をお尻の穴まで検査されるのである。

 支給されたランニングシャツとパンツ、さらに緑色の上っ張りと半ズボンを穿くと、看守が写真撮影をする。靴は回収され、ゴム草履にはきかえた。

移動の際はつねに3人の看守

 それから医師のもとに連れて行かれ、血液検査、視力検査などを受けた。指紋掌紋も取られたのだがいつの段階だっただろうか。このあたりの順序はあやふやだ。

 その後、階級が上らしき官員の部屋に通された。ちなみに移動の際はつねに3人の看守がそばから離れない。

 その部屋では帽子に線が2本に入っている男性と面談した。

「体操するときに陽の光を浴びることはできるんですか?」

 もっとも気になることをボクが尋ねると、

「光が差し込むことはないけれども、外気が流れ込むところで体を動かすことはできる」
よくわからないことを言う。

新しい名前は「1179番」

 月曜日木曜日が運動日、風呂は火曜日金曜日だけ。そのほか水曜日にシャワーを浴びることができると告げられた。

 その後、ようやくわが新居である「Bの636号室」に到着。

 そこは独房だった。思ったより狭い。

 慣れる間もなく、

「1179番」

 と、これまた新しい名前を呼ばれた。ついにボクは・数字・になってしまったのだ。ナチスドイツに囚われたユダヤ人のことを想った。

逮捕当日でも容赦なく好きなだけ取り調べをする検察特捜部

 消灯時間である午後9時をまわっているにもかかわらず、再び房から連れ出される。今度はいったいどこへ行くのだろう。

 長い廊下を歩き、ひとつの部屋に通された。そこにいたのはまたしても堀木検事。この人たちは逮捕当日であろうとも、容赦なく好きなだけ取り調べをするのだと知る。

わたしは、これからもあなたのことを『籠池さん』と呼びますよ」

 堀木検事は恩着せがましく、そうおっしゃった。

「お前は逮捕されたんだから、本来なら『カゴイケ』と呼び捨てにしたっていいんだよ」
 とでも言いたいのだろう。

 拘置所へ移送される前の弁護士との接見で、はじめて家内が逮捕されたことを知った。ボクの身はどうなったって構わない。でもまったくの無実である彼女まで道連れにされたことは衝撃だった。自分自身の逮捕よりはるかに怒りを覚える出来事だ。

「悪い人間がいるからわれわれが必要なんです」

 さらにこの部屋で、逮捕後に豊中の自宅へ2度目の強制捜査が入ったと知らされる。

 家内も拘禁されてしまっているので、家には次女しかいないはず。たったひとりで、あの多人数の捜査官たちに対応したのだろうか。考えただけでも胸が痛んだ。

 マスコミの張り込みで、当時自宅から出られないボクに代わって犬の散歩を手伝ってくれていた俳優の大袈裟太郎君が、スマホでガサ入れの様子を中継し、YouTubeアップしたらしい。でも、それも後になって知ったことだ。

 堀木検事に対し、「検察はなんて封建的な組織なんだ」と憤怒をぶちまける。

「いやいや検察は市民のために働く組織ですよ」

「国策捜査だからどうしても逮捕するんだろう」

「籠池さんはいつもそう言ってるけど、この事件は国策でもなんでもないよ」

「特捜部なんか、なくさなアカン」

「悪い人間がいるからわれわれが必要なんです」

 堀木検事は憤然と答え、お互いにらみあったまましばらく黙り込む。

 このとき、長い戦いのゴングが鳴った。

“森友学園”前理事長・籠池氏が「ゴーンさんにユニクロのフリースを届けよう」と思った理由 へ続く

(籠池 泰典,赤澤 竜也)

籠池氏 ©文藝春秋