21世紀になっても「ガンダム」のような、人間が搭乗する2脚歩行ロボット兵器はいまだ登場していませんが、一方で人間が装着するタイプの「パワードスーツ」は開発が進んでいます。実際どのようなもので、なぜ必要なのでしょうか。

こいつ動くぞ! ついに動く実物大「ガンダム」 一方実際のロボット兵器は…?

実物大「ガンダム」がついに動き出す一方、防衛装備庁は「パワードスーツ」を真剣に開発中です。

2020年1月20日、実物大の動く「ガンダム」を一般公開することを目指すプロジェクト「ガンダム GLOBAL CHALLENGE」の、具体的な公開内容が発表されました。公開施設「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」が横浜市の山下ふ頭にて7月よりプレオープンし、10月1日より1年間、公開予定とのことです。

アニメ『機動戦士ガンダム』が世に出て今年で40年目、SFの技術はようやく現実になったのでしょうか。

アニメやSFの世界では、2脚歩行の人型ロボット兵器は一般的です。『機動戦士ガンダム』におけるモビルスーツは企画段階において、「スーツ」という名称にも表れているように、元々は歩兵の戦闘力を強化するために着る装甲スーツと設定されていました。しかし当時は巨大ロボットアニメ全盛期であり、やがてスーツと呼ぶにはやや違和感のある高さ18mという人間の約10倍、6階建てビルに相当する大きさになります。

リアル世界の主力戦車はどんどん主砲が大きくなり、その威力に耐えられるように装甲も厚くなり、重くなった車体を無理やり動かすために大馬力エンジンを詰め込んで、地面で動かすには限界点に近い重さ60tを超えるようになってしまいましたが、SF世界の人型兵器も、同じ顛末をたどって巨大化したと想像を膨らませることもできます。

そして現在、残念ながらリアル世界では、2脚歩行の人型ロボット兵器は存在していません。

防衛省が開発を進める「高機動パワードスーツ」なぜ必要?

一方、冒頭でも触れたように、日本の防衛省・防衛装備庁では2015(平成27)年度から「高機動パワードスーツ」の研究を行っており、2017年度末には試作機が完成しています。

とはいえこれは、「モビルスーツ」のようにパイロットが乗り込む人型兵器ではありません。体に装着して筋力をサポートする下肢用外骨格型パワードスーツで、介護現場やリハビリ支援、物流業界などで使われているものの、ミリタリーバージョンです。

歩兵は作戦行動に必要な銃から弾丸、水、食料、救急キットなどまでを自ら携行して、その名の通り自らの足で機動することが基本です。そして第2次世界大戦期から20世紀のあいだ、歩兵装備の重量は25kg程度でした。

21世紀に入るとこれに加え、防御力強化のためボディアーマーが標準装備となり、ライトや暗視装置、戦場ネットワークにリンクするためのモバイル端末、バッテリーなどが次々と追加され、重量は約55kgまで肥大化してしまいました。しかし、それを携行する生身の人間は、第2次世界大戦時からそう変わってはいませんし、いくら鍛えるといっても限界があります。そこで、これをアシストする「パワードスーツ」の登場というわけです。

日の丸印の「パワードスーツ」はどんなアシストをする?

防衛装備庁で完成したパワードスーツの試作機は、左右腰と膝にアクチュエーター(駆動装置)がひとつずつ計4個、板バネ、センサー、背中に制御部とバッテリーという構造になっており、それ自体の重さは約25kg、バックル式で脱着は簡単にできます。これが30kgまでの加重をサポートし、たとえば50kgを背負っても20kgの重さしか感じないようになっています。

民生用パワードスーツは、平地や室内環境にて歩行での使用が前提ですが、ミリタリー仕様は駆け足にも対応し、また不整地でも安全に使えるバランス制御や安定性が必要になります。

試作品の能力は、硬い地面での歩行速度は4km/h、駆け足13.5km/h、不整地でも2.4km/hまでサポートします。がれきや泥ねい地など、不整地で使用することが前提なので、足に掛かる荷重を細かく検出するセンサーを設け、動きを細かくサポートできるよう制御するといいます。

装着している個人の感覚に合わせて、無線式タブレット端末でセンサーやアクチュエーターのパラメーター調整が即時に可能で、使用状態データーを収集して性能改善にフィードバックすることもできるそうです。また生活支援ロボットの安全規格である、ISO13482の認証を受けています。

なお、大容量バッテリーを4個背負い、作動時間は2時間とのことです。

「高機動パワードスーツ」の行きつく先は…?

防衛装備庁の試作パワードスーツ2018(平成30)年度から、陸上自衛隊の隊員が試作機を装着しての性能評価が実施されています。演習場で災害派遣現場を模した環境でも試験を行っており、隊員からの意見も取り入れながら、試験結果を受けた改良型を製作することになっています。

最近は多発する災害に自衛隊が派遣される機会も増え、現場の作業をサポートできるようパワードスーツの実用化が急がれており、災害派遣用途として2021年度までに実用化できるレベルを目指すといいます。

しかし、自衛隊の主たる任務は我が国の防衛です。本来の歩兵戦闘任務をサポートできるようなパワードスーツは実現できるのでしょうか。強力な火力を持ち、データリンクもできるよう必要な武器や装備を全部抱え、なおかつ踏破性も防御力も持たせたいなどと言い出すと、結局「ガンダム」になってしまうのかもしれません。

2019年11月、「防衛装備庁シンポジウム」にて披露された、「高機動パワードスーツ」試作機(2019年11月13日月刊PANZER編集部撮影)。