2020年2月16日(日)深夜24:00~(17日(月)深夜0:00~)、NHK BSプレミアムの番組「プレミアムシアター」にて、新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエが放送される。去る2020年1月に上演された最新公演をお茶の間で楽しめるうれしい機会だ。なお全作品をマーティン・イェーツ指揮による東京交響楽団が演奏している。

鬼才同士のコラボによる人気作品

話題はなんといってもクリストファー・ウィールドン振付『DGV Danse à Grande Vitesse ©』(以下『DGV』)の日本初演である。これは鬼才ウィールドンが2006年、英国ロイヤルバレエ団に振り付けした一幕物で、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)、オーストラリアバレエレパートリーでもある。音楽はマイケル・ナイマンの「MGV(超高速音楽)」で、フランスの高速列車TGVのパリ-リール間開通記念として書き下ろされた。

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』本島美和、中家正博(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』本島美和、中家正博(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』小野絢子、木下嘉人(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』小野絢子、木下嘉人(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

「旅」をテーマに多彩な動きで表現

『DGV』はフランス語で「高速のダンス」の意。舞台奥には高速列車を思わせる光沢のある装置が配され、4組の男女カップルと男女8人ずつ16名の群舞合計24人のダンサーが「旅」をテーマに変化に富んだ多彩なダンスを繰り広げていく。全体は5つの場面から成り、第1区~第4区というそれぞれの区間を担う男女カップルが最後に勢ぞろいし、群舞と共にハイライトを大いに盛り上げる。変幻自在かつ洗練された踊りが目くるめくように続いて魅惑的だ。

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』米沢唯、渡邊峻郁(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』米沢唯、渡邊峻郁(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

第1区では本島美和&中家正博が張りのある踊りで色っぽく魅せ、第2区では小野絢子&木下嘉人がシャープに踊る。第3区の米沢唯&渡邊峻郁の思い切りの良いダンス、第4区の寺田亜沙子&福岡雄大の伸びやかな踊りも忘れ難い。音楽は現代音楽の巨匠ナイマンらしくミニマルだが、ウィールドンは多彩な速度の変化を緻密にとらえ躍動感豊かに仕上げる 。それを新国立劇場バレエ団は高い水準で体現しており、その魅力は映像を通しても存分に伝わるだろう。

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』米沢唯、渡邊峻郁(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』米沢唯、渡邊峻郁(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』寺田亜沙子、福岡雄大(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』寺田亜沙子、福岡雄大(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

珠玉の名品『セレナーデ』他にも注目

『DGV』の他に3作品が取り上げられた。20世紀バレエの巨匠ジョージバランシンの名作『セレナーデ』はチャイコフスキーの「弦楽セレナード ハ長調」と調和した“音楽の視覚化”である。1960年代にバランシンのお膝元のNYCBで踊ったパトリシア・ニアリーがステージングしており、整然と美しい。『ライモンダ』よりパ・ド・ドゥ(音楽:グラズノフ)はクラシックバレエの様式を確立したプティパ最後の傑作と称される作品の第3幕のパ・ド・ドゥで、小野&福岡が情感をこめて踊る。『海賊』よりパ・ド・ドゥ(音楽:ドリーゴ)もプティパの振付で超絶技巧満載だ。若手成長株の木村優里&速水渉悟の小気味よい踊りに注目したい。

『セレナーデ』(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)© The George Balanchine Trust

セレナーデ』(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)© The George Balanchine Trust

『不思議の国のアリス』再演に高まる期待

話をウィールドンと新国立劇場バレエ団に戻そう。両者の関係を語るには2018年11月に上演した『不思議の国のアリス』に触れないわけにはいかない。ウィールドンが2011年に英国ロイヤルバレエ団のために創作した話題作は欧州や北米の大バレエ団のレパートリーに入り大好評を博している。こちらは抽象的な『DGV』とは趣を異にする全3幕(初演当時は全2幕)の物語バレエで、平明かつ重層的な語り口、音楽性豊かな踊りからバレエ愛・舞台愛がひしひしと伝わってくる。演劇の国・英国出身で、英国ロイヤルバレエ団を経てNYCBでバランシンやジェロームロビンズの作品に接し、のちにミュージカル『パリのアメリカ人』の演出・振付を手がける才人だからこそ創り得たといえるだろう。この21世紀を代表する傑作バレエ2020年6月、新国立劇場、愛知県芸術劇場、高崎芸術劇場で再演される。『DGV』の放送を楽しみつつ『不思議の国のアリス』の上演を心待ちにしたい。

クリストファー・ウィールドンと小野絢子。カーテンコールにて(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

クリストファー・ウィールドンと小野絢子。カーテンコールにて(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)

文=高橋森彦

『DGV Danse à Grande Vitesse ©』(撮影:鹿摩隆司/写真提供:新国立劇場)