「ようやくエースが戻って来た」そんな風に私が安堵していたのは木曜日、マハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でモラタが他の選手と同じメニューをこなしているのを見た時のことでした。いやあ、最近は天候のせいもありましたが、何よりお寒いアトレティコプレーに嫌気がさして、しばらくセッションを見に行くのを遠慮していたんですけどね。今週からの準決勝にはマドリッド勢が1チームもなく、コパ・デル・レイがまったく人事になったせいもあり、モンクロア(マドリッド市内のバスターミナル)から足を伸ばしてみたところ、おやおや。ミニスタジアムでフィジカルコーチのプロフェ・オルテガの指示を受けている選手たちは意外と多数。

ええ、先週末のグラナダ戦で復帰したコケを始め、お隣さんにPK戦で負けたスペインスーパーカップ決勝以来、姿を消していたヒメネス、クルトゥラル・レオネサ(2部B)に敗退したコパ16強対決でケガをしたアリアス、昨年11月に頸椎ヘルニアの手術を受け、ずっとリハビリしていたジエゴ・コスタ、そして2節前のマドリーダービーでふくらはぎを痛めて交代したモラタまで混じっていたとなれば、もうただでさえ、ゴールが入らないこのご時世にCFなしという、それこそ罰ゲームのようなスタメンから、おさらばできるかもしれなかったから。

その後、公表されたバレンシア遠征の招集リストにもコスタ以外の4人は入り、回復待ちなのは足の負傷に続き、今週は風邪も引いて欠勤しているジョアンフェリックス、恥骨炎の手術をして全治1カ月のトリッピアー、そしてエレーラだけになったんですが、それにしても奇妙なのはアトレティコの選手たち。練習ではパスを正確に届けているのに、前節のグラナダ戦もそうだったんですが、試合になると、著しくその精度が下がるのは何故?もちろん敵の選手が邪魔なせいもありますけどね。セッションの後、記者会見で喋ったシメオネ監督によると、「Cuando el resultado es corto el vértigo y el ansia siempre está presente/クアンドー・エル・レスルタードー・エス・コルト・エル・ベルティーゴ・イ・エル・アンシア・シエンプレ・エスタ・プレセンテ(リードが少ないといつも目が回って、焦燥感に駆られる)」のだとか。

いやあ、もう本当に困ったチームですが、とにかく先週末はようやくCL出場圏の4位に戻ったとはいえ、金曜午後9時(日本時間翌午前5時)から、メスタジャで挑むバレンシアは7位ながら、彼らとの勝ち点差がたったの2。おまけに5位のセビージャと勝ち点差がないため、今季は3勝5分け3敗と超苦手のアウェイで再び躓くことがあろうものなら、またしてもヨーロッパの大会圏外へ弾きだされる可能性もある訳で、そのせいもあるんでしょうかね。先週に続き、今週の水曜にもチーム、スタッフ全員でバスに乗ってマドリッドを離れ、山岳地帯にあるレストランで決起ランチをリピートって、あまり例がないかも。

うーん、今回もヒル・マリン筆頭株主の招待というのはともかく、AS(スポーツ紙)によると、この日は食事(https://bit.ly/2SmuyhM)だけでなく、カペア(ミニ闘牛)の見学、マスターシェフ(スペインの人気番組)を真似た選手たちによる料理対決などもあったそうで、いえ、先週、決起ランチをした後、5試合ぶりにようやく勝てたため、2匹目のドジョウを狙ったという説もあるんですけどね。コパ準々決勝敗退のショックもあり、前節は弟分のヘタフェに3-0と叩きのめされていたバレンシアはコクランに加え、頼みのロドリゴもヒザの痛みが治らず、この試合には不参加。とはいえ、ホームでプレーするとなればやっぱり危険な相手であるのは否定できないかと。

ちなみに今週末はバレンシアが来週水曜、サン・シーロでのアタランタ戦が気になるように、アトレティコも火曜にワンダメトロポリターノにリバプールを迎えるCL16強対決1stレグに視線が向いてしまいがちなんですが、そうは言ってもリーガもあと15節しかありませんからね。とりわけグラナダ戦の後など、馴染みの番記者に「ケガ人が全員戻って来れば、アトレティコは勝てると思ってるの?」と皮肉っぽく言われてしまいましたし、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのプレミアリーグ首位独走中、前年度CLチャンピオンのことはまだ考えず、バレンシア戦に全力を尽くしてくれるといいのですが。

え、マドリッド第2のチームとして、神々しく3位につけているヘタフェは土曜午後4時(日本時間翌午前0時)から、カンプ・ノウでバルサに挑むんだろうって?その通りで、ダミアンが累積警告で出場停止となるのは痛いんですが、やはり期待したいのは今季、3人合わせて100才にもなりながら、30本という、どこぞの兄貴分のチーム合計得点より多いゴールを挙げている30代FWトリオ。これがまた、ボルダラス監督がホルヘ・モリーナ、マタ、アンヘルを上手く代わりばんこに使っているため、まあコパ2回戦で敗退したケガの功名もありますけどね。日々、3時間に渡る練習以外、選手たちには疲れも溜まっていないため、今回はカンプ・ノウでリーガ初勝利を掴むいい機会になるかも。

ただ、木曜になって1つ、大きな懸念が浮上してきて、いえ、ルイス・スアレスがヒザを手術して長期離脱。復帰間近と言われていたデンベレも太もものケガを悪化させ、火曜にフィンランドで手術した後、今季絶望(医者から6カ月と言われた)の診断が下りるのが予想されていたため、リーガの特例補強制度を利用して、バルサがCFを探しているのは周知の事実だったんですけどね。その中にはアンヘルの名前もありましたが、候補者リストでは下の方、水曜にマドリッド郊外のスペイン料理レストラン、Filandon(フィランドン)で開かれたチームの慰労ランチ会で100試合出場のプレートをジェネと共にもらっていた当人も、「No hay nada, estoy en Getafe y centrado en mi equipo/ノー・アイ・ナーダ、エストイ・エン・ヘタフェ・イ・セントラードー・エン・ミ・エキポ(何もないよ。ボクはヘタフェにいて、自分のチームに集中している)」と言っていたため、安心していたところ…。

どうやらバルサアトレティコ同様、人件費をリーガの制限ギリギリまで使っていたらしく、この補強には最大2000万ユーロ(約24億円)しか充てられないのだとか。その結果、去年の夏はアトレティコが獲れなかったバレンシアロドリゴ(5000万ユーロ/約60億円)は真っ先に除外され、冬の移籍市場の間は3500万ユーロ(約42億円)でトッテナム移籍の噂が流布。結局、その話が流れて残留することになり、レアル・ソシエダのファンにお詫びのメッセージまで送っていたウイリアム・ホセは、今では「Si ponen los 70.../シー・ポネン・ロス・セテンタ(もし7000万ユーロ/約84億円を払うなら…)」(イマノル監督)と、契約破棄金額満額を積まないといけないよう。

おまけに1500~2000万ユーロ(約18~24億円)でローレン売却を持ちかけられたベティスも3000万ユーロ(約36億円)を主張、アラベスのルーカスペレスも2500万ユーロ(約30億円)とあって、「あれだけチームに高いパフォーマンスで貢献してくれた選手にバルサのようなビッグなクラブからオファーが来たら、ウチは蹴ることができない。移籍金は問題にならないだろう。たったの1000万ユーロ(約12億円)なんだから」と、その慰労ランチ会で余計な売り込みをかけていたアンヘルトレース会長のせいもあったか、木曜の夜にはアンヘルバルサ補強の第1候補とマルカで報じられてしまう破目に。

うーん、出身地カナリア諸島のテネリフェのカンテラ(ユースチーム)から始まり、これまでエルチェ、レバンテ、サラゴサと地味なチームを渡り歩いてきた彼にしてみても万が一、バルサに行けるとなったら、宝クジに当たったようなものかもしれませんけどね。この緊急移籍では選手登録期間が終わったCLには出られませんし、コパも準々決勝で敗退しているため、今週末の試合が終われば、リーガは残り14試合。しかも先発は難しいとなれば、毎試合、彼のことを英雄のように称えてくれるコリセウム・アルフォンソ・ペレスのファンと一緒に、来季のCL出場権獲得を目指した方が32才の人生は充実しているんじゃないかと思いますが、こればっかりはねえ。

まあ、まだバルササッカー協会の特例補強許可が出ていないため、この土曜はレングレが出場停止となるのを利用して、アンヘルにはゴールでヘタフェの勝利に貢献してもらいたいもの。何せこれからしばらく、来週木曜のEL32強対決アヤックス戦1stレグ、日曜にセビージャとの上位対決、そしてアヤックス戦2ndレグとハードな連戦になりますからね。この冬にはエンリ・ガジェゴ(オサスナにレンタル移籍)に代わり、デイベルソン(パルメイラ)が加入したとはいえ、この大事な時期に戦力が減るのは避けたいところですよ。

そして日曜には午後2時という今季新設のシエスタ(昼寝)の時間帯にレガネスがブタルケでベティス戦となるんですが、こちらは相手方が前節のバルサ戦で退場したフェキルが出場停止で使えないのが朗報。2試合の処分を済ませたGKクェジェルが練習中に右ふくらはぎを負傷し、復帰できなくなってしまったのが悪いニュースです。今は同じ勝ち点でマジョルカ、エスパニョールと共に降格圏にいる彼らですが、17位との差は勝ち点2。そのセルタが同じ日曜午後9時から、サンティアゴ・ベルナベウで兄貴分のレアル・マドリーと対戦し、更に来週末には直接対決となるため、ここは分のいいホームでしっかり勝っておかないといけませんが、とにかく今季の残留争いは結構、長丁場になりそうな感じがします。

そしてヘタフェの頑張り次第では、2位のバルサとの勝ち点差3を広げてセルタ戦を迎えることができるマドリーはというと、やはり首位の余裕でしょうかね。もちろん、こちらもコパで準々決勝敗退をしているおかげとCL16強対決マンチェスター・シティ戦1stレグがお隣さんより1週間遅いという事情もありますが、前節オサスナ戦に勝った後、月火と練習はお休み。水曜にバルデベバス(バラハス空港の近く)での練習に戻った選手たちにも特に変わった様子はなく、右手小指を脱臼したベイルがテーピングしていたぐらいで再び、焦点は11月末のPSG戦以来、ずっとリハビリをしていたアザールがいよいよ、今週末は招集されるかどうかにあるよう。

いやあ、彼がいなくても16試合中、コパのレアル・ソシエダ戦しか、負けていないマドリーですからね。このセルタ戦では出場するとしても足慣らし程度の意味合いで、あくまでプレミアリーグリバプールに大差をつけられ、CL優勝が唯一の目標になっているグアルディオラ監督率いるチームを迎える試合で実戦の勘を取り戻していれば有難いといった感じでしょうが、アザールの復帰で割を喰らいそうなのはビニシウス、イスコといったところかと。残っている負傷者はハメス・ロドリゲス、マリアーノ、アセンシオだけですが、今のマドリーはカルバハル、バランセルヒオ・ラモス、メンディが揃った時にGKクルトワが失点することもあまりないため、下位チームが波乱を起こすのは難しいかもしれません。

そして最後に今週のコパ準決勝の結果なんですが、水曜のアスレティックvsグラナダ戦1stレグはムニアインのゴールでホームチームが1-0の勝利。ガバラ(ビルバオの運河で木材を運んでいた船。アスレティックがビッグタイトルを獲った時の水上パレードに使われるが、1983年リーガ優勝以来しまわれている)が、今回こそ、コパ制覇で出航できるかは、まず3月5日に行われる2ndレグでいい結果を出してからとなりそう。グラナダはコパでの得点源となっているソルダードが出場停止となるが痛いんですが、片道11時間かけて、遥々サン・マメスまでバスで応援に駆けつけた地元のファンの後押しが頼みの綱でしょうか。

一方、木曜のレアル・ソシエダとの準決勝1stレグでは1、2時間の近場とあって、サン・セバスティアンのレアル・アレナまで移動したミランデスのファンもあまり苦労はなかったと思いますが、こちらも試合は僅差で終了。ええ、前半9分に2部チームがPKを献上して、オジャルサバルのゴールでリードされた時には大差がつきそうだったんですが、40分にはマテウスが同点弾。その失点の原因となったウーデゴーアが3分後には汚名返上の勝ち越しゴールを奪ったんですが、後半はどちらも点が取れず、2-1のままでしたっけ。いやあ、2試合制だとアウェイゴールを挙げているのが割と結果を左右しますからね。勝ったレアル・ソシエダ3月4日の2ndレグでは決して油断はできませんが…準決勝参加の1部3チームが皆、今季のヨーロッパの大会に出てないっていうのはちょっと、不思議な偶然ですね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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