―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


その78 自衛隊の結婚問題

◆映画『愛と青春の旅立ち』を彷彿させる華やかな結婚式

 自衛隊員の結婚式では、儀礼服(婚礼用)に身を包んだ新郎を見かけます。音楽隊のように華やかな金線で肩や袖、胸元が美しく装飾され、儀礼刀やサーベル(模造刀ですよ)を帯刀します。美しい婚礼儀礼服に花嫁もご家族もうっとりしちゃいます。

 一般の人は自衛隊の婚礼用儀礼服をレンタルできません。特別なのです。映画『愛と青春の旅立ち(原題『An Officer and a Gentleman』)1982年公開』のテーマ曲「Up Where We Belong」(ジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズ)をBGMに花嫁をお姫様抱っこ、といった演出を見たこともあります。自衛官の婚礼用儀礼服だとアリですよね。現職ならではの特典結婚式です。一般の結婚式では女性の婚礼衣装ばかりがゴージャスで目立ちますが、自衛官の婚礼用儀礼服は極上アイテム。儀礼服をまとった結婚式では女性だけでなく男性もともに主役になれるのです。

 もちろん、すべての自衛官がこの婚礼用儀礼服を着るわけではありません。結婚式くらいは普通のタキシードや紋付袴などの日本古来の衣装が着たいという人もいますし、婚礼用儀礼服がいつも見られるわけではありません。運よくそんな結婚式にお呼ばれするときがあれば、ぜひ、儀礼服をじっくり見ていただきたいなと思います。素敵です!

◆結婚しても2人だけの甘い「新婚生活」は送れない

 さて、平成30年10月1日から自衛隊の採用年齢の上限が32歳まで引き上げられました。それまでは、自衛隊の任期制・一般曹候補生ともに18歳から26歳までが採用年齢でした。この制度改正により、これまでは少数で目立たなかった自衛官の結婚と家族別居の問題が頻繁に起こっています。

 今からご紹介するのは自衛官のお母様からいただいた相談のお手紙です。

「自衛官の母でございます。息子は陸士で、入籍を機に子供を授かり家族で暮らすため賃貸契約しましたが、営外で家族居住ができない規則だと言われました。その後、隊長は特例で営外の近くの官舎なら許可すると勧めてくれましたが、奥さんがアレルギー体質で古い官舎にはあわず、官舎料金もとても割高で支払える金額ではありませんでした。

 結局、新婚生活もままならず、お嫁さんは里帰りを決め、アパートを引き払い実家で出産と休養をすることになりました。陸士の身分では家族を持っても民間人のような新婚生活はできないのでしょうか。これでは若い自衛隊員さんは集まらないと思います。隊長さんはとてもいい人柄で人情の厚い方です。私も隊長さんには大変感謝しておりますが、今回のことはちょっと悲しい出来事でした。若い家族の隊員さんたちはどんな生活をしているのか、こんなときでも我慢しなくてはいけないのかと思いました」

 このお手紙を読むと、有事でもないのに家族が離れ離れでは大変だろうと思いました。我が国では少子化問題は大きな課題です。新婚生活なのに配偶者と離れて暮らさなければならない職場はいかがなものでしょうか? 確かにこのお母さんの言う通り、これでは新入隊員は集まりません。

◆新入隊員には原則2年の営内居住義務がある

 なぜ、こんなことになったのでしょうか? 自衛隊ルールについて説明します。

①隊員は隊法55条に定める通り指定場所に居住する義務があること
②原則2年は営内服務の修養期間として営内に居住しなければならないこと
③即応態勢維持、駐屯地警備、駐屯地の火災に備えて、一定数は駐屯地で待機(=営内
者)しなければならないこと


 この手紙の例の場合、ルール①と②により、新入隊員には原則2年の営内居住義務があるため、居住場所は「指定された場所」となります。その後、隊長が特例で営外の官舎で家族と一緒の居住を勧めたようですが、官舎は予算不足のため、古くても修繕や建て替えをしていないところがほとんどです。

 今回のケースは、勧められた官舎が古くアレルギー体質の家族は生活できず、官舎費も「民間住宅より割高」で支払えないため諦めたという話です。結局、新婚の奥さんはご実家に帰り、家族は離れて生活することになりました。採用年齢が32歳まで引き上げられたということは、新しく入隊する隊員さんのなかにはこれまで以上に妻帯者と幼児、乳幼児の親がいるわけです。しかし、先に挙げた3つのルールは変わっていません。

 自衛官は、自衛隊ルールや基本的な生活習慣を身につけるために入隊直後は教育隊という組織に入ります。教育隊にいる半年ほどの間は、基地内の大部屋で外出許可もなかなか下りない集団生活を送ります。お盆などの長期休暇以外は、宿泊のある外出は基本的には許可されません。教育隊を卒業すれば部隊配属となりますが、(海上自衛隊の艦艇勤務など一部の例外を除き)原則2年は営内居住義務があり、実際には2曹に昇進するまでは部隊内の隊舎に居住しなければならないようです。

◆採用年齢を引き上げたのに若い隊員を想定したままの制度

 これまでの制度では高校卒業後すぐの若い青年を想定していました。既婚者や乳幼児の子供をもつ隊員も少なかったはずです。大半の若い自衛官はそのルールに従って家族と離れて長期にわたって集団生活を義務付けられています。しかも、営内の生活は職場に拘束されているにもかかわらず、その時間に対する手当はつきません。夜間や早朝の清掃義務にも別途賃金が出るわけではありません。

 一般企業であれば、勤務時間を終えても職場に拘束される場合は残業手当や賃金が支払われます。自衛官に勤務時間が終わっても家族と離れて職場に居住する義務を課すのなら、その犠牲に伴う報酬があって然るべきです。営内に家族と同居できる家族用隊舎を作るのが理想ですが……。

 一番手がかかる乳幼児の子育てに参加できない父親は、家族のなかの所在が不明瞭になり不幸だと思います。家族間のコミュニケーションを取る時間がない分、離婚や離職といった反発が起きないか心配です。これからこの問題はさらに多発する気がしています。せめて2年間の家族が離れ離れになるご苦労に対して、何らかの報酬を考えてほしいと思います。

 自衛官が精神的・経済的に憂いなく安心して任務に励めるよう、制度や生活環境の整備も支援していきたいものです。

小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年ブログキラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―


※陸上自衛隊公式Facebookより