民主党出身のアメリカ大統領には共通する3要素がある。それは、若いこと、エリート中のエリートの学歴と経歴を持ち合わせていること、そして演説がうまいことだ。オバマ大統領も、クリントン大統領も、ケネディ大統領もこの3つを持ち合わせている。

 今回の大統領選挙でも、この条件にぴったり合う候補者が1人いる。それが、38歳のピーターブティジェッジである。

 アイオワ州の民主党予備選挙では、下馬評1位だったバーニー・サンダース(78)を押さえて1位。ニューハンプシャー州でも、サンダースに僅差で負けはしたものの2位につけ、一時は支持率でトップを走ったエリザベス・ウォーレン(70)を獲得率で3倍近く引き離した。

「目を瞑って聞くとオバマのようだ」

 38歳という若さに加え、スマートな経歴とよどみない爽やかな演説で指名争いのトップグループに駆け上ってきたブティジェッジ。彼はどんな人物なのか。

 ブティジェッジは、ハーバード大を優秀な成績で卒業後、アメリカでもっとも優秀な学生が手にすると言われるローズ奨学金に選ばれ、英オックスフォード大学に留学する。ローズ奨学金はクリントン大統領も手にしているが、全米で選ばれるのは約30人。在学生が選ばれた大学は、その学生のために大学主催で盛大なパーティをするほど栄誉のある賞である。

 その後、ブティジェッジは、エリート集団のコンサルティング大手マッキンゼーで働く。趣味のピアノの腕前はプロ並みで、複数の語学も堪能だ。父親の母国語であるマルタ語をはじめ、ヨーロッパの言葉はほとんど話せると言われている。

 よどみない演説は、ハーバード大の先輩であるオバマ大統領を彷彿させる。「目を瞑って聞くとオバマ大統領のようだ」とインタビューで語る支持者もいるほどだ。ちなみに、クリントン大統領オバマ大統領も、ブティジェッジと同じように、とても勝てるとは思えない位置から予備選の演説で支持者の心を掴んできた。

 今回の大統領選で名乗りを上げるまで、ブティジェッジは、インディアナ州の人口10万人ほどのサウスベンド市の市長をつとめる無名の政治家であった。

 そのため立候補当時、各メディアは共通して困ったことがあった。名字の発音の仕方がわからなかったのである。

 若者に一番人気のあるテレビ番組「デイリーショー」では、大統領選を伝えるキャスターコメンテーターが、ブティジェッジの発音に困る動画を集めて特集を組んでいたほどだ。この番組は大学生の政治知識になっていると言われるほどの人気番組だ。

 徐々に注目を集めると、この番組で「ブティジェッジって誰?」という特集ビデオが作られた。そして、最後に司会者のトレーバー・ノアはこう語った。

「いくら探しても悪いところがないんだ! 完璧なんだ」

ネットパートナーと出会う

 彼の経歴を見ると、エリート街道を苦労なく歩いてきたようにみえるが、そうとも言い切れない部分がある。

 ブティジェッジは、ゲイであることを公表している。2019年4月に立候補宣言した時も、テレビ討論会に出た時も、同性婚をしたチャスティンが一緒にいた。会場ではハグし、キスもしあう。

 しかし、同性愛者であることを公表したのは2015年。ここに来るまでの道は容易ではなかったことが窺える。

ニューヨークタイムズ」に掲載されたハーバード時代の同級生インタビューによれば、当時はハーバードといえども、まだゲイ反対の空気が強かったという。そんな中、ブティジェッジは「男らしさ」に対して努力していた。例えば、低い声で演説する練習をしていたという。ガールフレンドがいたこともある。ブティジェッジによると、自分がゲイだと確信した20代の時から、ゲイであることがわかると自分が夢見る将来がなくなる、という恐怖を感じながら、もがいていたという。

 大統領選の中でも、難しい立場に置かれることもある。今年2月3日アイオワ州の民主党予備選挙の際には、「ピート市長がゲイだとは知らなかった。私の票を返して欲しい」と語気を強める女性の姿が報じられて話題になった。対応した民主党スタッフが「あなたは彼の政策が気に入って投票したんでしょ。ゲイかどうかなんか関係ないんじゃないの」と諌めた言葉も全米のニュースを駆け巡った。アメリカでは、宗教的な背景もあって同性愛は敏感な話題なのだ。

 最近では、映画だけではなくテレビドラマにも、同性婚の設定が出てくるようになった。それでも、アメリカ大統領同性婚を認めたのはオバマ大統領の再選の大統領選時(2012年)で、ほんの8年前。その際もオバマ大統領は悩みに悩み、自分で演説原稿を書いたエピソードが知られている。

 1982年まれのブティジェッジにとっても、カミングアウトは容易なものではなかったのだろう。政治的野心を持つ彼は、カミングアウトした上で有権者から「パーフェクト」と言われるために、それ以外の経歴を追求してきたかのようにも見える。

 その一つが、軍の経験だ。ブティジェッジ2009年に予備役に登録。2010年インディアナ州の財務長官に立候補して共和党候補に破れて落選するが、翌年にサウスベンド市長に29歳の若さで当選、1期目の任期中の2014年に7カ月の休みを取ってアフガニスタンに従軍する。ここでの経験から覚悟を決め、2015年に満を持してカミングアウトし、2018年同性婚することになる。

 夫となるチャスティンと出会ったのは、出会い系アプリ「Hinge」だ。ブティジェッジプロポーズをし、チャスティンはブティジェッジの名字を名乗るようになる。2019年5月には、2人は夫婦として「タイム」誌の表紙を飾っている。いま、ブティジェッジが演説をし、そして夫と抱き合いキスする姿や一緒にインタビューを受ける姿を見ると、今が一番彼にとって安らかな時間なのだろうな、と思えてしまう。彼の人生は、今始まったばかりとも言えるのだ。

若者からの支持は低迷

 ブティジェッジは今後、支持を広げられるのだろうか。

 白人男性の有権者には、基本的に共和党が強い。民主党内では、若者、女性、人種・宗教といったマイノリティ票の獲得が重要になる。

 民主党大統領候補のトップ4の候補者は、ブティジェッジ以外は、サンダースも、バイデン(77)も、ウォーレンも70歳代。コメディショーでは、この3人の討論会でのやり取りは、物忘れする年寄りの茶飲み話として茶化されている。

 だが、21世紀になってから成人した「ミレニアル世代」の人気は、自らを「社会主義者」と言うサンダースが一番だ。この世代の旗手として知られる、史上最年少の女性下院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテスは、サンダースへの支持を公言し選挙イベントに帯同する。

 特に、若者には「大学授業料フリー」と声高に叫ぶ演説が圧倒的に支持されている。アメリカでは、大学生1人に年1000万円の教育費がかかると言われており、大学を卒業するときにはほとんどの学生が教育ローンを背負っている。中学校卒業式で「この学校のシナモンパイは美味しい、フリーにすべき!」とサンダースを真似する演説動画が全米で話題になるほどサンダースの演説は子供にまで理解されている。

 一方のブティジェッジは、ミレニアル世代からの支持は低く、どちらかというと、有権者の年齢を上がるほど支持が高くなる傾向がある。ミレニアル世代から見ると、エリートすぎて友達になりにくい「先生のお気に入り」のような存在と認識されてしまっているようだ。

 今回のニューハンプシャーの予備選挙で、ブティジェッジライバルとして頭角を表したのは女性候補の1人、59歳のエイミー・クロブシャーだ。3期目の上院議員だが、ニューハンプシャー州の予備選挙の直前のテレビ討論会でディベート力を見せつけ、注目が集まっている。政策は、ブティジェッジと同じ現実的な中道派である。

LGBTQグループブティジェッジをどう見るのか

 最後に、ゲイをカミングアウトしているブティジェッジに対する、LGBTQグループの思いを紹介しよう。

 LGBTQグループの胸中は複雑だ。彼らにインタビューすると、カミングアウトした人が大統領候補の一角に入っていることに驚き、そして喜んでいる。だが、それを表現してはいけないのではないか、と思っている人も少なくない。カミングアウトしていない人にとっては、彼を支持していると自分自身のこともバレてしまうのではないか、という不安もあるという。

 ブティジェッジの政策は、社会主義者を自認するサンダースやウォーレンに比べると、マイノリティにそれほど優しいものではない。だが、ブティジェッジが政策について語らなくても、ゲイという背景から「マイノリティにとっては気持ちをわかってくれる人」という思いに繋がっている部分もあるだろう。

 ブティジェッジが序盤から順調なのは、12月までの世論調査では表に出なかった「隠れブティジェッジ票」があったのではないか。それが、アイオワ州、ニューハンプシャー州で、票として出現したのかもしれない。

 今後、予備選はマイノリティの多い州に移っていく。これからのブティジェッジへの支持の広がりに注目したい。

(横江 公美/週刊文春デジタル

ブティジェッジはどこまで支持を広げられるか ©AFLO