TBSの日曜劇場「テセウスの船」、先週2月9日放送の第4話では、特別出演の上野樹里が第1話以来久々に登場し、熱演を見せた。

上野樹里の熱演に圧倒される!
上野が演じるのは、主人公・田村心(しん/竹内涼真)の妻・由紀。だが、彼女は第1回で心との子供を出産後、急死していた。心は由紀の死後、父・佐野文吾(鈴木亮平)が犯人とされる無差別殺人事件の起こった宮城県音臼村を訪ねたところ、31年前の1989年タイムスリップ、事件を阻止しようと村の駐在警官だった文吾と奔走していた途中、突如として2020年に戻り、死んだはずの由紀と再会する。由紀は死ななかったというだけでなく、そもそも心と結婚せず、したがって子供も儲けていなかった。心がタイムスリップしたことで未来が変わってしまったのだ。そこで由紀は、誰とも結婚せず(実家暮らしで名前も旧姓の岸田なので、そう推察される)、週刊誌の記者として、例の無差別殺人事件について取材を進めており、その奇妙な縁で心と巡り合う(余談ながら、由紀が在籍する「週刊実在」のロゴと表紙絵が、上野の義父である和田誠が長らくかかわってきたあの週刊誌を思い起こさせるのは気のせいだろうか?)。

妻とはほとんど別人になってしまった由紀だが、心は死刑囚となった文吾の無実の罪を晴らすべく彼女にある相談を持ちかける。それは、小学校で起こった無差別殺人事件の被害者の集まる会に出席して、父が無実である証拠になりそうな話を聞き出したいというものであった。だが、被害者たちは文吾の一刻も早い死刑を望んでいるだけに、そんな会に加害者の子供である心が出てはどんな目に遭うかわからない。由紀はそう言って止めるも、心がある人に「心の父親だから信じてみたい」と言われたとあまりに切々と話すので、ついには折れて被害者の集いの場所と日時を教える。もちろん「ある人」とは、妻の由紀のことだ。記者の由紀はそんなことは知らず(言っても信じないだろうが)、心を信じると言ってくれた人はきっとすてきな人なんでしょうねと口にする。これに心は「はい。俺の一番大切な人です」と返すと、由紀と別れた。

こうして心は仙台のホテルで行なわれる被害者の集いにのぞむのだが、会場の前まで来るとさすがに躊躇してしまう。そこへまた由紀が現れた。「こんな無謀な作戦聞いたことないですから。見逃したら後悔するなと思って」とあくまで記者としてクールに振る舞う彼女だが、本当は心を心配して来たのだろう。心はその直前に再会していた姉の鈴(貫地谷しほり)からも電話で後押しされるも、いまは名前も顔も整形して変え、しかもある事情を抱えて生きる姉のことを思うと、結局会場に入るのを断念する。それを見かねた由紀は思い切った行動に出る。何と心に代わって会場に乗り込み、壇上に上がると、被害者たちに向かって「佐野文吾氏は本当に犯人なのでしょうか?」と問いかけたのだ。さらに彼の無実を信じていまも必死に戦っている人がいるとして、「もし仮に別の真犯人がいるとしたら、佐野文吾氏とそのご家族を悪夢のような人生から救い出すべきではないでしょうか」と訴えたところで、被害者から水をかけられてしまう。それでもなお、「当時は事情があって言えなかった情報をお持ちの方がいらしたら、ぜひ教えてください」と伝えるべきことは伝えきって、壇上から降りたのだった。

それまで冷静だった由紀だが、会場から出てきて再び心と顔を合わせると、「めっちゃ怒られちゃった〜」と茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。その表情に、心はかつての妻の姿を重ね合わせる。それにしても、同じ作品のなかで、まったく違う人生を歩むことになった同一人物を演じ分けてみせる上野の演技には、すっかり圧倒されてしまった。この熱演によって、たとえ結婚せずとも、心と由紀のあいだには強い絆がなお残っていたことがあきらかにされた。ただ、私は一方でこの場面に違和感も覚えた。これについてはあとで触れることにして、まずはいま一度、第4話のあらすじを振り返っておこう。

素性を隠して事件の被害者と結婚した姉
1989年からタイムスリップして2020年に帰ってきた心は、由紀との再会に続き、仙台拘置所に死刑囚として収監されている父・文吾とも“30年ぶりに再会”を果たす。心が現代に戻ってから、文吾は彼から事件が起こると伝えられていたその日、小学校のお楽しみ会で青酸カリが混入されるはずだったジュースをすべて捨てさせ、事件を防ごうとした。だが、青酸カリジュースではなく会場に用意されていたはっと汁に入れられ、結局、大勢の死者が出てしまう。このあと文吾は、自宅から青酸カリが見つかって逮捕された。真犯人はどうやら心が捨てたノートを見て計画を変えたらしい。結局、心のおかげで文吾は事件の犯人にされてしまったことになる(だとすれば、心がタイムスリップする以前、文吾はどうして犯人になったのか気になるところだが……)。

たびたび咳き込み体調が思わしくない様子の文吾だが、警官だったころと同じく努めて明るく振る舞いながらも、もう再審請求をするつもりはないと心に告げる。弁護士からはすべてがひっくり返るような新たな証拠や証言が出てこないかぎり再審は無理だと言われたという。

心は文吾から、先日、姉の鈴が初めて面会に来てくれたと教えてくれる。彼女はいま妊娠中で、東京に住んでいると教えられた心は、さっそく住所を頼りに訪ねていくと、家の近くまで来たところで再会した。鈴は夫には父のことは隠し、名前も「村田藍」に変えてまったく別人として生きていると打ち明ける。久々に心と会った鈴はよそよそしく、互いの連絡先を交換するとすぐ立ち去ろうとしたのだが、そこへ老女の押す車椅子に乗った男が現れた。鈴の夫の木村みきお(安藤政信)だ。老女はみきおの母で、木村さつき(麻生祐未)といった。心はその名前と顔にハッとなる。31年前に出会った、殺人事件の起こる小学校の元教諭だったからだ。みきおに家に招かれた心はさらに衝撃の事実を知る。みきおは事件の被害者で、青酸カリ中毒の後遺症により足が不自由になってしまったというのだ。

鈴は、母の和子と弟の慎吾(心にとっては兄)が心中して死んだあと、まだ幼かった心とともに養護施設に預けられたが、のちに心を置き去りにして施設を離れ、介護士になっていた。みきおとは仕事でたまたま出会い、罪を償うつもりで結婚したという。みきおは「村田藍」となった鈴の正体は知らないが、義母となったさつきはすでにそれに気づいていた。それどころか、あきらかに鈴に恨みを抱き、彼女の監視をひそかに続けているという、何ともホラーな展開に。その後、心が鈴とひそかに喫茶店で会い、被害者の集いに出席すると伝えたときにも、さつきはこっそり盗み聞きしていた。

被害者の集いのあと、心は由紀から、事件について新たに証言してくれる人が現れたと伝えられる。佐野の弁護士宛てにその人物から手紙があったという。一方、さつきは鈴をSNSで呼び出そうとしていた。さつきの手元には、見覚えのある怪しげな絵と、さらに青酸カリの入った瓶が……ということは真犯人は彼女なのか!? 今夜放送の第5話でどこまで謎はあきらかになるのか。それともまた新たな謎が生まれるのだろうか。

心はなぜ無謀な行動に出たのか?
さて、話をいま一度、心と由紀が被害者の集いに乗り込んだ場面に戻そう。原作コミックにはないこの場面に、なぜ私は違和感を抱いたのか。それはまず何より、あまりにも無謀だと思ったからだ。加害者側の人間がそんなところに飛び込んでいけば非難されるのは必須だし、被害者たちの心を傷つけかねない。それでも心がそんな行動に出たのは、新たな証拠や証言が出ないかぎり再審は無理だと弁護士に言われ、文吾が再審請求をとりやめようとしていたためだ。しかしそうだとしても、果たしてもっとべつのやり方はなかったのだろうか。たとえば、被害者の集いには、事件当時の村民である井沢(六平直政)や徳本(今野浩喜)などの姿は見当たらなかった。彼ら被害には遭わなかったと思われる人たちから丹念に話を聞き出すという手段を、心はなぜ選ばなかったのだろう?

加害者家族によるああいう無謀な行動があったと司法関係者が知れば、心証を悪くするだろうし、下手をすれば再審請求の道が完全にふさがれてしまう可能性もあったはずだ。ここで気になるのは、このドラマでは弁護士の存在が希薄なことだ。じつは原作では、心と鈴が一緒に文吾と面会し、そこで文吾は二人に、弁護士から聞いた話として、再審に向けて新たな証拠が揃うかもしれないと伝えていた。原作では弁護士が結構頑張っているのに、ドラマではあっさり匙を投げてしまっている点で大きく異なる。ちょうど最近、現実に確定死刑囚の再審請求のため奔走する弁護士を追ったドキュメンタリー「死刑弁護人」(東海テレビ制作)をたまたま観たばかりだっただけに、よけいにそのあたりが気になってしょうがなかった。

もちろん、由紀が心にとってかけがえのない存在であることを強調し(そのために本来なら弁護士が担うべきところも由紀が代わりに負って心のためにあれこれ動いているのだろう)、ドラマをより劇的に見せるという意味では、あの場面は効果的だったと思う。そもそもこのドラマは司法ドラマではない。事件は裁判によってではなく、おそらく、というかほぼ間違いなく別の形で解決を見るのだろう。それがどういったものになるのか、原作とはまた違ったものになるのか。そのあたりも含めて、今後の展開がおおいに気になるところである。(近藤正高)

イラスト/まつもとりえこ