朝鮮半島の地政学

 中国大陸に “盲腸”の様にくっついた朝鮮半島地政学の第1は、「中国への従属性」である。

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 ここで言う「中国」とは、前漢以降の歴代中国王朝国家のことである。

 朝鮮では紀元前3世紀頃、前漢初期に衛氏朝鮮が冊封されて以来、1895年に日清戦争で日本が清を破り、下関条約によって朝鮮を独立国と認めさせるまで、ほぼ一貫して中国の冊封国であった。

 戦後、1949年に中国が建国された後は、北朝鮮はもとより、韓国に対しても徐々に影響力を強めている。

 朝鮮半島地政学の第2は、「大陸国家と海洋国家の攻防の地」である。

 朝鮮半島はユーラシア大陸東端から約600キロも太平洋に向かって南東方向に伸びている。

 このために、朝鮮半島は、ユーラシア大陸に出現する大陸国家にとっては、太平洋方向に進出する際の足がかりとなる地形であり、一方、太平洋に出現する海洋国家にとっては、ユーラシア大陸東部に進出する際の足がかりとなる地形である。

 今日、ユーラシア大陸の東側を占める中国とロシア(世界に冠たる2つの大陸国家)にとって、朝鮮半島太平洋に向かって米国(世界を支配する海洋国家)と覇権を争ううえで重要な地形となる。

 また、米国にとっては、近年急速に台頭する習近平氏の中国と覇権争いをするうえで朝鮮半島は重要である。

 朝鮮半島地政学を韓国に当てはめれば、次のようになろう。

●韓国は、地政学上は中国の支配・影響下に入るのが自然の流れである。

 約2000年以上にわたる中国の支配により、今日も中韓両国の主従関係は「DNAの中に刻み込まれている」と比喩できるほどだ。韓国は、中国に対して恐怖心とその反動としての反発心を同時に持っている。

●韓国は米国と中国が覇権争いをするうえで、せめぎ合いの焦点となる地である。韓国は米中の覇権争いに巻き込まれ翻弄される宿命にある。

八方塞がりの文在寅政権

 文在寅大統領の「反日・離米・従北・親中」という歪な外交路線により孤立を深めていた韓国は、今次中国の新型肺炎発生により、以下のように、さらなる八方塞がりの状態に追い詰められつつある。

新型肺炎で従北政策は破綻

 中国発の新型肺炎北朝鮮は国境を閉ざし殻に籠ってしまった。

 1月30日北朝鮮は開城にある南北連絡事務所を一方的・暫定的に閉鎖した。従来から鎖国状態の北朝鮮は、新型肺炎の流入を阻止するために、対外貿易や人々の移動に関する制限をさらに厳しくしている。

 農業の不振で飢餓に苦しむ人民が、新型肺炎に対する抵抗・免疫力は弱く、感染が広がればその犠牲者は1994年から96年の餓死者(300万人)を上回る可能性がある。

 そのような事態になれば、それは金王朝の存立を揺るがす事態(体制崩壊)に繋がることを金正恩朝鮮労働党委員長も十分に計算に入れたうえでの「鎖国」措置だろう。

 文在寅大統領は「従北」を外交政策の中心に据え、北朝鮮に媚びを売る政策をとり続けたきた。

 しかし、その北朝鮮が自ら窓を閉ざせば文在寅氏の「従北政策」は、当面の間とは言え、破綻せざるを得ない。

新型肺炎で中韓関係は一層冷却

 朝鮮半島地政学で述べたが、朝鮮民族は、中国に対して恐怖心と反発心を同時に持っている。その一端は新型肺炎への韓国国民の反応にも表れている。

 韓国人は中国と新型肺炎の恐怖を重ねてイメージしているようだ。

 それゆえ、日本に比べれば異常なほどに強烈なコロナウイルスに対する危機意識を持ち、同時に中国人をも嫌忌しているようだ。

 中国人入国禁止求める青瓦台請願が50万を超え、新型肺炎感染拡大で多くの幼稚園・学校が休園・休校し、明洞などの繁華街のレストランやコンビニなどに、『中国人立入禁止』の張り紙が貼られはじめたという。

 韓国民は、中国が日本と韓国の支援に対する評価・感謝に格差をつけたとして、日本に嫉妬する有様だ。

 中国外務省の華春瑩報道局長は2月4日、記者会見で、日本からの支援について「非常に感動した」と述べた。

 そして、日本からのSNS上での「中国がんばれ」のメッセージや日本政府と企業からの大量の支援物資、武漢を応援する意味での東京スカイツリーのライトアップなど、一つひとつ事例を挙げて賞賛した。

 実は会見では、韓国に対しても謝意が示されているのだが、韓国メディアはその扱いが気に食わなかったようだ。

 紙面には「日本だけに対する“特別な感謝”とは表現の程度が違った」と、日本への嫉妬と思われる表現で、日本よりも支援が遅れた文在寅政権を批判した。

 文在寅政権はこれまで「反日・離米・従北・親中」という外交路線であった。

 今回の新型肺炎の拡大事態においても、文在寅氏の中国に対する弱腰姿勢が改めて露呈したが、世論はそれに反発している。

 あまつさえ、韓国世論の中に「嫌中ウイルス」が蔓延すれば、それは文在寅政権の掲げる「親中」政策には「逆風」として作用することになる。新型肺炎が中韓関係を冷却させるのは避けられないことだろう。

新型肺炎韓国経済は深刻化

 韓国は輸出の対GDP比が37%と日本(15%)より高い。輸出全体の4分の1強を占める最大の輸出先は中国。

 その中国が新型肺炎により経済的なダメージを受ければ、それは韓国経済にも直接的に影響するのは当然だ。

 日米の政治経済関係について「アメリカがくしゃみをすると日本は風邪を引く」と言われた。

 日米の政治経済が強い関係にあるがゆえに、米国が不況や株価暴落などに見舞われると、日本はそれ以上の影響を受ける事を揶揄する言葉である。

 中韓経済関係もそれと似ているわけだ。

 現代自動車は、新型肺炎の感染が拡大するなか、中国から部品の供給が滞ったため、韓国国内すべての工場で操業を停止することを決めるなど経済への影響が広がっている。

 また、中国のみならず日本からの観光客が激減するのは確実だろう。

 アカデミー賞4部門で受賞した韓国のブラック・コメディ映画『パラサイト 半地下の家族』では、韓国のおそるべき「超格差社会」が描かれているが、新型肺炎は、より深刻な貧困層を生み出す可能性が高い。

 その怨嗟が文在寅政権に向けられるのは当然だ。

●米韓関係は悪化の一途

「反日・離米・従北・親中」という外交路線を採る文政権と米国の関係は悪化の一途をたどってきた。

 日本、米国、インドオーストラリアなどが安保・経済で連携する「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」は、中国が主導する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いもある。

 ここに、当然参加すべき韓国は、これに反対する中国の意向を忖度して、「もう少し協議が必要」などと繰り返し、旗幟(きし)を鮮明にしなかったが、ようやく2019年6月になって「協調する」と表明した。

 また、日本との間のGSOMIA破棄は、結果として中国・北朝鮮におもねるもので、米国の怒りを買った。

 米国防総省は「強い懸念と失望を表明する」という声明を発表し、マイク・ポンペオ国務長官も「韓国政府の決定に失望している」と述べた。

 このような流れの中で、ドナルド・トランプ政権は在韓米軍経費負担増大(駐留経費を5倍「50億ドル」要求)へ圧力を強めているが、いまだ決着はついていない。

 文在寅政権下の韓国では反米世論が高まり、その矛先が「日系」の米ハリス大使に向けられている。

 反日を標榜する文在寅政権下の韓国では、ハリス米大使が口ひげを生やしていることにまで難癖をつけた。

 すなわち、「大使の口ひげは、日本の統治時代に朝鮮総督の多くが口ひげを生やしていたのを想起させる」というのだ。

 このように、米韓関係は負のスパイラルに陥っており、在韓米軍の撤退まで噂に登るほどだ。

 筆者は、米韓関係を破壊する文在寅政権に対し、米韓同盟が韓国の安全保障と繁栄の基であることを確信している韓国軍幹部がクーデターを起こすのではないかと“期待”さえしている。

●日韓関係は冷却したまま

 日韓の間には、竹島問題、元徴用工賠償問題、レーダー照射問題、旭日旗掲揚問題、日本の輸出管理体制の見直しに伴う韓国の反発など枚挙に暇ない。

 しかも、文在寅政権下では悪化こそすれ解決に向かう糸口さえも見えない有様だ。

 反日は「これでもか、これでもか」と次から次に登場する感がある。

 東京オリンピックパラリンピック東京電力福島第1原子力発電所事故と結びつけて「あたかも放射能汚染があると思わせるような事実を歪曲(わいきょく)し、揶揄(やゆ)する」ポスターを韓国の民間団体が制作し、ソウルの在韓国日本大使館の建設予定地のフェンスに貼った(1月6日)。

 この民間団体は、「サイバー外交使節団」を名乗り、「旭日旗戦犯旗」と主張する映像を動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップする運動なども展開している。

 これは、直接・間接的に文在寅政権の意図に沿った反日世論を喚起する活動であろう。

『反日種族主義』という著書が注目されているが、日韓の確執は根深く、関係改善は極めて困難に見える。

 あまつさえ、「反日・離米・従北・親中」という外交路線を採る文在寅政権のもとでは日韓関係は悪化こそすれ、改善は絶望的と言わざるを得ない。

八方塞がりの文政権
「反日」以外「カード」なし

 上記のように、韓国・文政権を取り巻く国際環境はまさに八方塞がりの状態である。

 4月の国会議員選挙はこうした悪環境の中で行われる。選挙の時点で、大統領の任期は約2年を残すのみで、選挙に負ければ一挙にレームダックに追い込まれる。

 さらに、歴代大統領と同様に、悲惨な末路が待っていることだろう。文在寅氏としては、「死中に活を求める」覚悟で、選挙戦を戦うことになる。

 八方塞がりの文政権が、選挙に勝利して生き残るために残されたカードは「反日」しかないのではないか。

 早速、反日の狼煙が上げられた。

 2月12日付の「中央日報」(保守系)は、日本とのGSOMIAについて大統領府の中で破棄すべきだという主張が再浮上していると報じた。

 日本にとっては痛くも痒くもない案件だが、米国は違う。

 文在寅氏は、再度米国から厳しい叱責を受けることになるはずだ。そうなれば、韓国は「反日」のみならず「反米」で盛り上がるだろう。

 文在寅氏としては、それも織り込み済みかもしれない。

 選挙に照準を合わせて、「反日・反米」で韓国世論が盛り上がれば、左翼陣営の選挙にとっては突風のような「追い風」が吹くことになる。

 そうなれば、トランプ政権の在韓米軍経費負担増大へ圧力にも抗しうると計算しているのかもしれない。

 文在寅氏は、「韓国がどんなに抵抗しても、米国は対中国戦略上、韓国を切り捨てることはできない」と踏んでいる可能性が高い。

 文在寅氏は4月の選挙を過ぎると、東京オリンピックの妨害・サボタージュを行うなど、任期の間の延命策として「反日」を継続するだろう。

日本の対韓政策はいかにあるべきか

 日本は韓国を「真面な相手」として付き合うべきでない。

 未来永劫、「反日種族国家」であることを前提として、対韓国・北朝鮮外交・戦略を構築すべきだ。

 そうしておけば、万が一、韓国が宥和に転じても対応できる。逆の場合は、再び混乱をきたす。

 韓国を制御する手段は、米国と中国を使うことだ。

 日本は、日米安全保障条約により、間接的に米韓相互防衛条約を締結する韓国を制御することができる。

 在韓米軍は北朝鮮・中国の脅威に対抗するものであると同時に、韓国が日本に対して“暴発”を抑止する機能もある。

 一方の中国は、今も隠然たる“宗主国”とし韓国を抑える力を持っている。

 桜が咲く頃に習近平氏の訪日が予定されている。日本の世論の中には、習近平氏を国賓として迎えることに反対する向きもある。

 しかし、日本の地政学的な立ち位置(米中覇権争いの渦中にある)を考えた場合、中国とも一定の良い関係を構築する必要がある。

 新型肺炎の影響で習近平氏の訪日が実現するかどうか不明ではあるが、韓国を抑えるという意味からも、同訪日を実現させ、成功させることが日本の外交戦略上は望ましい。

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