(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 今や世界最大となった中国自動車市場ですが、28年ぶりにマイナス成長を記録した2018年に引き続き、2019年も2年連続で縮小となりました。それに伴い、これまで急成長が続いてきた新エネルギー車(以下、「新エネ車」)市場もマイナス成長に転じました。

 一方、高級車市場は好調を維持し、大手高級車ブランド各社は好調な業績を残しています。こうした消費者のハイエンド志向の傾向は新エネ車市場にも影響するとみられ、上海工場を稼働させたばかりの米国の高級電気自動車メーカー、テスラモーターズの動向にも注目が集まっています。

 そこで今回は、中国の新エネ車と高級車市場について、2019年統計データを交えつつ紹介していきます。

2年連続で市場が縮小

 前回の記事「2年連続マイナス、中国自動車市場に反転の兆しなし」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59157)でも紹介した通り、2019年における中国の自動車販売台数は前年比8.2%減の2577万台でした。

 市場縮小の背景には中国経済の成長鈍化、市場飽和などのほか、近年発達してきた中古車市場による浸食などが挙げられています。すでに2020年も市場縮小が続くと見込まれており、その縮小幅は2%ほどと予想されています。

新エネ車市場の今後は政府の対応次第

 続いて新エネ車の販売台数を見ていくと、2019年は前年比4%減の120.6万台でした。2016~2018年における成長率は毎年50%超でしたので、深刻な急ブレーキといえるでしょう。

 2019年に新エネ車市場に急ブレーキがかかった理由ははっきりしており、政府の購入時補助金政策が大幅に縮小されたためです。縮小前の2019年6月には駆け込み需要が起きたものの、下半期にかけて販売台数の落ち込みは拡大していき、最終的には通年でマイナスとなりました。

 中国工業・信息化部によると、2020年7月1以降は購入補助金政策の大幅な縮小はせず、今後も新エネ車の普及を推進していくとしています。しかし2019年の結果から見る限り、中国の新エネ車市場は政府の奨励策次第の面が濃く、いまだ自立した市場とは言えません。つまり、今後の新エネ車の発展は政府の対応次第といったこととなります。

動力電池は中国「CATL」の一強

 続いて、新エネ車の心臓部ともいえる動力電池市場についてみていきます。

 2019年に動力電池として搭載されたリチウムイオン電池種類を見ていくと、ニッケルマンガン、コバルトの混合材料を使用する三元系のシェアが65.2%と過半数超を占めています。一方、かつて主流であったリン酸鉄系のシェアは32.5%であり、またその搭載量も前年に比べ9%落ち込んでいることから、今後も三元系に取って代わられ、シェアは縮小していくと予想されます。

 もっとも、動力電池分野の技術革新はいまだ活発であり、三元系が今後も安泰とは限らないでしょう。より効率的な電池の登場によっては業界構造が大幅にひっくり変わる可能性があります。

 続いて、搭載量でみた電池メーカーの順位です。寧徳時代新能源科技股份有限公司(以下、「CATL」)が31.46GWhで、2位の比亜迪股份有限公司(「BYD」)以下を大きく突き放してトップに君臨しています。CATLはトヨタ自動車テスラモーターズなど、大手自動車メーカーとの提携をさらに広げており、動力電池分野において同社の天下は今後数年間は確実といえる状況です。

コロナウイルスでテスラ上海工場が停止

 そのCATLと電池供給で提携を行った米テスラモーターズですが、単独資本で建設を進めていた上海工場「ギガファクトリー」が2019年末についに稼働しました。

 同工場ではテスラモーターズの「モデル3」を量産するほか、今後は「モデルY」の量産も計画されています。これまで同社は中国市場において、中国国外で生産した輸入車のみを販売してきました。しかし今後は段階的に現地生産車へと切り替えていく予定です。

 現地報道によると、上海の現地生産車はこれまでの輸入車よりも原価が65%低減され、「モデル3」の標準グレード基本価格も、従来より大きく引き下げられる見通しです。

 ただ、同工場は2月初旬時点で、コロナウイルスの流行を受け、政府の指示により稼働を停止しています。テスラ側によると、停止期間は短く長期的な影響は低いとしており、春ごろからは正常に納車を行っていくとしています。

高級車はBMWが首位に

 続いて、高級車市場の販売台数を見ていきましょう。

 2019年のブランド別中国高級車市場では、独BMWが前年比13.1%増の72.4万台で史上初めて首位に立ちました。2位は独メルセデス・ベンツ(同4%増の70.2万台)、3位は独アウディ(同4.2%増の68.9万台)が続き、依然としてこの上位3強が4位以下を大きく突き放しています。

 上位3強のうち、かつてアウディの販売台数は他の3ブランドを圧倒していました。しかし近年はほとんどその差がなくなり、トップの座も激しい入れ替わりを見せるようになりました。販売台数自体は、自動車市場全体がマイナスとなった中、3ブランドともにプラス成長を維持しており、2020年も熾烈な競争が繰り広げられることでしょう。

レクサスが4位のキャデラックに迫る

 このほかの高級車ブランドの動きとしては、米GM系列のキャデラック(4位)の販売台数が前年比6.8%減の21.3万台に落ち込んだ一方、トヨタ自動車系列のレクサス(5位)は同25%増の20.1万台に達しました。両者の差はわずか1.2万台で、その差は大きく縮まってきています。

 背景には、キャデラックのラインナップ切替えが遅れていることに加え、レクサスのブランド力向上、新エネ車モデルの投入が功を奏していると指摘されています。このほか米中貿易戦争のあおりをキャデラックが受けているとも考えられますが、このペースで行けば2020年にレクサスが4位の座を奪取することも十分ありうるでしょう。

 このほかには「中国のテスラ」とも呼ばれる中国のEVベンチャー、上海蔚来汽車(NIO)が、同81%増の2.1万台で10位に入っています。ただ販売台数自体は増加したものの、昨年には品質問題が多発し資金調達も悪化するなど、多くの課題に直面しています。

 2020年には独系高級車上位3ブランドも続々と新エネ車モデルを投入する予定となっています。テスラモーターズの現地生産開始も含め、新エネ車のハイエンド化が今後ますます進むことでしょう。

 近年、ローエンドモデルの自動車販売は中古車に取って代わられており、自動車メーカーにとってハイエンドモデルの販売は今後、利益面で増々重要になってくるとみられます。ハイエンド新エネ車分野でどのメーカーがまず主導権を握るのかは、2020年における大きな市場トピックになることでしょう。

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