国際社会の制裁に加え、相次ぐ自然災害に苦しめられている北朝鮮。国連世界食糧計画(WFP)の報告書によると、昨年の小麦、ジャガイモトウモロコシ、コメなどの作物の収穫量は平均以下だった。

金正恩委員長2020年初の現地指導の場所として、平安南道(ピョンアンナムド)順川(スンチョン)の燐酸肥料工場を選んだのは、農業生産の回復を重要視していることの表れだろう。

(参考記事:「自力更生闘争による立派な結果」金正恩氏、肥料工場を現地指導

そんな中、食糧生産基地である北朝鮮の国営農場を去る人が増え、労働力不足が問題になっている。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、最近、内陸の山間部にある協同農場で、遊休地を売りに出すところが増えていると伝えた。売りに出すとは言っても、土地そのものの売買ができない北朝鮮で取引されるのは使用権だ。

陽徳(ヤンドク)、寧遠(ニョンウォン)、大興(テフン)、孟山(メンサン)など山間部の農場が、都会の企業所、機関、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、大学、初級・高級中学校(中学高校)に、土地を売り払った。

価格は、農場が策定した収穫予定量に基づいて決められるが、基本的に収穫量の3割を穀物の価格に換算したものだ。例えば、1トンならば穀物300キロに相当する金額を支払うという形だ。

人民委員会(市役所)教育部は、教師の食糧問題を解決できるとの理由で、農場から土地を買い入れた。生徒たちを動員して種まきから収穫まですべてやらせるという。

全国的に食糧不足となっているのに、なぜ農場に遊んでいる土地があるのか。単純に耕す人がいないからだ。

平安南道の農村経理委員会は昨年末、チュチェ(主体)農法の総和(総括)のために道内の農場を対象に実態調査を行なった。すると、山間部で土地を遊ばせている農場が複数見つかった。農民が農場を捨てて都会に出ていってしまったからだと情報筋は説明した。

「山間部の農民たちは最近、『農業ばかりしていると餓死してしまう』と言って、農場を去る減少が増え、社会的に問題になっている」(情報筋)

都会に近い農場ならば、たとえ凶作になったとしても、作物を都会の市場に売りに行けば、それなりの収入が得られる。一方、山間部の農場は、現金収入を得る場所が存在しないか、遠く離れているため、凶作になれば生きるか死ぬかの問題に直結する。

例えば、平安南道北東部に位置する大興の場合、直線距離でも首都・平壌まで150キロ、人口23万人の徳川(トクチョン)でも60キロ離れている。ソビ車(個人経営の輸送手段)に乗っていければ、利益より運賃のほうが高くなりかねない。

このような離農は以前から起きている。農村で働いたところで全く儲けにならないため、農機具や種を買うための借入金の返済が滞り、クビが回らなくなって都会や現金収入が得られる仕事のある地域に行ってしまうのだ。

(参考記事:北朝鮮版「ゴールドラッシュ」…砂金採りに賭ける農民の希望と現実

当局はその深刻さを重く見て、農民を農場に連れ戻す政策を行っているが、しばらくはおとなしくしていても、ほとぼりが冷めれば再び都会に戻ってしまう。

(参考記事:出稼ぎに出た農民を「強制連行」する北朝鮮の協同農場

軍傘下の農場を現地視察した金正恩氏(2019年10月9日付朝鮮中央通信より)