「おまえら、初めてのキスはいつしたんだ?」 社内恋愛カップルにそんな質問が飛び、下卑た視線が当のカップルに向けられた。20代女性社員モリカさん(製造業)は、その時のことを「ただうなだれて聞くしかありませんでした」と話す。何が起きたのかーー。

モリカさんは同僚との社内恋愛をオープンにしてきた。そんな2人が巻き込まれた「事件」は部署のフロアで行われた納会で起きた。

お酒を飲んだ男性課長がホワイトボードに「いつ」「どこで」「どんなセリフで」と書き込み、「おまえらが告白したときのことを言え」と部下の彼氏に命令。モリカさんを含む社員が注目する中、彼氏は告白の状況を説明した。

調子に乗った課長の要求は一線を越えてしまう。今度は「いつ」「どこで」などの他に「モリカはどんなキスが好きなのか」や性的な行為を思わせる内容を書き込み、状況説明を求めたのだ。上司命令に背くことのできない彼氏は2人だけの秘密を全社員の前で明かしてしまう。自分の秘めておきたい話が全社共有される瞬間を、モリカさんはうなだれて聞くしかなかった…。

この出来事以来、会社で仕事をする間も恥ずかしくてしかたない。仕事にも身が入らず、「もう会社を辞めたい」とさえ思うようになった。

部下のカップルの「告白」や「性的な行為」の内容を社内で公開させることは、セクハラに該当するのだろうか。下大澤優弁護士に聞いた。

●セクハラとは「職場でなされる労働者の意に反する性的な言動で就業環境を害するもの」

ーーセクハラに該当するのでしょうか

今回のケースで主な争点となるのはセクハラの成否かと思われます。セクハラの成否の検討にあたっては、まず、「セクハラとは何か」という点を明らかにしなければなりません。

人事院規則10−10の第2条には、セクハラの定義として「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定められています。男女雇用機会均等法の第11条1項にも「性的な言動」という語句が用いられています。

このような規定を参考にしますと、セクハラとは、(1)職場においてなされる、(2)労働者の意に反する、(3)性的な言動であり、(4)就業環境を害するものである、と言うことができます。以上を前提に、今回のケースにおける上司の言動がセクハラに該当するかを検討していきます。

●「セクハラ行為に該当すると思われる」

まず、上司の発言がされたのは「部署のフロアで行われた納会」であり、厳密な勤務時間 ではないものの、業務と極めて密接な関連性がある状況と言えますので、「職場」において なされた言動といってよいでしょう(1)。

「モリカさんたちは社内恋愛をオープンにしてきた」とはいえ、通常は交際相手との性的な秘密までオープンにすることは望まないでしょうから、上司の発言は「労働者の意に反する」ものといってよいでしょう(2)。

「おまえらが告白したときのことを言え」との発言は、これ自体が男女の交際関係 に踏み込むものであり「性的な言動」にあたると思われます(3)。男女がキスに及んだ際の具体的状況を説明するよう求める発言は、まさに「性的な言動」と言うべきものです(3)。

最後に、上司の発言は個人の性的な秘密に踏み込むものであり、発言を受けた側が極め て不快な思いを抱くことが当然かと思われます。上司の発言は少なくとも発言を受けた者の就業環境を害するものといえます(4)。

以上の通り、今回のケースにおける上司の発言はセクハラ行為に該当すると思われますし、上司の責任(民事上の責任・社内での責任)が問われることになります。

●上司の懲戒処分は「けん責」「減給」が妥当

ーーセクハラを理由に、課長を懲戒処分することは可能ですか

上司の発言は、就業環境を害するものであり、かつ、民事上の不法行為責任が問われうる ものであり、一定の懲戒処分が下され得るものです。

懲戒処分は軽いものから順に、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇が挙げられます。今回のケースにおいていかなる懲戒処分を下すことが適切かは難しい問題ですが、けん責、または減給の懲戒処分を選択することが穏当なところかと思います。

【取材協力弁護士】
下大澤 優(しもおおさわ・ゆう)弁護士
2012年司法試験合格、2014年に弁護士登録。勤務弁護士を経て2016年に定禅寺通り法律事務所(仙台市)を開設。離婚・男女関係のトラブル(婚約破棄等)に注力している。
事務所名:定禅寺通り法律事務所
事務所URL:https://jozenji-law.com/

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