音楽を作るということは自分の想像力に動きをだし、もう少し「リアル」にするということーーサンドロ・ペリ

カナダトロントのインディーシーンの最重要人物、サンドロ・ペリ(Sandro Perri)が新作『Soft Landing』を携え、2017年以来となる来日公演を果たす。今回は単独公演に加え、これまで共演経験のあるROTH BART BARRONやKUDANZも出演する山形での「肘折国際音楽祭2020」にも出演することが決定しており、日本のバンドアーティスト経由で彼の音楽に触れたリスナーにとってはそのセンスや音楽性に通底する何かを楽しめる機会でもある。 サンドロ・ペリ(以下、サンドロ)を一言でどんな音楽家なのか説明するのはむずかしい。トロントを拠点にシンガーソングライター、作曲家、プロデューサーとして活動する彼は、ソロと並行して音楽性ごとにPolmo Polpo、Glissandro 70、Off Worldなど名義を使い分けている。それでいて、サンプリングベースにしたエレクトロニックサウンドテイストの本人名義の作品タイトルが『Plays Polmo Poplo』(2006年)であったりするために、リスナーはどことなく「サンドロの作るサウンドや世界観」に信頼を寄せてきた。彼の個人名と作品が結びついたのは2011年リリースの『Impossible Spaces』からだろう。 その後、長尺のタイトルチューンを1曲目に配したアルバム『In Another Life』を2018年に、さらにコンスタントに翌年には『Soft Landing』をリリース。一つのテーマの中で徐々に移ろいを見せる展開は、それがエレクトロニックサウンドでも、生楽器でもいわゆるポップソングの構造を持たないし、特定のジャンルへの拘泥はない。にもかかわらず、難解さはなく、しっかりと連綿と続いてきたミュージックヒストリーへの愛情が窺えるのだ。 ミックスエンジニアとしてTurntable Filmsの『Small Town Talk』を手掛けたり、ROTH BART BARRONがトロントでライブを行った際には共演のみならず、ライブPAを行うなど、日本のバンドミュージシャンにもファンが多いサンドロ。今回の来日を前に、改めてマジカルな彼のサウンドを紐解くため、ルーツとなっている音楽やコンスタントリリースの理由などをメールインタビューで問いかけてみた。

interview:サンドロ・ペリ

――今更ながらの質問なのですが、あなたにとって音楽的にもっとも重要なルーツになっている音楽家アルバム、曲とその理由を教えてください。 答えるのが難しい質問だけど……ここ50年間の中から僕が大好きなレコードピックアップしてみたよ。
70年代 Gil E Jorge / Gilberto Gil & Jorge Benjor 素晴らしいレコードたまたま自然に出会った2人のベテランがお互いの曲を自由に演奏しながら歌っているんだ。ジョルジ・ベンはこのアルバムリリースするにはあまりにもワイルドすぎると思っていたそうだけど、最終的にリリースすることに賛成してくれてありがたい。
80年代 Peter Zummo / Zummo With An X とても深いサウンドだね。美しい構成とメンバー同士のシナジーにはとても刺激されるよ。何度も聴いているけど、いつも僕を別世界へ連れて行ってくれる。
90年代 Sonny SharrockAsk the Agesの“人生を変えた”レコードの中の一枚だね。僕の音楽に対する姿勢を変えくれた。これは“ジャズカルテットなんだけどギターロックレコードのように重なっているんだ。献身と不敬がお互いに調和しているんだ。ビル・ラズウェルによるバンド構成と演出は天才的だよ。ソニーシャーロックは僕の“ギターヒーロ“だね。
2000年代 Sparks / Lil Beethoven スパークスは大好きだね。2人とも素晴らしいソングライターだし、とても面白いよ。このレコードは彼らの天邪鬼な性格の中にある純粋な部分が出てきた作品。このレコードには不快で、大げさな “Pro Tools”的な感覚があって、その偉大さがさらに衝撃的なんだ。このレコードは一般ウケはしないかもしれないね!
2010年代 ASA-CHANG&巡礼 / まほう ASA-CHANG&巡礼(以下、ASA-CHANG)の中だったら『花』が一番好きなアルバムだと思っていたんだけど、このレコードレベルを超えていったね。ASA-CHANGは僕の音楽のヒーローの中の1人だよ。このアルバムを50年後に聞いても先を行っている音楽だ、と感じると思うな。歌詞の翻訳が欲しいよ!
――それらの音楽は今のあなたの音楽にどのような形で生きているのでしょうか。 これらのレコードがどのように僕の音楽に反映しているかわからないな。 僕は好きなアーティストの精神や音楽から学ぶようにしているんだ。これらの音楽をただ聴きながら日々を過ごしているだけで僕の人生をとても良いものにしてくれる。僕が音楽を作る時のゴールは、常に頭の中に浮かんだサウンドを見つけることだけなんだ。 ――前作『In Another Life』がソロ名義では7年ぶりだったことに比べ、新作『Soft Landing』は1年という早いスパンでのリリースとなりました。アイデアや曲がすでに前作の時点で溢れていたのでしょうか。 アイデアは常にあったよ。ただ、スケジュール的に個人的なレコーディングができなかったんだ。2016年に1ヶ月間スタジオを借りて両方のレコードを一緒に制作したんだ。選ぶ曲がたくさんあったんだけど、数年間かけてゆっくり削っていったんだ。 『Soft Landing』に収録されている曲は実は『In Another Life』に入っている曲より古いんだ。 ――『In Another Life』は「終わりなきソングライティングへの実験」をテーマに掲げていましたが、それは例えばタイトルチューンの『In Another Life』が24分の長尺でありつつ、「長い」と感じさせない曲作りを意味していますか?それともまた違った意味でしょうか。 リスナーによって時間の認識が違うというのは面白いことだと思う。「無限」という言葉は、始まり、中間、終わり、といった「弧」がないため、再生時間が長くても曲の性質が変わらないことを意味するんだ。曲の一編、一編がそのように感じるように設計されている。また、誰もがそこに歌詞を書くことができて、それでも曲の性質が変わらないから「無限」なんだ。 ――日本のファンだけでないと思うのですが、あなたの近作をみんな「永遠に聴いていられる」と言います。あなた自身には作曲やアレンジの段階でそういう意図はありますか? 今までもらった言葉の中でも最高の褒め言葉だね。僕の曲制作の意図は音を作るということだけなんだ。そうしたら、僕にも聞こえるからね。滅多にないことだけど、うまく仕上がった長い曲は好きだよ! 他の人に僕の音楽を聴いてもらえることはとても光栄だし、何回も聴きたいって思ってくれることは嬉しいことだよ。 ――新作『Soft Landing』の1曲目“Time”も16分の長尺ですが、前作とは違い、シンセエレクトロニックな要素は減ったと思われます。むしろトロピカリズモや南米のニュアンスも感じる生音のアンサンブルですが、この変化はどのようにして起こったのでしょうか。にとってそんなに大きな変化ではないよ。どんなサウンドでも聞こえたら使うよ。エレクトロニックサウンドは純粋さがあるし、アコースティックは人工的に聞こえることもある。ただサウンドや状況によって違うだけ。作曲をしている時の僕の責任はどんな音でも頭の中にあるモノを見つけることだよ。 Sandro Perri | "Time (You Got Me)" Edit
――“God Blessed The Fool”におけるスウィートなソウルの要素はあなたのルーツにあるものですか?この曲のミックスエンジニアリングにおける留意点は? そうだね、スウィートソウルは大好きだよ。アラントゥーサン、スキップ・ジェームス、ジミー・スコットなど……ずっと挙げていられるよ。この曲をミックスするのは難しくて、完全に満足したわけではなかったんだけど、制作を終わらせたよ。 Sandro Perri | "God Blessed The Fool"
――ラストタイトルチューンSoft Landing”でのアーバンなギターサウンドと温かいオルガンサウンドパーカッションの融合とこのゆったりしたテンポで表現したかったこととは?は常に重力のない無重力の感覚をさがしているんだ。この曲ではそんな気持ちを表現したかった。 Sandro Perri | "Soft Landing"
――新作は世界のどこかにありそうでない場所をイメージさせるアルバムだと感じました。あなたにとってはこの新作は架空の場所の創造なのか、具体的な音楽要素をミックスする実験だったのか、もしくは前作に続き「終わりなきソングライティングの実験」だったのでしょうか。 『質問の中で上げてくれた』3つの解釈は曲が作り終わってから思いついたことなんだ。最初の意図はとにかく頭の中にある音楽を形にすることだった。どんな物で、どんな試みになるかは曲を作り始めるまでわからないこともある。時には終わるまでわからないこともあるし、何ヶ月か何年か経ってから、別の理解を深めていくこともある。何を、何故といった考えは曲制作とは別のことなんだ。別の言い方をすると、音楽を作るということは自分の想像力に動きをだし、もう少し「リアル」にするということなんだ。 ――あなたの音楽は未知の世界であるにもかかわらず、安堵と好奇心を満たしてくれるのですが、そこには時代性は関係しているのでしょうか。 安堵と好奇心は良い組み合わせだね! 音楽を楽しみ、好奇心を抱くと言うことはその音楽を「信頼」する必要があるしね。音楽を作る時に意識的に時代を反映させようとは思っていない。どんな音楽を作ったとしてもその時代のサウンドになると思っているからね。70年前の機材とテープマシンを使ってドゥーワップレコードを作ることはできるかもしれないけど、結局自分が生きている時代の経験を反映させたものになると思う。 ――ところでトロントの音楽シーン2010年代にどのような変遷を遂げたと思いますか?トロントの音楽シーンは)常に変わっている。トロントはカナダで1番大きな都市で多種で違うスタイルを持った多くのミュージシャンがいるよ。2010年で起こっていたことは、現在では消え様々な関心を持つ違う世代に入れ替わっていく。僕はトロントの音楽シーンの2%くらいしか知らないよ。多分もっと少ないかな! ――トロントのインディーシーンで注目のアーティストは?あなたがプロデュースしたIsla Craigの魅力、他にもThomas Gillなども今聴いておいた方が良い? Thomas Gill素晴らしいミュージシャンだよ。彼は世界中のあらゆる曲を覚えてあたかもヨーヨーをしているみたいに演奏できるんだ。もし、彼のことが好きなのであれば“Bernice”というバンドを聴いてみるべきだね。僕はIsla Craigをプロデュースしたわけじゃなくて、何年か前に彼女のレコードミックスしたことがあるだけ。彼女の声はとてもユニークだよ。 ――日本の30代ぐらいのアーティストにあなたの作るサウンドに絶大な信頼を寄せている人たちが多いのですが(Turntable Films井上さんやROTH BART BARONの三船さん)、彼らの音楽にサンドロさんが感じるものとは?バンドとも好きだよ。以前Turntable Filmsのアルバムミックスしたことがあるから彼らをよく知っているしね。(井上)洋介のギター演奏は大好きだよ。 ――井上さんも三船さんもサンドロさんは自分の感覚で必要のない音はバッサリ切るし、エフェクトガンガンにかけてくる、それも彼のセンスを信用しているのでむしろ良くなるとインタビューで読んだことがあります。ミックスにおける哲学はありますか? 彼らがそう言ってくれてることはありがたいことだね! 僕の哲学は歌の「スピリット」を見つけ出すことなんだ。それが時にモノを取り除くということを意味することもあるし、特定の音の特徴を得るために編集や処理を行うという意味になることもある。時には何もしないということがベストな時もある。ミキシングを説明するのは実はとても難しいことなんだ。サーフィンみたいに常に次の波を急いで追いかけているようなものかな。 ――前回2017年の初来日公演で印象に残っていることは?また各地で共演したキセル渚にてASA-CHANG&巡礼についての印象やエピソードはありますか?バンドともとても素晴らしかったよ。キセルは知らなかったんだけど、(彼らの音楽には)感動したし、彼らと話していて楽しかった。ASA-CHANG&巡礼は20年間くらいずっとファンなんだ。彼らが一緒にライブをやってくれると知った時の興奮は説明できないほどだよ。初めてレストランASA-CHANGに会った時はスーパースターに会ったみたいでとっても緊張したよ。名古屋(のライブ)でサウンドチェックが始まった最初の10秒から開いた口が塞がらなくなったよ。彼らの音楽を聴いている時はずっと子供みたいになっていた。本当に最高な音楽だよ! ASA-CHANGは今生きている偉大な作曲家の中の1人だと思う。 渚にては知っていたんだけど、そんなに詳しくは知らなかったんだ。彼らと出会い、実際の演奏を聞けたのはとても良い経験になったよ。彼らとは2回ライブで共演したから、少し話すことができたしね。彼らの音楽がもたらしてくれる感覚が大好きなんだ。彼らのレコードは全部買ったよ。シンジ(柴山伸二)が教えてくれた頭士奈生樹の“III”というアルバムにも恋に落ちてしまったよ。 ――今回は約3年ぶりの来日で、どんなメンバーでのライブになりますか?(前回と同じトリオ編成でしょうか)。またセットリストは新作が中心になるでしょうか。 今回は新しいバンドと一緒に演奏するよ。セットリストの何曲かは前回と同じ曲で、新しい曲もいくつか披露するつもりさ。バンドメンバーは、ドラムブレイク・ハワードベースジョシュコール、そしてキーボードトーマスハマートンの3人で出演する予定だよ。 ――今回は地方のフェスティバルである<肘折国際音楽祭>にも出演されます。出演することになった経緯とは?日本人プロモーターが全てアレンジしてくれているんだ。彼の提案には全て二つ返事で「YES」だよ! 肘折には一度も行ったことがないから楽しみにしているよ。 ――この音楽祭にはROTH BART BARONらが出演しますが、気になっているバンドミュージシャンはいますか? ROTH BART BARON にまた会えるのを楽しみにしているよ。トロントで一緒に演奏したんだけどとっても楽しい夜だったしね。KUDANZとも前回東京で一緒に演奏していて、Phewに会えるのも楽しみにしているよ。他のアーティストはまだ知らないからサプライズになるね。 ――最後に日本のファンに向けて、メッセージをお願いします。ライブに来てくれる人たちとの出会いが大好きなんだ。日本のオーディエンスのライブでの聞き方には感謝しているよ。恥ずかしからずに、ぜひショーの後声を掛けに来てください!

TextInterview by Yuka Ishizumi

INFORMATION

<SANDRO PERRI JAPAN TOUR 2020>

2020年3月5日(木) Shibuya WWW 開場19:30 / 開演20:00 ¥4,800(税込) 020年3月7日(土) 肘折国際音楽祭 2020 山形県最上郡大蔵村 肘折温泉 肘折いでゆ館 ゆきんこホール 開場12:00 / 開演12:30 【出演】 Dr.A.SEVEN KUDANZ(band set) Sandro Perri(Canada) 寺尾紗穂 betcover!!(弾き語り) ROTH BART BARON 詳細はこちら

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