倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」テレビ朝日系・月~金11時30分~)第44週。

「やすらぎの刻」パートではしつこいほど繰り返し描かれて来た認知症だが、公平たちの高齢化にともない「道」パートにも認知症関連のエピソードが投入されてきた。

しのがオレオレ詐欺に……
まずは、その強欲さで村民たちを振り回してきた荒木(柳生博)が認知症に。村を徘徊して、たびたび行方不明になっているという。

まあまあハゲ上がった荒木の息子が登場したことで急に思い出したが、そういえば荒木、戦前に娘・りん(豊嶋花)を満州の女郎宿に売り払っていた。

りんの消息は分からないままだが、健在だったとしたら、この息子と同じような年齢になっていたのだと考えると切ない気持ちになる。

急死したハゲ(ミッキー・カーチス)の妻・伴子(澤井孝子)もだいぶボケており、ほぼ寝たきりで、ひとりではトイレにも行けないほどの症状。ハゲの死も理解していないようだ。

夫・ハゲの亡き後、子どもたちのお荷物状態になっている伴子の姿に、根来公平(橋爪功)たちは「明日は我が身」と神妙な面持ちになっていたが……「ハゲの妻」だの「ハゲの長男」だのというテロップに不覚にも笑わされてしまった。深刻なシーンも台無しだ。

公平の妻・しの(風吹ジュン)にも認知症の気配が漂ってきている。

以前より、若い頃に好き合っていた三平を思い出してボケーッとしたり、幻覚を見たりと、ちょいちょい危うい雰囲気を漂わせていたしのだが、オレオレ詐欺の電話にアッサリと引っかかってしまった。

孫・昇を騙る男から、会社の金を紛失してしまったので125万円を振り込んで欲しいと頼まれて、郵便局へ急行。

オレオレ詐欺を疑った局員がしのを引き留め、孫・翔(菅谷哲也)の婚約者・木宮詩子(渡辺早織)が電話で確認したことで被害を未然に防ぐことはできたが、しのは思いっきり落ち込み、急に老け込んでしまったように見えた。

これが原因で認知症が進みそうで心配だ。

公平は、詐欺に引っかかりそうになったしのを嬉々としてからかっていたが、アンタは浮気の慰謝料100万円の尻拭いをしてもらったばかりだろ! 125万円をオレオレ詐欺で取られそうになったしのをからかってる場合じゃないぞ!

ちなみに「道」パート平成編は今、平成10年頃だと思われるが、その頃、オレオレ詐欺はまだあまり知られていなかったはず。郵便局員が引き留めたり、注意を喚起するポスターが掲示されていたりするような時期じゃないと思うけど……。

「道」パートには他にもちょいちょい時代設定がおかしな点があるが、“倉本聰の思う平成”だと認識しておこう。

祖父母をなぐさめる方法は「犬をあげる」じゃないぞ!
小野ヶ沢の人口は減り続け、老人たちが急死したり認知症になったりと悲しい雰囲気が漂っている中、翔だけは「未来には夢いっぱい!」といった希望に満ちていた。

桑の栽培、蚕の養殖、炭焼きに加え、ブドウの栽培にも乗り出そうとしており、老人達の思い出の中にある”古き良き時代の”小野ヶ沢を復活させるような活動をする翔は、公平たちにとっても希望だ。

理想的すぎる孫っぷりを相変わらず発揮している翔だが、その婚約者・詩子も理想的すぎる孫嫁っぷり!

かつて鉄兵が住んでいた家(ほぼ小屋!)を自力で直して、ふたりの新居にしようと提案する翔に、「ワクワクしちゃう!」と応える詩子。

箱入り娘として育てられてきたお嬢さんが、知らないジジイの住んでいたボロ小屋で新婚生活を送ると聞かされて、リビングが広いだの、ベッドはダブルがいいだのと浮かれていられないと思うけど。

他の孫世代はそれなりに(平成初期の)現代っ子感を漂わせているのに、翔と詩子は浮世離れしすぎている!

田舎で生まれ育った詩子はまだしも、翔なんて、もともと都会で現代っ子の権化みたいな生活を送っていたのに……。

6人もいる公平の子どもたちが全員、実家から出て行ってしまっていることに触れ、

おじいちゃんおばあちゃんは寂しいんだろうなって。子どもを6人も育てたのにさ、誰も一緒に住んでないじゃない」

と語っていた翔。理想の孫らしい発言だが、だったら自分たち夫婦が一緒に住んであげればいいのに。

おじいちゃんおばあちゃんの”寂しさ”を埋める最善の方法は「拾った犬をあげる」じゃないと思うよ!

公平&菊村が死亡して終了じゃないといいけど
無残に老いていく老人たちのリアルを突きつけつつも、孫夫婦たちは「こんな若者、いないよ!」という思いっきりファンタジーな描かれ方をしている「道」パート。

これは脚本家の倉本聰……というよりは、「やすらぎの刻」パートで「道」のシナリオを執筆している菊村栄(石坂浩二)の願望ではないだろうか。

妻(風吹ジュン)の認知症に苦しめられ、「やすらぎの郷」に入ってからも周囲の仲間たちの認知症に翻弄されてきた経験をシナリオに反映させつつ、30歳以上年上の既婚者と不倫した上に妊娠までしてしまった孫・梢とはまったく違う、理想的な孫を、せめてシナリオの中だけでも描こうとしているのだとしたら……悲しい。

ドラマも終盤となり、「道」パートも「やすらぎの刻」パートも、老人たちが認知症になり、どんどん死んでいっている。

今後の展開がまったく読めないところだが、それぞれ公平&菊村の死亡エンドじゃないといいけど……。
(イラストと文/北村ヂン

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

イラストと文/北村ヂン