天皇杯決勝で鹿島アントラーズを下し、クラブタイトルを手にしたヴィッセル神戸。2月のFUJI XEROX SUPER CUP 2020では、昨季の明治安田生命J1リーグ王者・横浜Fマリノスを破り、クラブに2つ目のタイトルをもたらした。この2つのタイトルレースの間に、ダビド・ビジャルーカス・ポドルスキがチームを離れ、清水からドウグラスが加入するという大きな変化があったものの、チームパフォーマンスは維持。むしろ、攻撃力は“向上した”印象さえあった。今季の神戸はJ1タイトル戦線を賑わせそうな予感がある。

 ベースとなる布陣は、沖縄キャンプやFUJI XEROX SUPER CUPを見る限り、3-4-3、あるいは3-5-2といった3バックシステムが基本になりそうだ。

 GKは飯倉大樹、DFは右がダンクレー、中央が大﨑玲央、左がトーマスフェルマーレン、ウイングバックは右に西大伍、左に酒井高徳アンカーにセルジ・サンペールを置き、その前に山口蛍アンドレス・イニエスタ。そして2トップのような形でドウグラスと古橋亨梧が共存する。

 うれしい誤算としては、AFCチャンピオンズリーグACL)で採用した4バックシステムもハマっている点だ。外国籍選手の登録が3名までという大会規定と、対戦相手の特長を消す狙いもあって、神戸はACL初戦で4-3-3を用いた。昨季終盤にも試しているシステムだが、目的は攻撃よりも古橋亨梧と小川慶治朗の機動力を生かした守備にあった。だが、この試合では新加入のドウグラスを含め、前線3枚が攻撃面で存在感を示した。小川がハットトリックを達成し、古橋とドウグラスもそれぞれ1ゴールという結果からも、攻撃面での効果が見て取れる。相手DF裏を狙う3人がいることで、イニエスタの魔法のパスも冴え渡った。

 しかも、このACL初戦ではさらにうれしい誤算も。今年1月のチーム始動日にトルステン・フィンク監督は「若手の成長」をテーマに挙げていたが、実際には“すでに何人かは成長していた”のである。

 その筆頭が小川だが、ほかにもこの試合では安井拓也と郷家友太がイニエスタとともに中盤を形成し、高次元で融合してみせた。体調不良で欠場した山口蛍の穴を埋めるのではなく、また違った“色”をチームにもたらした。特に安井はイニエスタのフォロー役ではなく、効果的なサイドチェンジや前線への顔出しリズムを作った。タイトな守備でも存在感を示し、「自分でも守備は成長していると感じる」と手応えも口にした。常にベストメンバーが組めるとは限らない長丁場では、若い選手の成長は“大崩れしない”という点で大きな意味を持ちそうだ。

◆【KEY PLAYER】FW 13 小川慶治朗

 若手選手の中でも、特にクラブ生え抜き選手は地域の宝であり、象徴でもある。今の強さを一過性で終わらせないためにも、彼らの成長は不可欠な要素である。

 神戸のアカデミーで育った小川慶治朗は、生え抜き選手がどうあるべきかを理解している。

「今まで神戸に関わった人たちは、みんな神戸を強くしようと思ってやってきたと思う。神戸に育ててもらい、今も神戸でプレーしている自分は、その人たちの分も頑張らないといけないし、自分の活躍が恩返しになる。だから、試合に出続けて、ゴールという結果を求めていきたい」

 その思いを強くする中で、小川が昨年から取り組んできたのが相手DFを“しょえる(背負える)”選手になること。ポゼッションサッカーへと移行する過程で、チームから求められるプレーでもあった。

「今まではDFを背負うプレーを避けていた部分もある。相手を背負うと、タックルで潰されるリスクがあるから。でも、今の神戸では“しょえる”選手にならないと試合には出られない。自分でもそれが課題だと分かっていたので、意識して“しょえる”プレーに取り組んできました」

 ACL初戦では相手DFを背負ってボールを収め、そこからドウグラスイニエスタボールを預け、今度は相手DFの裏へ抜け出すプレーを繰り返した。結果的にボールロストが減り、自分1人で仕掛けていた頃よりもシュートチャンスが増えている。ACL初戦のゲームスタッツを見ると、小川のシュート数は両チームの選手の中で最多となる4本。試合に出るために“しょえる”選手を目指した結果、小川の得点能力が大きく開花しようとしているからおもしろい。

文=白井邦彦

イニエスタ、小川らを中心に新シーズンに挑む神戸 [写真]=Getty Images