鍋料理を食べた後の楽しみが「締め」ですが、締めを作るときに悩むのが、鍋の終盤、どのタイミングで作り始めればよいのかということではないでしょうか。鍋の具材が少し残ったまま作った方がよいのか、具材を全て食べ終えた後に作った方がよいのか、どちらなのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

冷や飯をおいしく食べるための知恵

Q.そもそもなぜ、鍋の「締め」という食文化が誕生したのですか。

関口さん「現在では鍋の『締め』という特有の習慣になりましたが、もとはといえば“冷や飯を食べる方法の一つ”でした。家庭で鍋を囲む文化が定着したのは、江戸時代後期とされています。この時代は庶民でも食を楽しめるようになった時期であり、鍋料理店の創業もこの頃からです。

当たり前ですが、当時は炊飯ジャー電子レンジのような家電製品は存在せず、米飯の保温や再加熱が容易ではありませんでした。そのため、冷や飯の再利用として、汁物の余りや煮物の残り汁で再加熱して食べていたのです」

Q.鍋の具材をある程度楽しんだ後で締めに移るとき、具材は残した状態で作った方がよいのでしょうか、なくなった状態で作った方がよいのでしょうか。

関口さん「明確な決まりはありませんが、鍋の締めは、具材を十分に楽しんだ後の、うま味がたっぷりと溶け出したスープを食べ尽くすことが醍醐味(だいごみ)です。そのため、具材を食べ終えてから、おなかの加減に合わせて食べることが多いようです。

鍋の種類によっては、きりたんぽ鍋、すいとん鍋のように、最初から団子状にしたご飯や小麦粉の練り物を入れる鍋も存在します。それでも締めは存在するので、締めは鍋を2度楽しむ方法として定着したと思われます」

Q.外食で鍋を食べると、具材がない状態で締めを作ることが多いようです。具材が残っている場合は、あえてスープから具材を取り除きます。

関口さん「具材を取り除くのは見栄えを良くするため、または、骨や殻などの廃棄部分を除き、食べやすく仕上げるのが目的かと思います。そのとき、あくや脂も丁寧に取り除き、味を調整します。調理をするための煮汁から、うま味を楽しむスープに変化させ、鍋を2度楽しんでもらうという趣旨があるのではないでしょうか」

懐石料理の考えにも近い?

Q.締めの食材は、うどん、ちゃんぽん麺、ラーメンなどの麺類、雑炊、おじや、リゾットなどのご飯物が一般的です。なぜ、締めでは炭水化物を食べることが一般的なのでしょうか。日本の懐石料理の考え方と関係があるのですか。

関口さん「懐石料理の場合は、最後に“お食事”として、ご飯物、汁物、漬物などが出されます。鍋料理のお食事にあたる締めも、同様の位置付けとして炭水化物が出されるのでしょう。食事のバランスから考えても、鍋の具材は肉や魚介といったタンパク質の食材と野菜、豆腐などが中心です。

足りない炭水化物を最後に取ることで、おなかの満足感もありますし、栄養的にも整います。さらに、食事の最後に炭水化物を取ることは、血糖値の急上昇を抑え、健康的にも理にかなった食べ方になります」

Q.毎年のように、新しい締めが生まれています。今冬、人気の鍋の締めは何でしょうか。

関口さん「2019~2020年の鍋のトレンドは、キムチ、チーズ、みそ、酒かす、さんしょうなど『発酵食品』『スパイス』『酸味』がキーワードのようです。中でも、チーズを使った鍋はトマト鍋が定番でしたが、昨今はスパイスたっぷりの辛味系や、みそと組み合わせるなど進化形が続々と登場し、人気も高まっているようです。

それに伴い、締めのアレンジも広がりがあります。やはり、どんなスープの鍋でもご飯、うどんは人気が高いようです。スープうま味をしっかり吸わせるほどおいしくなることが人気の理由ではないでしょうか。

最近の締めは『ちょい足し』を効かせたアレンジが多く、バター、生クリーム、チーズなどを加えてリゾットやカルボナーラ風にアレンジしたり、カレールーを入れたりと、味をガラッと変えた締め料理が登場しています。

変わり種では、フライドポテトたこ焼き焼きおにぎり、パンなどを使った締めも存在し、ご飯でも雑炊ではなく、煮詰めて卵でまとめたビビンバ風や、うどんを入れたスープに卵を混ぜて茶わん蒸し風にすることもあるようです。鍋を囲んで人の輪を楽しむ鍋料理には、しきたりも料理のジャンルも関係なく、自由な発想のもとで進化を続けているようです」

オトナンサー編集部

鍋の「締め」を作るタイミングは?