『ペンタゴン式 ハードワークでも折れない心のつくりかた』(KADOKAWA/訳・中津川茜)

働き方改革が始まったとはいえ、仕事量はそう急には変わらない。膨大な仕事を抱えて四苦八苦している人も多いだろう。過酷すぎるなら環境を変えるのも手ではあるが、今の環境で病まないために、自分自身が「折れない心」を育むことも重要だ。

今回ご紹介する『ペンタゴン式 ハードワークでも折れない心のつくりかた』(KADOKAWA/訳・中津川茜)は、米国国防総省キャリアで現役空軍少佐(2015年出版当時)でもあるカイゾン・コーテ氏が、厳しい状況下でも心が折れない、"心のキャパシティの広げ方"を教える本である。(文:篠原みつき)

優秀な兵士ほど意図的に心身を休ませている


アメリカ国防総省、通称「ペンタゴン」は、アメリカ国防の要であり、軍隊を携える世界最大の組織だ。命がけのミッションを遂行してきた著者は、根性論などではなく理路整然と心身の整え方を説いている。初めに教えてくれるのは、「折れない心」の明確な「定義化」だ。

「我々が意味するタフな精神、つまり『折れない心』とは、鋼鉄のごとく何があっても全く痛みさえ受けない、超人のような強靭な心を持つことでは必ずしもありません。しなやかに『しなる』ことができ、どんな圧力や負荷がかかっても、変化に柔軟に対応しながら、常に『自分自身』に戻ることができる、『竹のような心』と言った方が正しいイメージになるでしょう」

そうした心を作るには、自らの弱さも認めた上で耐久性を磨いていくことが重要だという。時には何もせずにボーッとしながらひたすら心を休めるようなことも大切だ。ペンタゴンにおいても、強く優秀な兵士ほど、心身を意図的に休ませ、自らの弱さを受容するような行動ができる「スキル」を持ち合わせているという。

ペンタゴンが定義する「折れない心」とは、自分の弱点を直視し受容することや、いかなる変化にも対応可能な柔軟性、たとえ失敗しても「しなやかに回復できるタフさ」を意味するのだ。世の中、変化しないことはないし、失敗のない人生などないのだから、これも当然の考え方といえる。

しなることを知らない竹は強い力が加わればポキリと折れる。無駄な努力に時間を注ぎ込むことがないよう、「折れない心」の真の定義を、自分の中に落とし込むことが重要だ。

「他人から与えられた限界を自分の限界にしない」

本書では、折れない心をつくるために45項目もの手法や思考法を紹介している。いくつかを挙げてみると、

・体が健康でなければ心は健康にならない
・ 「しなければならない」があなたの心を蝕む
・ 他人から与えられた限界を自分の限界にしない
・意見の違う他人の考えを「道具」と考える
頑張らないことを選択する
・不必要な人間関係を整理する

など、見出しを見ただけでハッとさせられる言葉が並んでいる。

その中のひとつ、「他人から与えられた限界を、自分の限界にしない」をピックアップしてみる。他人というものは家族であれ友人であれとかく親切なものだが、それを全部真に受けるのはよろしくないようだ。

「本来あなたが心配すべき問題について、先回りして心配したり、あなたが決めねばならない事柄について勝手に判断を下してくれたり…… そこにあるのは『愛』なのかもしれませんが、そういう愛はありがたく『無視』すべきです」

ペンタゴンでは部下を育てるにあたり、重要視していることの1つが「自分の人生の落とし前は自分でつけさせる」ことだという。「自分が自分の人生の舵を握らない限り、本当の意味での成功は達成しない」という考えがあるそうだ。

そのため、個々のキャリアに関して個人が下す「決断」を尊重し、学ぶ機会や出世の機会は平等に与えられる。それに成果を出せるかどうかも自分次第だ。間違っても他人の助言で自分の限界を決めてはならないと説く。

「自分の可能性を他人の親切で失ってはいけません。あなたは可能性を失うだけでなく、不可能に挑戦するという強い心を築くための大事な機会をも失うことになるのです」

仕事に疲れてやる気がなくなってきた人に読んで欲しい

本書には、こうした「心が折れない自分」を育てるヒントが数多く示されている。 自己啓発本としては聞いたことがあるような言葉も含まれているが、部下の命も預かる過酷な仕事を乗り越えてきた人物から改めて理路整然と言われると力強い説得力がある。

つらい状況で孤独を感じたり、仕事に疲れてやる気がなくなってきた人には、心身を整えモチベーションを上げるのに役立つだろう。今ならAmazon Unlimited(読み放題)でも読めるので、ぜひ一読をお薦めしたい。