◆船内に入った感染症専門家の告発
 現在、横浜港に着岸し、船上で検疫を行っているものの日増しにCOVID-19感染者数が増えている大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」。19日午前中から、発熱などの症状がなく、ウイルス検査で陰性だった乗客らの下船が始まったが、その下船の前に、神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎氏がYou Tubeに投稿した動画が波紋を呼んでいる。
 動画の中で岩田氏は、18日に同船に乗船した際に目にした、感染症の専門家を仰天させるような状態について、克明に語っている。

◆専門家が驚愕したメチャクチャな船内状況と厚労省対応
 ざっとまとめると、以下のような点を語っている。

●感染症の専門家から見て、驚くほど杜撰な管理状態だった。
アフリカ(エボラ)や中国(SARS)なんかに比べても全然ひどい感染対策をしている。
●院内感染が起きているかどうかは発熱などの発症日時をちゃんと記録して、データを取って「epi-curve(エピカーブ。正式には『エピデミックカーブ』、流行曲線と呼ばれる)」というものを作ってアウトブレイクの規模やその時間経過を可視化し、分析するのだが、それすらしていない。
SARS対策のときも中国が情報公開を十分にしてくれず大変だったが、その時のほうがマシなほど。
●感染症予防は、汚染されているエリアレッドゾーン)とされていないエリアグリーンゾーン)の厳密な区別が必要だが、それがまるで守られていない。つまり、ダイヤモンド・プリンセスの中はどこが危なくてどこが危なくないのか全く区別かつかない。
●PPE(防護服)やマスクは、グリーンゾーンに入る前にレッドゾーン内で脱ぐことが必須だが、PPEやマスクををつけたままグリーンゾーンに入っている人がいる。その逆(身に付けずにレッドゾーンに入る人)もいる。
●熱のある方がですね、自分の部屋から出て歩いて行って医務室に行ったりするっていうのが通常で行われている。
●「あ!今、患者さんとすれ違っちゃう!」と、笑顔で検疫所の職員が言っている。
●感染症の専門家にとって超非常識なこと平気で皆さんやってて、みんなそれについて何も思っていないと。聞いたら、そもそも常駐してるプロの感染対策の専門家が一人もいない。
●岩田氏(感染症の専門家)が入ることについて、非常に反対している人がいた。
●岩田氏が厚労省厚労省トップの人に相談したが、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ない態度を取られた。
●岩田に対してすごいムカついた人がいると、誰とは言えないけどムカついたと、だからもうお前はもう出ていくしかないんだ、って話を厚労省のやり取りをしていた担当者から言われた。
●日本政府は、ダイヤモンド・プリンセスの中で起きていることは全然情報を出していない。

 この岩田氏の告発は、岩田氏だけが目撃・体験したものであり、当初、SNSなどでも判断を留保する声も見られた。

 しかし、「ダイヤモンド・プリンセス号」付近で取材をしていた大袈裟太郎氏は、まさしく同じタイミングで、岩田氏の証言を裏付けるような光景を目にしていたのである。

◆現地にいた大袈裟太郎氏が見た、岩田氏の証言を裏付ける光景

 大袈裟太郎氏はこう語る。

「いや、驚きました。防護服(岩田氏の動画で言うPPE)を着た作業員の人が、停泊現場の僕らのいるエリアのすぐそばまで降りてきて、防護服の前を開けて携帯で通話しているんですよ。その電話は脱いでからも使うだろうけど大丈夫なの? 防護服、そこで胸はだけちゃって意味あるの?って、素人の僕が見ても杜撰だなと思いました。これ、防護服については傍から見てもかなりおかしくて、船内に物資を運び込むために外で作業している人は防護服を着ているんですが、中で作業している人は着ていないんですよ。むしろ逆じゃないかって思うんですが」

外で作業している人は防護服を着ている

中にいる人は防護服ではなく、Tシャツマスクだけ

 これは岩田氏が言うところの、レッドゾーングリーンゾーンがぐちゃぐちゃに混在しているカオスな状況であるという指摘を裏付けるものだ。

 また、外から見える船内の様子も岩田氏の言う状況に近いことが推測されたという。

「船内の乗客の方々は、2時間に1回ほど廊下をウォーキングするそうなんですが、そのとき全員がすれ違ったりするわけです。そのことで新たな感染者が出るのではと思いました。でも岩田先生の動画を見る限りそういう対策すらもないようで、大変なことだと思いました」

船内通路を散歩する乗客の方々

 さらに、大袈裟氏は取材からの帰り道、驚愕の光景を目にしたという。

和歌山のDMATって書かれた服を着た、船内で検疫作業されていたと見られるお医者さんたちが、普通に満員の路線バスに乗って帰っていたんですよ。僕も同じバスに乗りましたが。車で送迎もしてあげないのか、と思いましたが、今考えると路線バスも危険だし、そのバスが生麦についてそこから電車に乗られて宿泊施設なりに戻られるわけで、和歌山のDMATの方の感染が発覚しましたが、そのバスの他の乗客や電車の乗客はどうだったのか、もちろん僕自身も含めて、非常に不安になりました」

 大袈裟氏は香港デモの取材もしており、香港におけるCOVID-19対策の様子も知っている。

「香港では、どこかの施設で感染者が発覚した場合、その施設名なども即座にメディアが発表し、一般市民はその場所を避けることができるようになっていました。少なくとも日本とは段違いに情報がクリアになっていたと思います」

自民党の橋本岳厚生労働副大臣はTwitterで岩田氏を批判か
 一方、厚生労働副大臣で自民党の橋本岳氏は、この岩田氏の動画を指してだと思われる、”なお昨日、私の預かり知らぬところで、ある医師が検疫中の船内に立ち入られるという事案がありました。事後に拝見したご本人の動画によると、ご本人の希望によりあちこち頼ったあげくに厚生労働省の者が適当な理由をつけて許したとの由ですが、現場責任者としての私は承知しておりませんでした。”という、まるで「俺の許可なく勝手なことしやがって」とでも言いたげな内容のツイートをしている。

 自民党内では、今回のCOVID-19禍を、桜を見る会隠しや憲法改正に利用とする声もあり、「神風邪」などという声もあるという(参照:「NEWSポストセブン」)。
 
 シンプルに一言、「ふざけるな」としか言いようがない。

 必要なのは憲法改正でも緊急事態条項でもない。

 Buzzfeedの取材に応じた岩田氏が言うように、必要なのは、政府対応の失敗を晒すものであろうと情報を隠し立てせずに情報公開すること、そして、感染症の専門家によるCDC(疾病管理予防センター)を作ることなのではないだろうか。
 
<文/HBO編集部 取材・撮影/大袈裟太郎>

外で作業している人は防護服を着ている