「【シゴトを知ろう】動物園飼育係 編」では、多摩動物公園キリンの飼育管理を担当している齋藤美和さんに、飼育係のお仕事内容や魅力などを伺いました。番外編では、キリンのお世話をしている中で特に心に残っているエピソードや、飼育係ならではの「あるある」などについてお伺いします。

わずかな兆候も見逃さないように、常に動物を観察することが大切

―― 動物の健康チェックは具体的にどのように行っているのですか?
 
健康チェックは、掃除やエサの準備などの作業中も常に行っています。わずかな兆候も見逃さないように、傷の有無・歩き方・食べる量・フンの状態などを中心に、動物を1日中観察して、もし具合が悪い場合には、すぐに対処ができるようにしています。

また、雌キリンは2週間に1回と短いスパンで発情するため、発情期中か否かも健康チェックと同じく常に確認し、記録に残しています。発情期中に交尾が成立すれば妊娠するのですが、発情期を記録に残しておかないと、いつ妊娠したのかが分かりません。そうすると出産時期を把握できないので、母キリンを産室に隔離することができず、出産前の準備が不十分で困ることになります。

人間の親が子どものことを見守ったり、恋人や友人が相手の体調や心情を察したりするのと同じように、動物園飼育係が日々動物をきちんと観察することが大切です。動物は、言葉を話すことができない分、さらに注意深く観察するようにしています。
 
 
―― 多摩動物公園で飼育しているキリンについて教えてください。

多摩動物公園では、16頭(2019年10月19日現在)のキリンを飼育しています。飼育頭数は現時点では国内で最も多く、先輩からも「多摩動物公園キリンの繁殖基地として認識されていて、キリンが大きくなったら日本全国の動物園へお嫁さんやお婿さんとして送る施設になっているから、繁殖を絶やしてはダメだよ」と言われてきました。

多摩動物公園ではたくさんのキリンが産まれているので、時期やタイミングにもよりますが、お客様に仔キリンを見ていただける機会が他の動物園より多いかもしれませんね。

―― 特に心に残っているキリンの出産はありますか?

キリンは通常3~4歳で性成熟するのですが、一昨年、10歳と高齢で初めて妊娠・出産をしたキリンがいました。そのときのことは、特に心に残っています。このキリン多摩動物公園で生まれ育ったわけではなく、小さな頃に他の動物園からここに来て、雄との相性が合わず、なかなか妊娠の機会に恵まれなかったのです。

高齢での初産ということで、飼育係みんなで「無事に産めるかな」と心配していたのですが、なんとか無事に出産することができました。母仔ともに問題なく、仔キリンはすくすくと育っていき、心底ホッとしたのを覚えています。さらにその後、うれしいことに第二仔も誕生しました。今も親仔揃って元気に群れの中で過ごしています。

その母キリンは、日頃から幼いキリンの面倒を見るような素振りを見せていたので、もともと母性本能は強かったのかもしれません。今ようやく本当のお母さんになれて良かったなと、心からうれしく思っています。

飼育係は、常に平常心でいることが求められる

―― 仕事中、こだわってやっていることはありますか?

なるべくいつも同じペースで、平常心で作業することを心掛けています。飼育係の気持ちは、すぐ動物に伝わってしまうのです。例えば「今日は用事があって終業時間後すぐに帰らなければいけないから、早くキリンたちを動物舎に入れないと」と内心焦りながら作業をしていると、キリンたちはその気持ちを敏感に察知して、逆に動物舎に戻ってくれなくなります。私が焦ることにより、キリンたちも驚いてソワソワしてしまうのです。

プライベートのことで気になることがあっても、動物園に来たらきちんと気持ちを切り替えて冷静になる。これは常に意識しています。


―― この仕事に就いてから、何か勉強をしていることはありますか?

担当する動物が変わるごとに、その動物について勉強しています。飼育係は、長年経験を積んだベテランでも、担当が変わればまた1年生からスタートです。飼育係としての基本の動き方は変わらなくても、動物によって習性や飼育方法は大きく異なるので、勉強する必要があるのです。

私がキリンの担当になったときは、キリンについて勉強するだけではなく、フォークリフトショベルカーの免許も取得しました。フォークリフトキリンが引っ越す際の輸送箱を運ぶために、ショベルカーは運動場を整備するために必要なのです。

なお、担当が変わるスパンは動物の種類や人によって異なります。

今後の目標はサバンナの動物たちのエキスパートになること

―― この仕事ならではの「あるある」なことはありますか?

街路樹を市役所の人が手入れをしているのを見ると、「この葉っぱおいしそうだから、うちのキリンにあげたいな」と思ってしまいます(笑)。また、以前小動物を担当していた時期は、自分で食べるフルーツ小動物のエサのようにかなり小さくカットしてしまったこともありました。担当している動物によって「あるある」は変わってくるのかもしれません。

飼育係全体の「あるある」でいうと、雨が気にならなくなることです。飼育係は、小雨ならレインコートを着ずに作業することがほとんどなので、プライベートで街を歩いているときに雨が降ってきてもすぐに傘を差さない飼育係が多いと思います。一緒にいる友達に、「何で傘を差さないの?」と驚かれることもしばしばです。


―― 今後の目標を教えてください。

現在サバンナの動物たちを担当して5年目になりますが、徐々に先輩から仕事を任せてもらえるようになり、自分の仕事に自信を持てるようになってきました。今後はさらに上を目指し、サバンナの動物たちのエキスパートになりたいです。また、何かトラブルが起きたときに素早く対処できるように、経験値を上げて自分の引き出しを増やしていこうと考えています。
 
 
個性豊かな動物たちの暮らしを、日々愛情をもって支えている飼育係のみなさん。動物の命に対する責任感や体力、観察力、コミュニケーション力と多くの要素が求められますが、その分大きなやりがいと喜びを感じられるお仕事です。動物好きの人はもちろん、動物の魅力をより多くの人に伝えたいという人は、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか。
 
 
profile多摩動物公園 齊藤美和