(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が拡大している。2月20日にはクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客2人が死亡し、国内の感染者は700人を超えた。こういうニュースが毎日伝えられるため、イベントコンサートなどの中止が相次いでいるが、新型コロナはそれほど恐いウイルスなのだろうか。

新型肺炎のリスクはインフルエンザよりはるかに小さい

 ダイヤモンド・プリンセスイギリス国籍のアメリカ客船なので、厳密には日本国内ではない。それを除くと、厚生労働省によれば、2月19日現在の新型コロナウイルス感染者は国内で73人である。

 他方、国立感染症研究所によれば、インフルエンザの今シーズンの累積受診者数は約650万人と推定されている。大流行した去年はインフルエンザ1100万人以上が感染し、3000人以上が死亡した。今年も1000人程度が死亡すると予想されている。

 ところが73人の新型肺炎患者は毎日報道されるのに、その10万倍近いインフルエンザ患者は報道されず、その数字を知っている人もほとんどいない。なぜだろうか。

「新型肺炎は致死率が高い」といわれる。過去のコロナウイルス感染症(SARS)の致死率は約10%だったが、新型肺炎の致死率は約2%。それも武漢など湖北省が突出して高く、他の地域では1%以下である。

 感染症の致死率は、感染の初期には高く出るバイアスがある。これは重症の患者だけ検査するからで、検査が進むとインフルエンザの0.1%に近づくかもしれない。

「新型肺炎は感染力が強い」ともいわれる。これは基本再生産数と呼ばれ、新型コロナウイルスは3程度と推定されている。インフルエンザの1.3の2倍ぐらいだ。

 つまり新型コロナウイルスインフルエンザより致死率で10倍、感染力で2倍ぐらい強いが、それを勘案しても感染者が10万倍近いインフルエンザリスクは、新型肺炎の5000倍ぐらい大きい。新型コロナウイルスは、風邪のリスクを0.02%ほど増やしただけだ。

 マスコミが新型肺炎で大騒ぎするのはインフルエンザより危険だからではなく、ネタとしておもしろいからに過ぎない。それは彼らのビジネスとしては合理的だが、マスコミの報道でビジネス判断をすべきではない。

 これから集会やイベントを中止するのは無意味である。最大の感染リスクであるインフルエンザの流行はもうピークを越えたからだ。人々が接触を恐れて活動しないと、マイナスに落ち込んだ日本の成長率がさらに下がるおそれが強い。

中国人をシャットアウトすると日本経済は崩壊する

「爆発的な流行を防ぐ必要がある」という人もいるが、湖北省以外では爆発的な流行は起こっていない。日本の感染症の「流行」の基準は全国5000の定点で毎週1人以上(つまり全国で5000人以上)新しい患者が出ることだが、新型肺炎の患者は累計でもわずか1.5%で、警戒する水準ではない。

 今後これが拡大する可能性はある。再生産数が3とすると、感染者がまわりの3人にウイルスをうつし、その人が3×3人に感染を拡大し・・・というように感染は指数関数的に拡大するので、これから爆発的に拡大する確率はゼロではない。

 しかし風邪や肺炎のシーズンは冬である。次の図でもわかるように、インフルエンザがもっとも流行する時期は毎年1月(第2~6週)だが、今シーズンはすでにピークアウトした。 新型コロナウイルスも熱や湿度に弱いので、流行のピークは過ぎたといわれている。

 ただ新型コロナウイルスの特徴は、 感染源が中国にあることだ。 これが日本に入ってくる初期に水際で止めるのがベストだったが、国内の感染者73人のうち、湖北省に滞在歴のある人は25人だけ。すでに国内にウイルスが入り、水際対策の時期は過ぎた。

 日本政府は湖北省などからの入国を拒否している。その対象を中国全土に拡大しろという人がいるが、今からそんなことをしてもほとんど効果はない。中国からの入国を禁止すると、毎年950万人ぐらい来る中国人がゼロになる。観光もサプライチェーンも崩壊し、 日本経済はリーマンショック並みの危機に陥るだろう。

感染症に「ゼロリスク」を求めてはいけない

 こういう話は、昔どこかで聞いた覚えがないだろうか。 新型肺炎だけに「ゼロリスク」を求めるのは、2011年福島第一原発事故の放射能だけにゼロリスクを求めた人々と同じ錯覚なのだ。

 日本人が受ける自然放射線は年間約2ミリシーベルトだが、反原発派は「原発の放射線は1ミリシーベルトでも危険だ」と主張し、民主党政権はそれに押されて1ミリシーベルトの環境基準をつくった。これによって数兆円が浪費されたが、福島に残ったのは風評被害だけだった。

 リスクは単に危険だという意味ではなく、確率的な期待値である。それは次のような式で書ける。

 リスク=被害×確率

 新型肺炎の被害(感染力や致死率)がインフルエンザの20倍だとしても、その患者に出会う確率が10万分の1だったら、リスクインフルエンザ5000分の1だ。新型肺炎にゼロリスクを求めて騒ぐのは、福島でゼロリスクを求めて風評被害を生み出した民主党政権の失敗を繰り返すものだ。

 感染症には放射能と違って他人にうつす「外部効果」があるので、政府の介入が必要な場合もあるが、集会やイベントを規制するのは有害無益だ。新型肺炎のような小さなリスクで集会を規制したら、これから毎年インフルエンザが流行するたびに規制しなければならない。企業がイベントを中止するのは自由だが、そのコストは自己負担すべきだ。

 今の日本は、感染症の爆発的流行が起こる医療環境にはない。武漢で7万人近い感染が発生したのは、発生初期に中国共産党が情報を隠蔽するなど、特殊な条件で起こったものだ。

 もちろん状況はまだ不確実なので楽観は禁物だが、過剰反応はもっと危険である。福島で放射能による健康被害はまったくなかったが、 パニックによる風評被害はまだ消えない。その教訓に改めて学ぶときである。

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