三浦知良(カズ)を追い続けて約40年。その一挙手一投足をファインダー越しに見つめてきた、写真家のヤナガワゴーッ!氏。’18年シーズン横浜FCの全節のゲーム、’19年シーズンホームゲームのすべてを撮影してきた。そんな氏が’20年シーズンをJ1で迎えるチームキャンプに密着、期待感に溢れる選手の様子を撮影した。中村俊輔松井大輔、南雄太等「レジェンド元日本代表」を抱え、俄然、注目度が上がるチーム横浜FCリポートする。

18歳の最若手から今期53歳の最年長まで一丸となりJ1を戦う

 昨季、J2を2位で終え、J1を自動昇格で決めた横浜FC。昨シーズン序盤は思うような成績を残せず、5月に監督を解任、ヘッドコーチを務めていた下平隆宏が監督に就くと、後半は18試合無敗を記録するなどV字回復を見せ、13年ぶりのJ1の舞台を摑んだ。

 18歳の最若手から52歳の最年長までが一丸となった戦いだった。昇格を決めた’19年11月24日、本拠地である三ツ沢球技場に詰めかけたサポーターと多くのマスコミが歓喜したのは言うまでもない。後半残り3分、キング・カズがユニフォーム姿でピッチサイドに姿を現わすと、会場は興奮に包まれた。

 それから約3か月。チーム1月15日からの和歌山県上富田町の1次キャンプを経て、2次キャンプの地宮崎県日南市にやってきた。

 毎年キャンプに密着させてもらっているが、これほど観客の多い年も初めてだろう。横浜FC日南市キャンプを張るようになって10年目。同市で同時期にキャンプを張るプロ野球、とりわけカープに話題を奪われてきたが、今年は格別な雰囲気を醸し出す。

 密着初日。午前9時半からの練習には平日ながら、老若男女が押し寄せる。カープの赤い帽子をかぶる中年男性も交じっている。話を聞くと「キャンプ中は休みをとって、毎年大好きなカズさんのサインもらっています!」と答える。

 グラウンドではカズを先頭にランニングが始まった。

「カズさんが先頭を切って練習してくれるので、若手もそれについている」と下平監督は目を細めるが、そのカズは1月にグアムでの自主トレ中に発症した左臀部痛の影響があり、別メニューでの練習を行っていた。

 集まるマスコミの数も桁違い、長年親交のある記者たちが集まり、まるで同窓会のよう。カズの一挙手一投足に注目していると、元選手が取材絡みで次々と押し寄せる。水沼貴史、福西崇史、播戸竜二ら錚々たる面子だ。昨シーズンに正式に引退した播戸に至っては、練習後のカズへのインタビューがあったが、緊張しているのか硬い。

「もっと突っ込んで聞いてきてよ!」と笑顔のカズは播戸に“愛ある指導”。選手生活35年目の超ベテランマスコミに囲まれたとき、サービスすることも忘れない。

 密着2日目にブローロフィジカルコーチからカズへチーム練習完全合流のサインが出た。ブラジル人のブローロコーチとはポルトガル語で会話しながら、トレーニングに励んでいる。練習のシメには通称「ドッグラン」。コーチの号令で、ピッチの縦方向100mあまりを何度もダッシュ。練習後親しい記者に囲まれるとカズは「全然スピード出てないね~」とは言っていたが、スムーズな手足の回転と芝を蹴る力強さは体調の良さの表れだ。息もまったく切れていない。こんな52歳がいるだろうか。

 キャンプ終盤には35分×4本の練習試合が組まれた。2月1日JFLテゲバジャーロ宮崎との練習試合にはピッチが見渡せるクラブハウスから見学。ジャージティアドロップサングラス姿で観戦する姿に歓声が上がる。

 栃木SCとの4本制の練習試合が組まれた2月4日は、朝9時半出で、自主練習を志願。その他の選手が11時半頃グラウンドに集まったのを尻目に、コーチ相手にドリブル、そしてシュート練習。ベテランとて全体から遅れていると思えば早出の練習をする。気温10℃未満で肌寒いなか、黙々と体を動かす姿が印象的だった。

 練習試合には最後の35分フル出場。ワントップに位置したが、なかなかボールが回ってこず、下がってボールをもらうシーンも。しかし、ペナルティエリア内に入れば、相手DFの裏をかく動きでキレの良さを見せ、右からの速いクロスにはヘディングで合わせ、あわやゴールという場面を演出。詰めかけた観客からはため息混じりの大歓声が上がった。

 練習が終われば色紙を持った人々の列ができていた。選手の送迎バスが立ち往生してしまうくらいの人人人。その大勢のファン一人ひとりに率先してサイン、記念撮影に応じているのが最年長のカズ。若い選手たちも自然とそれに続くのがこのチームなのだ。

 いざサッカーとなれば「キング」と呼ばれる偉大な姿はない。他の選手と同じように大広間で朝飯を食べ、同じようにマッサージを受け、練習後には大浴場に入り、夜9時には就寝する生活。露天風呂では若手選手の腹筋の割れに対抗心を燃やし撮影会をする。そこには誰よりも真摯にサッカーに、仲間に向き合う男の姿があった。

◆カズの背中を俊輔と松井が。その背を南が仰ぎ、追いかける

「長年がむしゃらにやってきて、だいぶ性格も丸くなったんでね、どんな状況も前向きに捉えていきますよ」

 昨年7月にジュビロ磐田から電撃移籍した中村俊輔。昨シーズン黄金の左足を持つ男に与えられたポジションはDFの前の守備的なボランチだった。41歳の選手にとっては「妥当」なコンバートに思えたが、彼はチームから求められたことを地道に、そして確実にこなそうとしていた。

 しかし、J1の舞台に戻った今季は本来のトップ下でプレーするという。カズに劣らず黙々とトレーニングをしている姿が印象的だった中村。桐光学園で高校選手権準優勝、横浜マリノス入団、トルシエジャパン招集、イタリア・レッジーナ移籍、セルティック、エスパニョール、日本復帰……その足跡を常に快く撮影させてくれた男は、こう語ってくれた。

トップ下としてのプレーを監督から、チームから求められ、認められるようになりたい。前線でたくさんボールをもらって相手の嫌がることやったり、いいパスを供給してチームに貢献したいですね。今年それができたら自分にとってもすごく面白いシーズンになると思いますよ」

 節々で彼の姿を写真に収めてきたが、そのたびに「なんでいるの!?」とおどけたリアクションをする中村も「キャンプではカズさんと(宿舎の)温泉に入ってすごくいいリカバリーになっています」とカズと初のチームメイトになることに喜びを隠さない。再びJ1の舞台で戦う英気と楽しみを52歳のカズからもらっているようだ。

 一方、そんなやりとりを見ていたのが柏から移籍してきて、今年で13年目、40歳のGK南雄太。

Jリーグで自分より年上が5人いるんですが、そのうちの2人がウチのチームにいるってすごくないですか!」

 ’99年ナイジェリアU-20W杯準優勝。柏時代は下平監督とともにキャリアを磨いたベテランだ。

 昨年はサブに甘んじる時期もあったが、柏レイソル時代の盟友、下平コーチ(当時)が監督に昇格したあたりから正GKに復帰すると、18戦無敗を誇るなどそこからチームは急上昇、多国籍のベテランから若手までのチームを最後尾からまとめている。

 しかし、練習ではライバルとなる若手GKに声をかけるなど、リーダーシップにも長けている。昨年に引き続き、キャプテンを任され、チームメイトから抜群の信頼がある。そんな40歳のキャプテンも「年上の2人」には舌を巻く。

「カズさんは別格として俊さん(中村俊輔)のプレーを後ろから見てると、自分もまだまだがんばれる気になります。マジでやんなくちゃいけないって……」

 そんなピッチ上の元気なベテランの姿を見て、若手はどう思っているのか?

 J2の水戸ホーリーホックから移籍し、左サイドバックレギュラーを狙う、DFの志知孝明(26歳)は子供の頃から見ていた憧れの選手たちに、尊敬の念を惜しまない。カズや俊輔、松井、南らとともに入る露天風呂では「カズさんに最高のクロスを上げます!」と全裸で宣言するほどだ。

 そんな若手に静かながらも、優しい視線を向けていたのが、38歳の松井大輔だ。フランスで長くプレーしてきた両利きのドリブラーも横浜FCで3季を経て、苦楽を味わってきた。昨年はボランチにコンバートされ、新境地を開拓してきたが、移籍してきた中村俊輔が同ポジションに挑戦、結果、しのぎを削る形となった。

 奇しくも’10年の南アフリカW杯、直前まで「10番」を背負ってレギュラーで試合に出ていた中村はベンチを温め、その座を松井に譲った経験がある。その後松井はジュビロ磐田に移籍、のちに磐田に中村が移籍してきてチームメイトに。そして両者が横浜FCに移ってきたことで、三度目の邂逅。中村はそんな松井を「戦友」と親しみを込めて評す。

 このキャンプでは何を聞いても、「ふふふ」と笑うだけだった松井。驚くほど声を発しない。背中で語る姿は若手の手本となっているが、松井の手本はカズだ。

 磐田時代からカズと毎年1月にはグアムで自主トレーニングを積んできた。自身の公式インスタグラムで誰よりも軽やかに「チームKAZU水泳部」として、カズの「肉体美写真」を上げ、世界中から称賛を浴びた実はユーモア溢れる男でもある。

◆リビングレジェンドが「J1」で躍動する姿を目に焼きつけろ!

 そんな全員の尊敬を集めるカズはキャンプ最終日を前に臀部の痛みが再発。チームを離れ精密検査をすることとなり周囲をざわつかせたが、今月12日に横浜市内で行われた「出陣式」には元気に登場した。

 全選手揃いのスーツで決めるなか、クロムハーツの黒フチ眼鏡をかけるカズはひと際輝いて見えた。

 カズの影響力は選手のみならず横浜市政にも及ぶ。昨年12月のJ1昇格報告会では「屋根がね……。雨の日はサポーターが濡れてしまうので協力してもらえれば」とコメントしていた。

 ’55年開場で老朽化が進む本拠地・三ツ沢球技場の大規模改修を林文子横浜市長に強く訴えた。今回は林市長自ら挨拶の席で「三ツ沢球技場に屋根をつけましょう!」と宣言した。

 しかも同じ街に横浜Fマリノスというライバルチームがあるというのに市長は、議長はじめ横浜市議会サッカー部の面々に「予算は大丈夫ですよね!」と公開で念押しするほどの入れ込みよう。

 カズがマイクを握ると、詰めかけた議員たちが一斉にスマホのシャッターを切る様子はまさに「キング」の貫禄だ。

チームも順調。(23日のJ1)開幕戦に勝って勢いをつけ、ベスト10入りを目指して1年間精いっぱいやりたい」

 と高らかに宣言したカズ。

 23日の開幕戦の相手は8日の横浜Fマリノスとのスーパーカップを制した、イニエスタを擁するヴィッセル神戸だ。

 現在は別メニューで練習を続けているというカズだが、全世界を驚かすべく、開幕スタメンに向けて万全の準備をしている。

 リビングレジェンドが日本のトップリーグであるJ1で躍動する姿を、ぜひこの目で確かめようではないか!

●FW 11 三浦知良(52歳)
’67年2月26日生まれ。プロ35年目。J1開幕直後には53歳の誕生日を迎える。リーグ戦出場となれば「最年長記録」として世界中でニュースとなることは必至。最新刊『カズのまま死にたい』(新潮新書)が発売された

●MF 46 中村俊輔(41歳)
’78年6月24日生まれ。昨季途中J1の磐田からJ2だった横浜FCに移籍。10試合に出場し、J1自動昇格に貢献。黄金の左足は健在、直接FKでのゴールを担う。今季はトップ下でもプレーの予定。背番号は足して10の「46」

●GK 18 南 雄太(40歳)
’79年9月30日生まれ。チームで3番目の年長者。’99年ワールドユース準優勝メンバー。’09年に柏で契約満了となって以来のJ1の舞台となる。昨季途中から正GKとなり33試合出場。カズと同じ名門・静岡学園高の出身

●MF 22 松井大輔(38歳)
’81年5月11日生まれ。’04年アテネ五輪、’10年ドイツW杯を経験。フランスロシアブルガリアポーランドと長く海外でプレーリベロからボランチ、年々プレーの幅は広がっている。両利きのテクニシャンは健在

◆カズより4つ下、下平隆弘監督(48歳)の采配と気配りと

関ジャニ∞村上信五似」といわれる人懐こい笑顔を見せる下平隆宏監督。昨年1月より横浜FCヘッドコーチを務め、5月に監督に就任。実はカズよりも4つも年下で現役(柏レイソル)時代には対戦経験もある。

 キャンプ中には他の選手を呼び捨てにするなか「カズさん!」と“気配り”を見せる場面も。

「選手たちはとにかくポジションの奪い合い。ポジションを奪われたらさらに奪い返す気持ちを大切にしよう、と話しています」と競争の大切さを説き続ける。

 昨季は松井大輔を外し、磐田から移籍した中村俊輔を慣れないボランチへコンバート。両サイドバック大学生を抜擢するなど大胆な采配でJ1昇格に導いた。

 晴れのJ1の舞台でどんな采配を見せるか、注目の監督の一人だ。

取材・文・撮影/ヤナガワゴーッ!
※週刊SPA!2月18日発売号より

ランニングでは常に先頭を走るカズ。年長者が背中で若手を引っ張っていく