振り飛車党の鈴木大介九段が「藤井システムだけは使うまい」と決めていた理由 から続く

 鈴木大介九段は年下の棋士との交流も深い。永瀬拓矢二冠が「私の棋士人生は鈴木先生にいただいたものだと思っています」と述べるなど、鈴木九段が後輩棋士に与えている影響は大きい。

 また、趣味の麻雀では、サイバーエージェントの藤田晋社長と交流があり、AbemaTVの将棋チャンネル立ち上げにも携わった。最近は麻雀最強戦で優勝する活躍を見せた。ここでは鈴木九段の将棋と麻雀への向き合い方について聞いてみた。

(前後編の後編/前編を読む)

悩んだ時期はありました

――鈴木九段と将棋会館で会うと、いつも詰将棋の専門誌「詰将棋パラダイス」を持っていた時期がありました。かなり熱心に詰将棋を解いていた印象があります。

鈴木 一応、30代の半ばから後半のころに、将棋のことを1日8時間やると義務づけていました。終盤が弱いと勝てないので、タイトルを取るためには詰将棋を解かないといけないと思ってのあがきでした。それでも、結果はついてこなかったですね。

 もうタイトルが取れないんじゃないかと思いました。取れないのは結果なんでいいんですけど、タイトルを目指さない棋士が指すことに意味があるのか、みっともないのではないかと考えたんです。それならレッスンプロになったほうがいいという自分の感覚でした。ルールを知らない人に駒の動かし方から教えるのが、とても下手なんですけど、悩んだ時期はありました。

――えっ、現役を退くということですか。

鈴木 真剣勝負を指したい気持ちはありますが、それは自分のエゴですから。プロである以上は、ファンが見て面白い特徴ある将棋を指せていればいいでしょうけど、それが指せなくなって限界を感じたときに、制度にすがりついていくのはどうかなと思ったんです。いきついたのが、現状は裏方として将棋界に貢献するということですね。

 そして、プレーヤーのほうは自分らしく振り飛車らしい将棋が指せているうちはまだ続けようと。ただ、現役にはこだわりはないですね。将棋界からいなくなるかは別で、将棋は好きで必要とされていることがあれば手伝いをしたいと思っています。

――そのようなことを考えていたとは知りませんでした。

鈴木 いつまでプロをやっていくか、棋士はみんな同じことで悩んでいると思います。人にはいえないけど、自分の限界って自分がいちばんわかりますからね。弱いときでも、クラスが上がってタイトルに半歩でも近づいていると思っているうちはよかったですけどね。

 これは一生考えることなんでしょうね。師匠は「棋士になって最後まで指し続けるのは義務で当たり前だろ。落ちたから辞めるって何事か、そんな軟弱な」という考えでした。最後まで現役でルールに沿って戦うというのはあると思います。自分の考えと、師匠の言葉とで葛藤しているところです。

ビッグマウスは好きなので

――鈴木九段は後輩の奨励会員や棋士に目をかけることが多い印象です。

鈴木 若手というか、「自分を持っている将棋」を指す棋士が好きなんです。若手とイキのいい将棋を指して、将棋を楽しんで活力をもらう代わりに、盤上ではこちらの力が上だから相手が勉強になる。そういう交換です。

 40代になって、相手に迷惑がかかるかなと考えます。相手がよっぽど弱くない限り、自分にばかり得るものがあって、相手に得るものがないかなと思ってしまいます。

――後輩の棋士と接するのに、どのようなきっかけがありましたか。

鈴木 それは縁によるもので、一人ひとり違います阿久津くん(主税八段)のときは、滝先生(誠一郎八段)から、「今度、町田に住んでいる阿久津というのが奨励会に入ったので面倒を見てほしい」といわれていました。彼が二段くらいのころに、島先生(朗九段)の研究会で指して以来の付き合いです。阿久津くんと一緒にいたのが橋本くん(崇載八段)。二人は兄弟みたいな感じで、いつも一緒に行動していましたね。

――阿久津八段と橋本八段は1982年度生まれで、奨励会入会は1994年の同期ですね。

鈴木 二人とも、最初に指したときから、トップに近いところまでいくとわかりましたね。橋本くんからは、VS(練習将棋)をお願いされてやるようになりました。

 阿久津くんには、彼がC級2組順位戦で出だし3連敗して、不甲斐ないから飲みに連れ出して、「いまの君じゃトップになれないよ」といったんです。そうしたら、彼が大粒の涙をボロボロ流して、「鈴木さんクラスならすぐに抜けるんです。自分の目標は羽生さんなんです」って。私がA級のときですよ、ははは。ビッグマウスは好きなので、こういうことをいわれると、かえって気持ちいいですね。

彼がいなかったら、棋士を辞めていたかもしれない

――永瀬拓矢二冠とVSをよくしていたことも知られています。

鈴木 VSは永瀬くん(拓矢二冠)が棋士になってからですね。先ほども話した、棋士人生で悩んでいたころでした。彼は研究熱心ですし、やり始めてからは、こちらもグイグイ引っ張られました。あまり指したくないときでも永瀬くんとやっていたので、現在もある程度棋力が衰えずに指せている要因の一つと思いますね。

――永瀬二冠とは、王位戦リーグの1回戦で当たっていますね。

鈴木 永瀬くんとの対戦は感慨深いものがありますね。彼にはここ20年くらいの棋士仲間の中でも、いちばん感謝をしています。彼がいなかったら、棋士を辞めていたかもしれないですし、この年まで勝ったり負けたりの勝負ができたかどうか。彼はとても義理堅いんですよ。現在は弟子の梶浦(宏孝五段)が稽古をつけてもらっています。

藤田晋社長とは20歳のころに麻雀で遊んだ仲です

――理事になる前には、AbemaTVの将棋チャンネルの立ち上げにかかわりました。

鈴木 サイバーエージェントの藤田晋社長とは20歳のころに麻雀で遊んだ仲です。しばらく会っていなかったんですけど、縁がありまして「将棋の番組もAbemaTVで作りませんか」という話になりました。藤田さんに任せたらとんとん拍子で進んだ感じですね。本当に感謝しています。

――2017年2月にAbemaTVで将棋チャンネルが始まり、その翌月から、「藤井聡太四段 炎の七番勝負」が放送されました。藤井四段(現七段)の公式戦の連勝とともに注目され、反響が大きかった企画でした。

鈴木 野月さん(浩貴八段)を含め、スタッフの皆さんの好判断でしたね。最初は大幅に負け越して、藤井くんが自信をなくしたらどうしようと思いました。会議のときに野月さんが「藤井くんの将来を考えたら、誰が見ても納得できるメンバーと勝負したほうがいい」といったのを覚えています。

――結果は藤井四段の6勝1敗。特に第7局で羽生善治九段(当時、三冠)に勝ったことは、将棋を知らない方にも大きなインパクトを与えました。

鈴木 藤井くんが結果を出したのはすごかった。若い人の成長は目覚ましいですね。最初、AbemaTVスタジオに入ってきたときは中学生で、オドオドしていましたよ。それが次第に受け答えもしっかりしてきて、端から見ていてすごいなと思いましたね。

棋士らしい麻雀で、自分の読みを信じる

――最近話題になった麻雀についてうかがいます。麻雀ではどのようなタイプでしょうか。

鈴木 現在の麻雀はリスク管理とか、ゲーム回しが注目されています。牌のめぐり合わせはたまたまであるという概念が強いんです。

 けれど、自分は相手の癖を見ながら打つ駆け引きの麻雀です。棋士らしく読みの入った麻雀を打ちたいですね。外れることもありますが、「ビタ止め」という当たり牌だけ止めるのが得意戦法です。調子がいいときには、牌の切り出し方などを判断材料にして、端から端まですべての牌を言い当てたこともあります。

――ハイリスクハイリターンなのですね。

鈴木 自分の中では読み切っているつもりですけどね。外れることもあるから、そういう意味でハイリスクなのでしょうね。いまの主流からは、かけ離れた打ち方です。

――麻雀は洞察力も発揮して勝たれていますが、将棋にも共通する部分があるんでしょうか。

鈴木 それはもう。私は流れ論者なので、手の流れを読んで、この流れなら押していけば勝てるとか、向こうが引くだろうというのは当然考えます。

――優勝した麻雀最強戦では、決勝戦も強く押していましたね。

鈴木 そのときも相手の所作で手の点数とかを読めるところがあるので、強くいったんです。勝ちのときは一気にいかないといけないと思うんですよね。将棋と同じですね。

ツモ切りまでの動作が0コンマ数秒だけ早くなる

――雀士の桜井章一さんが設立した「雀鬼会」に入っていたそうですね。

鈴木 最近、桜井会長から励ましの電話をいただいて、久しぶりにお話しさせていただきました。「若手の雀士の中では、鈴木くんが頭一つ抜けていて、すばしっこい麻雀を打っていた」といわれてうれしかったですね。

――麻雀最強戦に向けて練習したのでしょうか。

鈴木 練習はほとんどできませんでしたが、雀鬼会の教えを守って、事前に素振りをし、半身に構えて打ちました。あとは将棋と同じで、勝負をしている最中は丹田に力を入れて、自分の芯を作ります。これが勝つコツです。麻雀プロでもできていなくて、集中力が涸れる人はけっこう多い印象を受けました。

――雀鬼流は独自の制限があるといわれますね。そういう縛りを設けて打っていたのでしょうか。

鈴木 雀鬼会はそちらがよく注目されますけど、姿勢のほうが大事です。半身の構えで集中力を切らさないのは日ごろの鍛錬からくるものです。真正面を向くと、ほかの人の動作が見づらいんですよ。あと、自分の利き腕を前に出すほうが、ツモって切るまでの動作が0コンマ数秒だけ早くなります。わずかな時間でも、相手の所作を見る貴重な時間です。それは見損ねたら永遠に入ってこない情報なんです。

読みに自信を持って、遂行する胆力

――ほかにどのようなことを大事にしていますか。

鈴木 あとは自分の読みを信じることです。プロだと、だいたいの人は読めているけど、当たる確率が少し高い牌を引いたときに降りることがあります。でも、自分は自信があったら、自分の読みと心中するわけです。読みが外れて放銃して負けても実力なので納得がいきますけど、読めていたのに嫌だから止めることはないですね。これは将棋で培ったものです。

――将棋も相手だけでなく、自分との戦いなのですね。

鈴木 将棋は最後に相手の玉を詰ます局面でプロとアマの差が出ます。アマチュアの方で相手の詰みがわかっても、詰ませられない人がたくさんいます。なぜなら怖いからです。

 棋士も詰ますときは何回も読み返しますけど、「これだけ読んだのに自分の読みが外れていたら棋士を辞める」という覚悟で最後に詰ましにいくわけです。プロ棋士は詰むと思った5手詰を詰まし損ねることはないはずです。そうした経験は麻雀に生きています。読みに自信を持って、遂行する胆力というか。

 将棋界は勝負の鬼が多いですね。子どものころから勝負慣れしている人が多いです。勝負のプロなんです。麻雀プロで自分よりも強い人はいっぱいいると思うんですけども、それでも、本当に自分の読みを信じてやれているのかな、読み切っているのかなっていう点はクエスチョンマークのときはありますね。

――将棋界には、麻雀好きの棋士が多いとよく聞きます。棋界の最強位として対抗馬になるのはどなたでしょうか。

鈴木 そうですね、名乗りを上げる人はたくさんいると思いますが、一人あげるとすれば広瀬くん(章人八段)でしょうか。そんなことをいうと、阿久津くんには怒られるかな(笑)

写真=今井知佑/文藝春秋

(君島 俊介)

鈴木大介九段