(舛添 要一:国際政治学者)

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 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。中国では、21日現在で、死者2236(+118)人、感染者7万5465(+889)人。感染者が2000人を下回ったのは3日連続だが、実は、中国当局はまた統計方法を変えている。先日、PCR検査のみならず、診断結果のみの判定も加えたが、昨日から再度PCR検査での数字のみにしたのである。

 統計に継続性がないというのは問題で、実態がよくつかめなくなる。そのため、いつピークアウトするかは、まだ読めない。

 日本では、横浜港に停泊中のクルーズ船から、陰性の乗客が下船を始めたが、船内での感染が拡大する一方であり、21日13時現在で634人にも上っている。

 これに加えて、チャーター機帰国組が14人、その他の感染者が83人であり、その半分は感染源、感染経路が不明な患者である。国内感染者の合計感染者数が731人と膨れ上がっている。

 この700人以上という数字を見ると、世界は、日本が「第二の中国」、「第二の武漢」になりつつあると思うのは当然である。タイ、韓国、ブータンイスラエルなどは、自国民に日本への渡航を自粛するように指示を出している。

東京五輪中止ならロンドン五輪?

 3月1日に行われる予定であった東京マラソンは、一般参加を取りやめ、エリート選手のみで開催することとなった。更衣室、スタート地点、応援などの場で濃厚接触がありうるので、賢明な判断であろう。

 次の問題は、東京オリンピックパラリンピックである。ロンドンでは5月に市長選挙が行われるが、カーン市長(労働党)と対抗馬のベイリー候補(保守党)は、東京開催中止の場合、ロンドンで代替開催する用意があると表明した。

 ロンドンは2012年五輪の開催地であり、私も都知事のときに、東京開催の参考にするために視察したことがある。競技施設も整っており、また様々なインフラも整備されているが、選手村は民間のマンションに改装されているし、メインスタジアムなど規模を縮小した施設もある。

 したがって、あと数カ月の準備で代替開催というのは無理がある。要は、ロンドン代替案が出るほど、東京の「危険性」が世界に拡散されているということである。

 とりわけ、クルーズ船での感染者が600人を超え、海外から「ウイルス培養シャーレ」と揶揄されるような状態が、いかに日本のイメージダウンにつながったかということである。

岩田健太郎氏は新型インフルでも活躍

 その点に関して、クルーズ船内に入った神戸大学岩田健太郎教授の告発動画が大きな反響を呼んだ。私は、岩田をよく知っている。新型インフルエンザのときに、厚労大臣として対応に当たった私に彼が貴重なアドバイスを与えてくれたおかげで、正しい判断と適切な措置ができたのである。

 厚労大臣の私は、日々、役人のサボタージュや医系技官や薬系技官の嘘に悩まされていた。幸いに、東大で教鞭をとっている時代に医学部の学生を相手に授業をしていたため、多数の教え子が医療関係者におり、そのネットワークを活用し、正確な情報を得ることができた。

 実は、政府の新型インフルエンザ対策本部には専門家諮問委員会が設置されたが、首相官邸はメンバーを教授以上の肩書きの者に限定した。そのため、若手の専門家や既存の医療エスタブリッシュメントに反対する者の意見は遮断されてしまった。

 私は、東大医学部の教え子たちに依頼して、セカンドピニオンを取り入れる必要があると判断し、神戸の現場の病院を指揮する岩田健太郎、国立感染症研究所の森兼啓太、東大医学部感染症内科の畠山修司、自治医科大学感染症学部門の森澤雄司の4人に集まってもらった。彼らは、常日頃から既成の権威に対して堂々と反論してきた勇気ある専門家であった。

 これを厚労大臣直属のアドバイザリー・ボードとして設置し、私の大臣室に集まってもらって意見を聞いたのである。

 岩田は、今回のクルーズ船動画に見られるように、問題点を率直に述べるタイプの研究者であり、新型インフルエンザ治療のときも、現場体験から、「軽症であれば、インフルエンザは自然に治る。こちらに入れ込み、心筋梗塞などの命に関わる病気の治療をおざなりにするのは本末転倒である」と強調したのである。

 このような見解に耳を傾けることによって、私は、行動計画の柔軟な適用をすることができた。もし、この私的諮問機関がなければ、病院はパンクして、重症者のケアができなくなっていただろう。様々な意見を取り入れることがいかに重要かということである。

 そこで、今回、岩田の動画を見て、これは広く国民に知らせる必要があると思い、19日朝に自分のSNSで拡散したのである。その結果、マスコミや国会でも広く取り上げられたが、20日には岩田自らが動画を削除してしまった。本人は、動画が十分に役割を果たしたので、削除したということであるが、医学界、厚労省、政界などのエスタブリッシュメントからの圧力を感じたのではあるまいか。

 岩田が言うように、政策決定過程が明確でないこと、指揮命令系統も不明なことが問題である。また、感染ゾーンと非感染ゾーンとの区別が明白ではなく、船内感染者に関する情報も開示されていなかった。岩田の批判を受けて、この点についての情報は開示されたが、役所の情報隠匿体質は相変わらずである。

遅きに失した専門家会議の立ち上げ

 そして、専門家会議の立ち上げが遅れたことは致命的である。

 2009年前の新型インフルエンザのときは、4月24日に北米で発生してから4日後の28日には、政府は対策本部を立ち上げ、5月1日には専門家諮問委員会を設置した。

 ところが、今回は、昨年12月8日に武漢で初の症例が報告され、1月16日には日本で初の感染者が出たにもかかわらず、対策本部の初会合は1月31日である。

 そして、専門家会議が設置されたのは2月14日であり、その初会合は16日である。国内初感染から1カ月も浪費している。2月13日に、神奈川県の80代の女性が死亡、つまり国内で初の死者が出たので、慌てふためいて専門家を召集したような感じである。

 この危機感のなさ、危機管理体制の不備は厳しく批判されねばならない。新型インフルエンザのときは、5月9日にアメリカから帰国した高校生らの感染が確認されたが、わずか1週間後の16日には、感染経路の不明な患者が発生している。今回は、1月16日の初の国内感染者確認から4週間後の2月12〜13日頃から感染源不明の感染者が続出し始めている。

 以上のように、対策が後手後手に回っているのが今回の危機管理の失敗である。

海外で定着「日本は第二の武漢」のイメージ

 クルーズ船は2月3日に横浜に寄港している。もし、専門家会議をそれ以前に立ち上げていたら、世界が呆れるような酷い結果にはなっていなかっただろう。さらに言えば、クルーズ船は未知の経験であり、特別に対策チームな専門家委員会があってよい。

 そこには、感染症専門家のみならず、国際法や船舶の専門家も入れるべきである。ダイヤモンド・プリンセス号イギリスの船であり、運用はアメリカの会社が行っている。旗国主義などについては、国際法の専門家に諮る必要がある。また、船舶の構造、内部の生活環境などについては、船舶のエキスパートに聞くべきである。

 クルーズ船に関する特別専門員会があれば、途中で「ウイルス培養シャーレ」と呼ばれる状況になったときに、柔軟に方針を転換できたであろう。船内で働いている医療関係者や政府職員らの苦労は多とするが、政府の司令塔不足、対策の遅れは問題である。

 以上のような状態は、先述したように、東京オリンピックパラリンピックの開催に暗い影を投げかけている。

 SARSは2002年11月16日に最初の症例が中国で出て、2003年7月5日にWHOが終息宣言を出している。SARSに似ているとされる今回の新型コロナウイルスは、12月に発生したので、SARSと同じなら8月まで続くことになる。しかも、日本は「第二の武漢」だというイメージが世界に拡散している。

 このような状況が続けば、有力選手の参加中止表明など、東京五輪の先行きが悲観的になってこよう。

 世界が協力して何とか新型コロナウイルスを封じ込めねばならないが、予断は許さない。残念ながら、五輪中止というシナリオも用意しておかねばならない状況になりつつある。

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