皆さんは、公園などで野良猫に餌を与える人を見たことがありませんか。このような人を「餌やりさん」と呼びますが、この餌やりさんを快く思わない人も数多くいます。餌を与えることで野良猫がその地域にすみ付き、繁殖したり自宅の庭先でふん尿をしたりするなどの迷惑をかけることがあるからです。

 一方、餌やりさんは「食べ物がなくてかわいそうな野良猫に、なぜ餌を与えてはいけないのか」などと訴え、餌を与えることを正当化しようとします。果たして、野良猫に餌を与えることは、善いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。

 地域猫や野良猫の不妊手術の推進に取り組む公益財団法人どうぶつ基金(兵庫県芦屋市)理事長の佐上邦久さんに聞きました。

餌やりを禁止すると逆効果

Q.「猫に餌を与えることはやめてください」という看板や、餌やり禁止の条例がある地方自治体もあります。野良猫に餌を与えることは、善いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。

佐上さん「野良猫に餌を与えることは善いことです。猫は愛護動物であり、人に守られる対象です。おなかをすかせた猫に餌を与えることは、基本的には『動物の愛護および管理に関する法律(動物愛護法)』に沿った行為だと思います。餌を食べることができれば、野良猫がごみをあさるようなことも減ります」

Q.ただ、野良猫に餌を与えることで、過剰な繁殖やふん尿被害といったマイナス面が発生すると言われています。どのような与え方なら、問題ないのでしょうか。

佐上さん「大事なことは、餌を与えるときに野良猫が食べ終わるまで見守ることです。そして、食べ終えたと思ったら、残った餌を必ず後片付けすることです。後片付けすることが、周囲に迷惑をかけない一番の方法です」

Q.野良猫が食べ終わるまで見守らない、そして、後片付けもしない餌やりさんに対しては、どのように対応すればよいでしょうか。

佐上さん「餌を与えている人は、猫を愛している人です。『愛する猫が嫌われ者になってしまわないよう、食べ終わるまで見守って、後片付けをしてあげてください。それが猫の幸せにつながります』と伝えてあげてください。

また、不妊・去勢手術を野良猫にしてあげるよう勧めてあげてください。手術によって、猫が繁殖しないばかりか、尿の臭いが激減し、雄猫が雌猫への求愛行動で発する夜中のさかり声や猫同士のけんかもなくなります。

どうぶつ基金をはじめとする猫の愛護団体には、野良猫に無料で不妊・去勢手術ができる制度(どうぶつ基金の場合は『さくらねこTNR』)があります。増えすぎた野良猫が、生まれてすぐに殺処分されてしまう。そんな不幸な命をゼロにするため、ぜひとも全国の餌やりさんに協力していただければと思います」

Q.野良猫に餌を与えないことで、ふん尿など野良猫に関する地域の問題が解決すると考える人もいます。

佐上さん「逆に悪化します。野良猫が食べ物を求めてごみをあさるようになりますし、地域のあらゆる場所に野良猫が分散して、不妊・去勢するために猫を捕まえることもできず、野良猫がどんどん繁殖してしまうからです」

餌やりと繁殖に関係は?

Q.しかし、よく、餌やりをすることで野良猫が増えてしまっていると言われます。繁殖に餌やりが関係しているのではないでしょうか。

佐上さん「餌やりさんに責任は何もないです。なぜなら、餌を与えたから繁殖をするのではなく、猫を捨てる人がいること、そして、不妊・去勢手術をしないから繁殖するのですから。最近は、餌やりさんが餌を与えることが野良猫の繁殖につながっているとして、『餌やり=悪』のような風潮があることを危惧しています」

Q.危惧とは、どういうことですか。

佐上さん「本来、野良猫の繁殖をコントロールするのは地方自治体など行政側の役割ですが、それがうまくいかず、餌やりさんに責任を転嫁しているように思うのです。地方自治体の中には、『野良猫に餌を与えてはいけない』という条例を定めているところもありますが、本来は猫を捨てる人に問題があるのではないでしょうか。

動物愛護法でも、猫を捨てると100万円以下の罰金を科すと定められています。しかし、猫を捨てた人を見つけ出すのが難しいということで、餌やりさんを規制しようとしているように思うのです。

大阪市が2019年12月に、『大阪市廃棄物の減量推進および適正処理並びに生活環境の清潔保持に関する条例』を改正しましたが、公共の場所における清潔の保持の観点から、ハト、カラスその他の動物へ餌を与えた後に清掃を行うことなどを義務付けました。つまり、餌を与えることを規制するものではないということです。この条例が理想形だと思います」

Q.私たちが、餌やりさんが猫に餌を与えている場面を近所で見かけたとき、何らかの声掛けをした方がよいのでしょうか。どのような声掛けをすればよいですか。

佐上さん「餌やりさんが餌をばらまいてそのまま帰るようなら、『こうした餌やりでは、野良猫が地域から嫌われるきっかけになる』と伝えてあげてください。野良猫が食べ終わるまで見守り、後片付けもしっかりする餌やりさんには、できれば感謝の言葉を伝えてあげてください。

餌やりさんがいなくなると、野良猫の地域問題は悪化します。餌やりそのものが悪いわけではないのです」

オトナンサー編集部

野良猫への餌やりは善い行為?