居酒屋に行き、飲み物は全員水を頼んだーー。水が入ったグラスで乾杯する写真と共につぶやかれたツイートが今年1月、賛否両論を呼びました。

このツイートに対して、「有料の飲みものを頼まないといけないルールはない」、「店側が断らなかったのだから」、「別に良くね?」という声もあれば、「居酒屋行くなよ」、「非常識だと思います」と反発する意見もみられました。

今回のように「飲食店で水だけ頼む」は、度々ネットで話題となります。

お店側からすれば、お酒もしくはソフトドリンクを注文して欲しいというのが本音かもしれません。お店側はお客に対して、有料ドリンクの注文を強制できるのでしょうか。鈴木義仁弁護士に聞きました。

●店側が客に明示しておく必要がある

ーー料理は注文したものの、有料のドリンクではなく水だけしか注文しない場合、法的問題になるのでしょうか

居酒屋のような飲食店としては、来店した客が料理もドリンクも注文してくれることが前提となってはいるでしょう。

しかし、料理しか注文しない顧客に有料ドリンクの注文を強制するためには、来店した客に有料ドリンクの注文義務があること、すなわち店と客との間で有料ドリンクを注文する契約が成立していなければなりません。

ーー「契約が成立」とは、具体的にはどのような状況を言いますか

たとえば、「料理を提供するためには、有料ドリンクを注文してください」という条件をメニューに書いたり店内に掲示したりして、店側が客に明示しておく必要があります。

ーー店は料理のみ注文するお客に対し、帰ってもらうことはできますか

店の側にも客を選択する自由はあります。料理しか注文しない客に対して、帰ってもらうことは自由です。実際にそうするかどうかは別として、水を有料にしてしまうことも可能でしょう。

全員が水だけしか注文しない客となったら、居酒屋の経営は成り立たないでしょう。しかし、水だけしか注文しない客を断固拒否してしまうと、「生意気な店」とか「うるさい店」とか言われて客足が遠のく危険性もあります。

通常客を選ぶことができない店側としては、法律論だけでは割り切れない難しい問題です。 

ーーもし、水だけを注文し、料理等を一切注文しなかったという極端な場合はどうでしょうか

飲食店は、飲食を提供してその対価を得るという場所であって無料休憩所でも公共の施設でもありませんから、「注文しないのなら、ご退店ください」と言えるでしょう。

何も注文しない客は店にいるだけで店に損をさせていると言えます。店側の要請に応じないで出て行かないのであれば、不退去罪(刑法130条)が成立する可能性がありますし、状況によっては威力業務妨害罪(同234条)に問われるかもしれません。

【取材協力弁護士】
鈴木 義仁(すずき・よしひと)弁護士
神奈川大学大学院法務研究科教授。前横浜市消費生活審議会会長。著書に「悪徳商法にご用心」(共著:日本評論社)、「訴える側の株主代表訴訟」(共著:民事法研究会)「くらしの法律相談ハンドブック(共著:旬報社)」
事務所名:法律事務所横濱アカデミア
事務所URL:https://yokohama-academia.jp/

居酒屋で全員「飲み物は水」が話題に 「別に良くね?」「非常識だ」賛否の声