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修復を受けずに50年間保管されていた

text:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)
photo:James Mann(ジェームズ・マン)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
フィゴーニが生んだクーペ、タルボ・ラーゴT26グランドスポーツはチェコの街へと運ばれると、調査と分解が始まる。「ほとんどレストアされていなかったことは幸運でした。前に手を付けようとした専門家は、余りにも工数が多すぎると判断し、そのままの状態だったんです」 とクデラが説明する。

「むしろ、フロントにダメージがあったことは幸運だったかもしれません。別の部分なら修復されていて、倉庫に入ったままということはなかったはずです」

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タルボ・ラーゴT26グランドスポーツ・クーペ(1949年

初めにボディーをシャシーから降ろし、シャシーが曲がっていないことを確認した。だが、サポート部分に予期せぬ費用が掛かった。「オリジナルのサポート部分は木製で、状態は良く、90%はリビルトして使っています」

「フィゴーニの職人の技術水準には感銘を受けました。イタリアコーチビルダーとは異なりハンマーで叩くのではなく、英国製の成形用ホイール選び、アルミニウムを転がしてボディを成形しているのです」

インテリアは完全にオリジナルのままだった。レザートリムはカリフォルニアの太陽の光で傷んでいたが、装飾の下の部分から、オリジナルの色を探し当てた。特徴的なメーターやスイッチ類、ステアリングホイールは取り外し、仕上げ直した。

サイドシルの部分など、真鍮製のクローム・ボディトリムは多くが残っていたが、ダメージを受けていたフロント部分はチャレンジングな課題だった。「箱の中にオリジナルのフロントグリルのトリムは一部は見つけましたが、残りはワークショップで自作しました」

過去の写真を拡大し細部を確認

「本を書いた歴史家のピーターなどが、細部の様子が分かる写真を用意してくれて、とても助かりました」 と笑顔で話すクデラ。ボディラインに合うように整形した部品は、英国のクロームメッキ職人へと送られた。

仮組み立てを行い、ボディのフィッティングとギャップ調整を行うと、白のプライマーで下地を塗り、最終的な塗装へと進んだ。配線類はオリジナルが残っていたが劣化が進んでおり、完璧な複製を作り直している。

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タルボ・ラーゴT26グランドスポーツ・クーペ(1949年

1949年のパリ・サロンの写真を見ると、フロントガラスにはノトロラック社の告知サインが載せられている。ボディの塗装に特殊な仕上げが施されていることを紹介するものだ。

「アメリカではボディの色が剥がれていましたが、ヒンジの下にオリジナルの塗装が残っていました。これを手がかりに、正しい青色を調色できました」 と振り返るクデラ。

残る作業は、プラスティック製のサンルーフ。「レストアを通じて、可能な限りオリジナルを活かして復元しています。サンルーフは退色していましたが、磨き直して傷を取り、載せています」

ホイールカバーはなくなっていたため、作り直した。「1959年の写真を見る限り、既にその時点で付いていません。これは本当に難しい作業でした。過去の写真をスケールアップし、ディスクをデザインして、3Dモデルを試作しました。それからカリフォルニアの専門家へ送り、1セットを作ってもらっています」

ホイールカバーは型から作り直し

「これはグランドスポーツでも特徴的な部分です。オプションのアルミニウム製ではなく、真鍮にクロームメッキ仕上げを選んでいます。どちらも新車当時に用意されていたものです」

ディスクを押し出す型は、クデラのワークショップで作り、カリフォルニアへと送った。「ホイールカバーを作ったマイクは75際の誕生日を迎えたところ。リアイアを決めており、グランドスポーツのものが最後の仕事だったそうです」 とクデラがうち明かす。

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タルボ・ラーゴT26グランドスポーツ・クーペ(1949年

ペブルビーチ・コンクール・デレガンスでお披露目される前、最後の仕上げとして必要だったのが、ディオール製の黄色と青色のコート。1949年、フィゴーニのワークショップの外で撮影されたファッション写真に写っている。

当時の写真は1949年10月、パリ・サロンのプレビュー用に撮られたもので、モノクロ。だが手で色付けがされており、スタイリッシュなコートの色はしっかりわかった。ロバートの妻は、チェコのファッション界で活躍するイヴォナ・ライトナーへ連絡し、コートの再現を頼んだ。

最終のテスト走行が終わると、タルボ・ラーゴは再びカリフォルニアへと運ばれた。世界で最も有名なコンクールでお披露目するという、クデラの夢を実現するために。

完璧な状態に仕上げられたT26グランドスポーツは、プレイベントのツアー・デレガンスへも快く参加。60年近くに渡って一般の目に触れてこなかったフィゴーニ製のクーペは、会場へ着くなり大きな注目を集めた。

念願のペブルビーチ・コンクールへ出展

多くの参加者が、木曜日の走行前にクルマが並ぶ様子を見て、今年のベストを推測する。もちろん、ジッパーキングのタルボ・ラーゴは、誰もが話題にするクルマだった。

フィゴーニ製のコーチワーク・ボディの下には、スポーティなシャシーが隠れている。切れの良い排気音は、ル・マンを戦ったタルボ・ラーゴを彷彿とさせた。クデラにとっても、太平洋の景色を楽しめる沿岸のビッグサーと呼ばれる地域のドライブは、信じられないほど素晴らしい体験だったろう。

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タルボ・ラーゴT26グランドスポーツ・クーペ(1949年

3日後、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスでのペブルビーチ・フェアウェイ。レストアの質や仕上げの正確さが審査員へ強い印象を与え、タルボはクラス優勝を獲得した。

午後遅く、最終審査のコースには上位3台として、デビッドシドーリックのアルファ・ロメオ8C-2900Bツーリング・ベルリネッタと、レーマン・コレクションの1929年生デューセンバーグ Jマーフィー・タウン・リムジンが、タルボT26グランドスポーツとともに並んだ。

そして総合の審査発表。惜しくも、最優秀賞はアルファ・ロメオが獲得した。だが、チェコレストアを手掛けたクルマが権威あるコンクールで上位に選ばれたことに、クデラは誇りに感じている。

ペブルビーチでの発表以来、フィゴーニ・タルボ・ラーゴは2度ヨーロッパで展示されている。2019年6月にはシャンティイ・コンクール・デレガンスのために60年ぶりにフランス後を踏んだ。その後、9月には英国ブレナム宮殿を会場にした、サロン・プリヴェにも出展している。

コーチワークのボディを持つスポーツカー

タルボはとてもスポーティな走りをします。その性能の高さは、他の参加者を驚かせることもあります。オックスフォードシャーで開かれたサロン・プリヴェでは、フェラーリに追いつくことも問題ありませんでした」 と振り返るクデラ。

「4.5Lの直6エンジンはトルクも太く、計測台では4200rpmで202psくらいは出ています。ウイルソン製のプリセレクター・トランスミッションは変速も速く、油圧ブレーキも良く効きます。コーチワークのボディをまとった、スポーツカーです」

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タルボ・ラーゴT26グランドスポーツ・クーペ(1949年

シャンティイ・コンクール・デレガンスサロン・プリヴェでは、審査員の心をさらい、どちらも最高賞を獲得した。また、2020年のペニンシュラ・クラシックではベスト・オブ・ザ・ベスト賞の獲得も目指している。

ここでは、ベントレー8リッターとの戦いとなる。このベントレーは、賞を創設した尊敬を集める審査員2名がオーナーでもある。舞台は2020年2月のパリ。

この記事が出る頃に発表となる結果が、今から楽しみだ。パリ・サロンタルボ・ラーゴ・グランドスポーツが初めて展示されてから、70周年となる節目でもある。

クデラ一家にとっても、素晴らしい体験の連続であるに違いない。そして今は、2台目のタルボ・ラーゴ・グランドスポーツの復元に着手している。こちらは壮観なアンテム・クーペだという。

オリジナルは、グランプリ仕様タルボをアップデートしたもの。2020年8月にペブルビーチ・コンクール・デレガンスでお披露目される予定となっている。筆者としては、チェコからのクルマへ、今から1票を入れておきたい。


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