インターネット上で頻繁に起こる「炎上」騒動。ネットメディアはもちろん、テレビや新聞などマスメディアでも当たり前のように取り上げるようになった。

ところで、その定義は? 『広辞苑』(第七版)をひくと、「インターネット上で、記事などに対して非難や中傷が多数届くこと」。炎上に関する多くの文献でも、「批判が殺到している状況」を指すとしている。

ただ、炎上の客観的な判断方法はほとんど見つからず、解釈には曖昧さがつきまとう。そのため、メディアが安易に炎上と断じ、読者から反発を招くことがある。このJ-CASTニュースにも「炎上というのは不正確だ」「騒いでいるのは一部の人だけ」といった声が届くことも......。

反省を踏まえ、炎上のものさしを探し回ると、炎上の可視化を試みる人物が見つかった。「ウェブスクレイピング」「テキストマイニング」という手法を使い、炎上の"ファクトチェック"ができるというのだ――。

松屋は大炎上した?

ネットトラブルの研究を行う「デジタルクライシス総合研究所」(東京都中央区)の調査では、19年1月~10月の間に966件の炎上が発生した。一日に約3件起きた計算になる。

帝京大学文学部社会学科の吉野ヒロ子講師の論文「国内における『炎上』現象の展開と現状:意識調査結果を中心に」によれば、炎上を知る手段として最も多いのは「テレビバラエティ番組」の47.2%で、「ネットニュース」の29.3%、「テレビニュース番組」の26.7%と続く。

メディアは何をもって炎上と判断するのか。「炎上」と報じられれば、実態とそぐわなくても既成事実化する恐れがあるだけに、慎重さが求められる。

実例を見ていく。

牛丼チェーン「松屋」が19年11月28日、定番メニューオリジナルカレーを「創業ビーフカレー」に切り替えると発表した。同社の公式ツイッターは前日に「『オリジナルカレー』順次全店終売となります」などと投稿して話題を集めていた。

ネットメディアzakzak」は発表から2日後、「『松屋』カレーで大炎上! ツイッターでの『商品切り替え』告知が『廃止』連想させ...非難の声相次ぐ」との記事を公開した。切り替えが消費者の混乱を招き、ツイッターで批判が殺到したという。

一方、ブロガーの徳力基彦氏はヤフーニュース個人で、「実際に松屋の創業ビーフカレー定番化のツイートには、終売ツイートに対する批判の声も多数投稿されているものの、喜びの声も多数ありますし、そもそもコメント数は数百件であり、見た感じ『大炎上』というほどの状況にはなっていません」と"大炎上"を疑問視する。

その上で、「当然、zakzakの記事のタイトルだけ読んだ読者は、松屋が大炎上していたという印象だけを受けてしまうわけで、企業イメージが悪くなったという人も少なからずいるでしょう」と、ミスリードによる問題点に触れた。

「炎上タレント」はメディアが作った虚像?

ネットメディアリアルライブ」は19年10月、「辻希美、『乳歯がグラグラ』を報告して炎上 夫・杉浦太陽の歯みがきイベント出演も非難の対象に?」との記事を公開した。

タレント辻希美さんが、次男の歯が生え変わりつつあると報告したブログを引用し、いわゆる"アンチ"から「仕上げ歯みがきとかで普通気づくもんだけどね」「お菓子ばっか作ってるから虫歯だらけになりそう」などと指摘が寄せられ、炎上していると伝えた。

アンチの荒唐無稽ともいえる書き込みを拾って、炎上とみなすのは適当だろうか。

ネットメディアデイリーニュースオンライン」も20年1月17日、「辻希美子どもお弁当箱がまさかの"透明容器"で驚愕の声」との記事で、辻さんが弁当箱に使い捨てプラスチック容器を使ったために「手抜き」などとひんしゅくを買ったと報じた。

しかし、SNS上では辻さんへの擁護や記事への違和感が噴出。J-CASTニュースが記事で引用された書き込みを調べると、匿名掲示板ママスタジアム」のスレッド辻希美ブログアンチ」で見つかった。

炎上ネタはページビュー(PV)を稼ぎやすいのか。デイリーニュースオンラインで「辻希美」のタグが付いた記事を検索すると約1000本あり、多くは批判的な論調だった。

松屋と辻さんの例のように、炎上が疑わしいケースにはどう対処したらよいのか。

東京都内のIT企業でデータ分析に携わり、炎上の妥当性を判断する「ものさし」を個人で作った前原雄三さん(仮名)に話を伺った。

キズナアイ「炎上騒動」で脚光

前原さんは、18年に公開したブログ千田さんが『炎上している』と書いた時、キズナアイは『炎上』していたか?」で注目を集めた。

ヤフーニュース個人で配信された記事「ノーベル賞NHK解説に『キズナアイ』は適役なのか? ネットで炎上中【追記あり】」を受け、炎上の検証を試みている。

前述の記事によれば、NHKが18年10月ノーベル賞の特設サイトバーチャルユーチューバーVTuber)のキズナアイを起用し、ネット上で炎上した。

弁護士の女性がツイッターで「(キズナアイのように)性的に強調された描写、女性の体をアイキャッチに使うこと」に異を唱えているとし、筆者も「このNHKサイトで『キズナアイ』に割り振られた役割は、基本的に相槌である。それは、従来『女性』に与えられてきた役割である。ある意味で、性別役割分業を再生産していると言えるのだ」と別の問題点に言及した。

そこで前原さんは、ウェブ上の情報を抽出する「ウェブスクレイピング」と、大量の文章を分析して気づきを得る「テキストマイニング」という手法を使い、炎上の実態を探った。

まず、時系列に沿って「特設サイト公開後」「弁護士の問題提起後」「ヤフー記事配信後」の3段階に分け、それぞれの期間に「キズナアイ」を含むツイートを合計約9000件取得した。ツイッター社のAPIアプリケーションプログラミングインターフェース)を使って集めた。

次に、おおまかな言及内容を把握するため、フリーソフト「KH Coder」「mecab」などを使い、ツイートによく含まれていた「頻出語」と、単語間の関連性がわかる「共起ネットワーク」を図示した。

最後に、取得したツイートから約3000件を無作為抽出し、目視で「批判」「同調」「擁護・反発」「話題無関係」「判別不能」など7項目に分類した。

すると、(1)特設サイトの公開後、前述の弁護士ツイートするまでキズナアイ起用への批判はなかった(2)弁護士の投稿からヤフー記事の配信まで、批判は11件、弁護士への同調は10件、NHKへの擁護、弁護士への反発は320件――だったことがわかり、擁護・反発ツイートによって炎上に見えてしまったと結論づけた。

炎上は「低コスト」で起こせてしまう

「記事でキズナアイが炎上していると書かれていましたが、ネットの反応を見るに、炎上しているようには見えませんでした。ツイッタータイムラインは個人の好みにカスタマイズされています。そのため、それに沿ったツイートだけが流れて全体像を見通せないので、ある人が炎上だと言い切ればその実態がなくても炎上だと言えてしまいます」

前原さんは2020年1月中旬、J-CASTニュースの取材に、ブログの執筆理由をこう明かす。

前原さんは以前から、炎上のレッテルを貼られた企業や個人は、中身はどうであれ何かしらの対応を迫られてしまう、との問題意識を持っていた。

SNSで炎上と言われると、批判的な意見が殺到したと考えがちですが、キズナアイの事例は、批判よりも擁護や批判に対する反発が多かったです。SNSでの炎上は不透明なため、批判だろうが擁護だろうが、『炎上した』として、炎上の対象になった団体や個人は、不透明なまま謝罪や公開中止などの態度決定をしてしまいがちです」
「燃やした人勝ちになってしまいますし、低コストでそれができてしまいます。結局、コストをかけて作る制作者と非対称なものがあり、言論や表現の自由を狭めてしまうことにもつながるはずです」(前原さん)

そこで、不透明な状況を計測可能にすることを考えた。「批判者、中立者、容認者はそれぞれどれくらいいるのかを指し示すだけでも、炎上の当事者には落ち着いて対処してもらえるのでは」との思いからだ。

松屋騒動、批判は3%のみ

同じ手法で、「松屋」の騒動も分析してもらうと、次の画像の通りとなった。終売発表~数日後に発信された「松屋 カレー」を含む2万5000ツイートから、1700件を無作為抽出して分類してもらった。

前原さんによれば、批判がサンプル数の半数を超えたら「炎上」とみなして良いのではと提言するが、松屋に対する批判は3%ほどしかなく、中立的な意見が圧倒的に多かった。なお、批判的な内容のツイート・記事に同調する書き込みも「批判」に含めている。

頻出語や共起ネットワークを見ても、「許せない」「炎上商法」などの批判的な単語はほとんど浮上しなかった。

今後はAI導入も視野

ただし、この分析手法には課題もある。

例えば、明示的に言及していない投稿を拾えなかったり、分類にバイアス(偏見)が混ざりやすかったりだ。

前原さんは今後、ネット上で協力者を募るなどして複数の目を入れたり、AI(機械学習)による自動判別を検討したりしていくとする。AIの欠点としては「当てこすり」など分類が難しい文章もあるそうだ。

※前原さんはソースコード共有サイトGitHub」で、分析手法を公開中。 https://github.com/shioshio38/flaming_analysis ツイッター(@shioshio38)でも、データ分析に関する情報を発信している。

ネット上の投稿分析は、メディアでの活用も進んでいる。

産経新聞の記事「視聴率好発進の大河『麒麟がくる』 高評価7割 『大塚』さん登場に歓喜 AIでSNS解析」では、NHK大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」の初回放送を分析した。

ツイッターに発信された「麒麟がくる」を含むツイート約2万件を基に、米グーグルのAIを使って「高評価」「中立」「低評価」の3つに分類すると、高評価は7割に上った。

ネットメディアねとらぼ」でも外部のマーケティングツールを使い、

「『吉田兼好も嫌がってた』『酔っ払いと絡みたくない』 若者中心に『忘年会スルー』賛成」
「嵐・二宮さん結婚、ネット上では7割がポジティブな声 キーワードは『幸せ』『タイミング』」

などSNS上のデータを駆使し、視覚的に伝える記事が増えている。

J-CASTニュース編集部 谷本陵)

ネットメディア「zakzak」より