【インタビュー|第2回】神戸のスピードスターも昔は「足が遅かった」

 Jリーグの2020年シーズンが幕を開けた。今季の注目選手の1人であるヴィッセル神戸の日本代表FW古橋亨梧は、新シーズンも絶好のスタートを切っている。横浜F・マリノスとの富士ゼロックススーパーカップ(8日/3-3・PK3-2)と、初出場のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2試合でゴールを挙げて、公式戦3戦連発中。昨季J1の舞台で“覚醒”した25歳のスピードスターは、新シーズンを迎えるにあたって過去から未来までの心境を明かした。第2回は「覚醒に至るまでの道のり」について――。

 今季J1の顔としての活躍が期待される古橋は、公式戦3試合連続ゴールでチームを3連勝に導く最高のスタートを切った。前年度のリーグ王者と天皇杯覇者が激突するシーズン最初の試合「富士ゼロックススーパーカップ」。1-1で迎えた前半40分、敵陣深くで相手のパスをカットした古橋は、GKが飛び出している状況を見逃さず、素早くシュート。コロコロと転がったボールはゆっくりとゴールに吸い込まれて、一時勝ち越しとなるゴールをマークした。ACLでも、クラブにとっても古橋にとってもアジア初挑戦となったホームのジョホール・ダルル・タクジム戦(12日/5-1)と、敵地の水原三星戦(19日/1-0)でゴールを決めている。

 奈良県生駒市で生まれた古橋は、幼い頃「足が遅かった」という。だが、「同じアパートに住んでいた男の子がいつも自分のことを追いかけてたらしくて……。それで、気付いたら僕のほうが速くなって僕が追いかけていた(笑)」と、いつの間にか“足”が武器になった。スピードを武器に大阪の強豪・興国高校に進学。サッカー部へ入学し、当時はドリブラーとして1年時からレギュラーに定着した。

「高校の3年間ではいろいろ厳しいことも言われましたし、でも1年から試合に使ってもらえました。ドリブルで上手くいかない時もすごく怒られましたし、シュートやパスをずらしたら怒られて……いろいろ怒られました」

 興国高校で隣のクラスには、リバプールの日本代表MF南野拓実がいた。「あまり関わりがない」というが、「世代別代表にも入ってましたし、高校の監督があいつは凄いってずっと言っていた」。セレッソ大阪のユースに入り、注目を浴びていた南野や、プロへの道を歩んだサッカー部の仲間らが刺激となり、高校時代に“サッカー選手”となることを意識し始める。

南野やサッカー部の仲間の後を追い、中央大学へ進学

「プロを意識し出したのは、高校2年とか3年ぐらいで。高3の時に僕らの代から初めて2人プロに行って、僕は行けなかったのでずっと追い付いてやるという気持ちもありました」

 卒業後は中央大学へ進学。「毎年プロの選手も出ていましたし、頑張っていれば絶対プロになれるという確信はありました」と、1年時から主力として活躍した。全日本大学選抜の合宿に招集されたり、関東選抜のメンバーにも選出されるなど、順調に経験を積んだ。寮に帰れば、部屋の掃除や洗濯……。これまで実家暮らしだった古橋にとって、「親の大切さも改めて実感した」とかけがえのない時間になったという。だが、古橋が3年時にチームが2部へ降格。4年時でも昇格を逃してしまった。負傷にも苦しみ、気付けば周囲は続々とプロへの内定を勝ち取っていた。

 4年になった12月。古橋はまだ進路先が決まっていなかった。2週目になっても未来が見えない。焦りだけがどんどん募っていく。ストレスのせいで吐き気は止まらず、何度もトイレへ駆け込んだ。気付けば、電話へと手を伸ばし、地元の母へとかけていた。

「やめようかな」

 追い詰められた古橋は母にそうつぶやいた。返ってきた言葉は「好きにすればいい」。母の一言に、古橋は突き動かされた。

古橋の背中を押した母の言葉

「結構心に刺さりましたね。何やってんねんやろ、って思った。ここまでお金とか出してくれて、大学も行かせてもらって好きにサッカーをやらしてもらっていたので。逆に気持ちを強く持たせてくれた」

 そしてJ2のFC岐阜から声がかかった。決してエリート街道と言えるものではなかったが、挫折を繰り返すなかでつかみ取ったプロへの挑戦権。「正直やっと決まったという気持ちと、ここでスタートさせてもらえるから、覚悟を持って上までいかないとな、という気持ちだった」。大木武監督(現・ロアッソ熊本監督)の下、大卒1年目から主力に定着し、42試合6得点。翌18年には26試合11得点の結果を残し、夏に神戸からオファーが届いた。J1の舞台でも活躍を遂げて、昨年11月には日本代表へ初招集された。

 神戸の絶対的な存在、エース格へと成長した古橋。今、輝き続ける姿の裏には、忘れられない偉大な母の言葉があった。(Football ZONE web編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

ヴィッセル神戸でプレーする日本代表FW古橋亨梧【写真:Football ZONE web】