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 脳の疾患の場合、意識がある状態で脳機能のチェックしながら手術が行われる場合がある。かつてブラジルでは、脳の外科手術を受けながら患者がギターを弾くという手術法が行われて話題となったが、今回の舞台はイギリスだ。

 キングス・カレッジ病院が、バイオリニストの患者の脳腫瘍摘出手術中にバイオリンを生演奏させた。これにより、演奏能力をつかさどる脳の機能を損傷することなく、ほとんどの腫瘍を摘出することに成功したという。

 イギリスでは初となったこの手術法。女性は、生きがいであるバイオリンを再び演奏できることに喜びを露わにしている。

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Woman plays violin while undergoing brain surgery

プロのバイオリニスト、腫瘍摘出手術を受ける

 イングランド南部ワイト交響楽団(The Isle of Wight Symphony Orchestra)に所属するトップレベルのプロバイオリニストで、13歳の息子の母ダグマー・ターナーさん(53歳)は、2013年にコンサート中に発作を起こした後、大きいがゆっくりと進行するタイプの脳腫瘍があることを宣告された。

 ターナーさんは放射線治療を続けてきたが、検査の結果、腫瘍がまだ成長し続けていることがわかり、2019年11月に医師と相談して摘出手術をすることを決意した。

 しかし、ターナーさんにとって一番心配だったのは、手術のせいで10歳の頃から始めて以来、生き甲斐になっているバイオリンを演奏する能力を奪われてしまうことだった。

 ロンドン南部キングス・カレッジ病院のキヨマーズ・アシュカン神経外科医長は、自らもピアニストであることから、ターナーさんの気持ちを汲み取り、画期的な提案をした。

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バイオリンの生演奏と同時に脳領域のマッピングで脳機能を確保


 ターナーさんの腫瘍がある領域は右前頭葉で、それはバイオリンを演奏する左手の動きをつかさどる部位に近かった。

 そこで、医師ら手術チームは演奏能力を発揮する脳機能の損傷を回避するために、ターナーさんに手術中バイオリンを生演奏してもらい、活性化している脳領域をマッピングすることを提案した。

 実際の手術では、腫瘍領域のマッピングを行った後腫瘍を摘出し、ターナーさんを麻酔状態から起こしてバイオリンを生演奏してもらった。医師らはその様子をモニタリングし、実際に演奏に必要な領域が損傷していないことを確認した。

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90%以上の腫瘍摘出に成功


 1月31日に2時間にわたり行われたイギリス初のこの手術は、見事成功。ターナーさんは、その3日後に無事退院した。

 アシュカン外科医長は、「患者の左手の全機能を保ったまま、腫瘍の影響を受けた領域を含む90%以上の腫瘍を切除できた」と話している。

 現在、自宅で療養中のターナーさんは、このように語っている。

バイオリンは、私の情熱そのものです。もし、手術のせいで演奏できなくなれば心が折れるし、生き甲斐を奪われるようなものです。ですが手術成功となり、私の気持ちを理解してくれた医師らには心から感謝しています。

 手術から3週間弱経ち、ターナーさんは再びバイオリンの演奏をすることができるまで体調が回復したそうだ。今は、1日も早く楽団に復帰できることを望んでいるという。

References:Mirrorなど / written by Scarlet / edited by parumo

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