先日、「教えて!gooウォッチ」「高齢ドライバーの踏み間違い事故。原因はAT車に慣れていないから?」という記事をリリースした。マニュアル車とAT車では運転の操作方法に違いがあり、これがアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いを起こす要因となり得ることを紹介した。高齢ドライバーが事故を引き起こす要因はそれだけではなく、加齢による体の変化も関連があるとのこと。一体、どういうことなのだろうか。

■「右足がアクセルペダルの上にあるのが楽な姿勢」とは?

お話を伺ったのは、前回に引き続き、自動車運転アドバイザーの細川一夫さん。

「下肢(脚)の筋肉が減少したり、筋力が低下したりすると、人は男女関係なく『ガニ股』になる方が多いようです。ガニ股になると、車のシートに座ったときにつま先が外側に向くことになり、右足はアクセルペダルの上にあることが楽なポジションになってしまいます。ただでさえ加齢により筋力は低下しているのに、このような運転姿勢でいることで、アクセルペダルからブレーキペダルへの踏み替えに余分な時間や力がかかることは容易に想像出来ると思います」(細川さん)

通常、車を停止しようとするときは、徐行するために右足をブレーキペダルの上に置きながら操作する。しかし、高齢者は停車する直前まで右足がアクセルペダルの上にあり、停まる時になってからやっとブレーキペダルに踏み替えて止まる人が多いことは、前回までのコラムで紹介した通り。

「高齢者の方だけでなく、若い方でも筋力の弱い方やガニ股の方は、意識して正しいペダル操作を行う必要があると思います。対処方法としては筋力アップや足腰を鍛えるために何か運動をすることは大切だと感じています」(細川さん)

正しいペダル操作を意識していないと、パニックになったときにアクセルペダルを踏みこんでしまいやすいのだ。ガニ股が誤ったペダル操作の要因となり得ることはわかったが、加齢によりガニ股になるメカニズムについてもう少し探ってみた。

■整形外科医が解説!ガニ股を引き起こすメカニズム

「『ガニ股』というのは、接骨院などで使われている俗語です。医療用語では、股関節外旋位(こかんせつがいせんい)といいます」

と教えてくれたのは、兵庫県明石市にある中山クリニックの整形外科医、中山潤一先生。私たちの体は、脊椎(背骨)、脊柱起立筋(骨盤から頭蓋骨へとつながる筋肉)、椎間板(背骨と背骨の間でクッションの役割をするもの)によって支えられている。加齢により筋力や骨密度が低下すると、これらの部位に影響が出て、体を地面と垂直に保つことが難しくなる。

「加齢とともに脊柱起立筋の低下や椎間板の変性、脊椎圧迫骨折(骨粗しょう症が原因の骨折)が生じると、背骨は前方に曲がり、腰や背中が丸くなります。すると体はバランスを取ろうとして、骨盤が後ろに傾きます。この状態で歩こうとすると不安定になるので、安定させるために下肢が外側を向き、いわゆるガニ股の姿勢になります。これを股関節外旋位での歩行といいます」(中山先生)

中山先生も、「足が外側を向くため、自動車の運転でアクセルブレーキペダルを踏むときにまっすぐに踏みこんだつもりでも右足は斜めになり、ペダルの踏み間違えが生じると考えられます」と認めている。では、股関節外旋位を予防するためにはどうしたらよいのだろうか。

「意識してもらいたいのは、両足の母趾(親指)裏で体重を支えるようにすることです。母趾で体重を支えるようにすると膝のO脚予防になり、足がまっすぐ前を向くようになるでしょう。そして、骨盤が後ろに傾かないよう体幹の筋力訓練も重要になります」(中山先生)

体幹トレーニングは、美しい体をつくるために若い世代もぜひ取り入れたい訓練。両ひじを床につけてうつ伏せになり、腰を浮かせて体が一直線になるように数十秒キープする「ロープランク」は、道具もいらないので、テレビを観ながら行うとよいだろう。つらいなら膝をついてもOKだ。

日々のトレーニングが、事故防止だけでなく健康維持にも一役買ってくれそうだ。

●専門家プロフィール:細川 一夫
自動車運転アドバイザー。ペーパードライバーや、初めての免許取得などで困っている人を対象に、各種教材を作成し個別サポートを行う。保有資格は公安委員会認定、教習指導員資格(国)。

●専門家プロフィール:中山潤一
中山クリニック院長。大阪医科大学を卒業後、神戸大学整形外科入局。その後県内の病院や医療センターで救急外傷、スポーツ関節鏡、人工関節・リハビリ対応など研鑽を積む。

(酒井理恵)

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)

医師も警鐘鳴らす!ブレーキ踏み間違い事故の原因は「ガニ股」?