日本弁護士連合会(日弁連)は2月17日東京都内で報道機関向けのセミナーを開催し、日本の刑事司法における取り調べや保釈などの問題点について説明した。

趙誠峰弁護士は「ゴーンさんの事件も特殊事例ではなく、事実を争う人に対する長時間の取り調べは日々おこなわれています。刑事手続を考えるうえでもっとも重要なことは、『無辜(むこ)を処罰しないこと』。えん罪につながってしまうということを常に考えなければなりません」と語った。

●「長時間・多数回・長期間」おこなわれる取り調べ

法務省1月21日、ホームページ上にわが国の刑事司法に関する「Q&A」を公開した。中には、捜査機関による被疑者への長時間の取り調べや自白の強要はどのように防止されるのかという質問(Q6)もある。

回答(A6)では、被疑者には黙秘権があること、立会人なしに弁護人と接見して助言を受ける権利が認められていること、一定の事件については被疑者の取り調べの録音・録画の実施が義務化されていることなどを挙げている。

そして、「日本において自白が不当に重視されているという指摘は当たらず」、捜査機関による取り調べが適切にされる仕組みが設けられているとしている。

しかし、宮村啓太弁護士は「日本の取り調べの特徴は『長時間・多数回・長期間』 おこなわれていることです。黙秘権を侵害するような取り調べは現に今もおこなわれています。録音・録画がなされることによって、わが国の取り調べは適正化しているのではないかという指摘もありますが、そうとは言えません」。

取調官の中には、黙秘権を行使している被疑者に対し、「弁護人のアドバイスかもしれないが、弁護人はあなたの責任をとってくれるわけではない。あなた自身はどう考えているのか」、「黙秘して裁判でどうなっても知らないぞ」、「被害者のことを考えたことがあるのか」などと発言することもあるようだ。

実際に取り調べを録音・録画されたDVDをみて、宮村弁護士は「(取り調べは)中立的に事情聴取する場ではなく、供述を強要し、否認していれば自白を強要する機会」だと感じたという。

宮村弁護士は、「被疑者には取り調べを受忍する義務がない」ことの明確化、録音・録画制度の対象の拡大、弁護人を立ち会わせる権利の規定、取り調べ時間の規制、知的障害のある被疑者等について特別な配慮をなす規定の設置をおこない、改善がなされるべきだとした。

●争っている事件ほど「保釈が難しい」

虫本良和弁護士は保釈における問題点として、「争っている事件(否認事件)ほど、保釈が認められない」ことを挙げた。繰り返し保釈を請求しても最後まで認められなかった事例や、7回おこなってようやく認められた事例なども少なくないようだ。

また、「殺人未遂」の疑いで逮捕・勾留され、「傷害」罪で起訴した事案において、「捜査段階で殺意を否認していたから」という理由で「罪証隠滅のおそれがある」とし、保釈が認められなかった事例もあるという。

趙弁護士は「保釈については、いくつかの問題が混在して議論されているように見受けられます。『保釈を認める(あるいは、認めない)べきか』と、『保釈中の人が逃亡することをどう防ぐか』は切り分けて議論すべき」と指摘。「まずは無罪を主張する人が、裁判で十分に防御できるのかを考えることが重要」とした。

保釈中の逃亡事例としては、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告人がレバノンに逃亡したことが記憶に新しい。これを受け、森雅子法相は、逃走防止を目的とする法改正について、法制審議会で2月に諮問する方向性を示している(朝日新聞1月21日などの報道による)。

保釈中の被告人の所在を把握するための方法として、全地球測位システム(GPS)の装着などが議論される見通しとされているが、日弁連では、GPSの装着については「現段階では検討できていない」という。

取り調べは「供述と自白」を強要し、否認事件ほど「保釈が難しい」…刑事弁護人が明かす実態