エンジニアの方の”あるかもしれない”日常風景をデフォルメしてコメディタッチに描く本連載「エンジニアあるある」。さて、今回はどんな風景なのでしょうか...
人にはその人の一生を決定づけてしまう原風景というものがあります。この原風景には、臭いが密接に関連していることが多いようです。生まれた家の畳の生活感のある臭い。ガレージに満ちていた自動車のガソリンくさい臭い。新築の家の揮発性の臭い。初めて夢中になった本の紙とインクの臭い。それぞれの人に、それぞれの原風景の臭いがあります。
年代にもよりますが、エンジニアの場合、オゾンの臭いが原風景の臭いだという人がけっこういます。ちょっと金属臭っぽく、消毒液のような独特の臭いです。そもそも「オゾン」という言葉が、ギリシャ語で「臭い」を意味するのだそうです。
オゾンは、ブラウン管テレビやコピー機など高圧を使う機器で発生します。また、モーターも整流子というブラシが回転体に接しているため、火花が発生し、オゾンを発生させます。
エンジニアになるような人は、子どもの頃は、なんでも分解してみて、どのような仕組みであるかを調べずにはいられないサガを持っています。しかし、オゾン臭のする機器はやばいということも幼い頃から理解しています。オゾン臭がする機器は、高圧電源を扱う機器なので、不用意に触れるのは危険であるということは誰に教えられるもなくわかっているのです。
ブラウン管テレビを修理してもらうときは、プロのサービスマンが担当しますが、それを後ろで見ていると、オゾン臭がしてきます。エンジニアにとって、オゾン臭は、プロだけが体験できる憧れの臭いなのです。
最近のコピー機は性能がよくなり、省電力になったため、オゾン臭などしません。テレビも液晶や有機ELになり、オゾン臭がするなどということもありません。高圧電源やモーターというものが次第に消えていき、それに伴ってオゾン臭を感じることも少なくなっているのです。
このようなエンジニアにとって、リサイクルショップなどで、ふとオゾン臭をかぐと、子どもの頃からの思い出が走馬灯のように蘇って、目に涙が溜まってくることがあります。
リサイクルショップや粗大ゴミ集積場で、涙ぐんで佇む人を見かけても、早計に通報したりしないでください。もしかすると、ブラウン管テレビ時代を知っているエンジニアかもしれないからです。
(イラスト:ConChan)
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