演出家・三浦基が代表を務める京都の劇団・地点が、ドストエフスキー作『罪と罰』を2月29日(土)・3月1日(日)に神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール、3月20日(金・祝)から22日(日)まで京都芸術劇場 春秋座で上演する。同作は、三浦がロシアの国立ボリショイ・ドラマ劇場からの依頼で、現地の所属俳優とともに制作、今年6月に同劇場での上演を予定しているが、ロシアでのクリエイションを前に、まずは自身のインスピレーションの源泉となる地点でその世界観を作り上げ、日本で披露する。

物語の舞台は、ロシア帝国の首都サンクトペテルブルク。猛暑の7月、青年ラスコーリニコフは、質屋の老婆とその妹を斧で殺す。娼婦のソーニャ、妹ドゥーニャ、苦学生ラズミーヒン、快楽主義者のスヴィドリガイロフら、彼を取り巻く人間たち。その関係の中で、法を超越する特権的個人や、人を殺す権利をめぐる彼の思想も徐々に明らかにされていく……。

ロシアでもっとも読まれてきた小説のひとつ『罪と罰』を、その舞台となっているサンクトペテルブルクの劇場で日本人演出家が手がけるという、かなり大胆で意欲が感じられる今企画には、三浦独自の“読み”の可能性に期待が持たれているという。三浦の作品づくりは、既存のテキストを再構成・コラージュするという独自の手法で、発語法も言葉の抑揚やリズムずらし、言葉そのものを剥き出しにすることから音楽的とも評されている。そんな彼の演出スタイル“自由な読み”によって、原作の大きなテーマのひとつとなっている信仰問題などが大胆に普遍化されることも期待される。また、この作品は「棺桶のような狭く暗い小部屋に閉じこもっていた主人公が殺人を契機に外へ出かけ、人々と出会う物語」とも言われるが、人から人へ向かう“ベクトル=矢印”を視覚化し、歩くという日常的動作により空間を形づくっていくという。

2007年から取り組んできた「チェーホフ四大戯曲連続上演シリーズ」をはじめ、ロシアの作家の作品を継続的に上演してきた三浦にとって、本作はこれまでの創作活動の集大成といっていい。まずは日本で、どんな可能性を拓くのか。4月にはロームシアター京都の新館長就任も控える三浦。大きな節目となる2020年の第一歩が幕を開ける。

文:伊藤由紀子

地点『罪と罰』