褐色矮星とは、木星などの巨大ガス惑星より質量が大きく、太陽質量よりはずっと小さい、核融合を十分に起こせない恒星のことです。
光り輝くことができず低温の褐色矮星は、可視光もX線も放たないため、発見することが難しい天体ですが、この星からは何故か過去に何度もフレアが観測されています。
フレアは恒星の表面で起きる爆発現象で、そこからは様々な波長の増光が確認されます。
今回の発見は非常に極端な「スーパーフレア」に分類される爆発で、太陽で観測されたもっとも巨大なフレアの10倍近いエネルギーを放出していたといいます。
軽い褐色矮星からそれだけ巨大なスーパーフレアがX線波長で発見されたのは、これが初めてです。
この事実に、多くの天文学者たちが困惑しているようです。
この観測に関する論文は、イタリア国立天体物理学研究所の天体物理学者Andrea De Luca氏が率いる大規模な研究プロジェクトチームより発表され、2月12日付で天文学に関する科学雑誌『Astronomy&Astrophysics』に掲載されています。
星でフレアが起きる理由
現在有力な説では、フレアは星の大気内で磁場が不安定になり、磁力線の繋ぎかえが起きた際、蓄積された磁気エネルギーの大部分が解放されることで起きると考えられています。
褐色矮星は恒星に分類されていますが、質量が足りないために中心核で安定して水素を核融合させることができません。そのため、高エネルギーの生成はできないと考えられていました。
しかし2000年にNASAの「チャンドラ」X線宇宙望遠鏡が、褐色矮星からフレアの輝きを初めて観測しました。
褐色矮星に見られるフレアは、軽い星でも強い磁気圏が存在する証拠と考えられるのです。
隠れていたX線放射記録
今回の発見は、欧州宇宙機関 (ESA) のX線観測衛星「XMM-Newton」が2008年7月に観測されたデータの中にありました。
実は10年以上前に観測されていたのに、誰もそのデータの存在に気づいていなかったのです。
今回の研究プロジェクトチームは、宇宙で起こる特異な現象を発見するために、「XMM-Newton」が過去13年間に渡り記録した観測データから、極端な変動の記録を調査していました。
その中で見つかったのが、褐色矮星「J0331-27」に起こったスーパーフレアのX線波長での検出記録でした。
記録がX線波長だったという点が重要な理由は、波長によって現象の発生場所が特定できるためです。
多くのスーパーフレアはすべての波長が検出されていて、特に可視波長はフレアが大気圏の深部で発生していることを意味しています。
しかし、フレアのX線放射は、それが星の大気圏上層で起きたことを意味しています。
これは、現在のところ唯一の発見例となるL型褐色矮星のスーパーフレアと、よく知られている質量の高い星ですべての波長から検出されるフレアに、どのような相違点があるかを理解するために重要なのだと言います。
小さな星でスーパーフレアが起きる謎
今回観測された天体は「J0331-27」と名付けられているL型矮星で、質量は太陽の8%程度しかありません。
L型とは、褐色矮星の温度による分類を示しています。
褐色矮星は恒星としては温度が非常に低く、2000〜200K(ケルビン)しかありません。これは高い方から順にL型、T型、Y型とスペクトルで分類されています。
L型は比較的温度の高い褐色矮星という分類になりますが、「J0331-27」でも表面温度は2100K(太陽の3分の1程度の温度)しかありません。
星の磁場がエネルギーを蓄積する原因は、高温環境で生成される荷電粒子(イオン)が原因と考えられています。
そのため、褐色矮星のように低い温度では、十分な荷電粒子を生成して磁場にエネルギーを供給することはできないと考えられていました。
今回検出されたスーパーフレアは太陽でも起こすことのできないレベルの高エネルギー放出で、それを褐色矮星が起こした原因は、未だにはっきりと分かっていません。
しかし、通常の恒星が頻繁にフレアを起こすのに対して、「J0331-27」では観測記録の40日間で確認されたフレアは1回だけでした。
これは褐色矮星のような星が、エネルギーを蓄積するのに非常に長い時間を要することを示しています。
質量の大きな星が、少ないエネルギー放出を頻繁に繰り返すのに対して、L型矮星は非常にまれに、大量に蓄積したエネルギーを放出する可能性があります。
ただ、これが事実であるかどうかを検証するにはさらなる調査が必要になりそうです。
研究チームは、現在も調査継続中のXMM-Newtonのアーカイブから、類似した現象の記録をより多く発見し、この不思議な褐色矮星のスーパーフレアを研究していく予定だと話しています。
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