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image credit:sheltersuit/Instagram

 天候に関わらず、路上生活はホームレスの人たちにとってとても厳しいものだが、特に寒い冬や激しい雨の日に薄着のまま過ごさなければならいとなると、より辛さは増すことだろう。

 彼らの中には、支援団体が提供する一時的宿泊施設(シェルター)を利用する人もいるが、欧米では年々増加するホームレスの数に宿泊所の空きが追い付いていないという事実がある。

 そこで、厳しい路上生活を過ごさなければならないホームレスたちに少しでも暖かくなってもらおうと、6年前に開発されたのが「シェルタースーツ」だ。

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Sheltersuit what we do 2019

友人の父親が凍死したことがきっかけ

 オランダ人バス・ティマーさん(29歳)は、16歳の頃からファッションに興味を持ち、自分で服をデザインし始めた。

 その熱意は開花し、ファッションスクールを卒業したティマーさんは、24歳の時に若手デザイナーとして歩み始めた。

 しかし、その頃ホームレスだった友人の父親が、シェルターホームレス支援宿泊施設)の空きを待っている間に路上で凍死するという痛ましい出来事が起こった。

 彼が亡くなった場所は、ティマーさんのスタジオからほんの500メートルほどの距離だった。

 それを知ったティマーさんは、ホームレスの人たちが路上で寒く辛い思いをしない解決策を見つけなければと思い立ち、2014年に自身のブランドとは別に『Sheltersuit Foundation』を立ち上げ、シェルタースーツと呼ばれる防寒着兼寝袋を開発した。


暖かいジャケットが寝袋に早変わりするシェルタースーツ


 ファッション業界では30%の衣類が常に売れ残り、結果的には埋め立て地へ廃棄されてしまう。また、キャンプ用品などを製造する会社でも、ミスによって使用不可能となったテントや寝袋なども再利用されずに廃棄されることも少なくないそうだ。

 そこでティマーさんは、これらの企業から生地や部品を寄付してもらい、アップサイクルしてシェルタースーツを作り出した。

 ファスナー付きの温かい防水ジャケットは、夜間にはセットとなっている部分をジャケットの底部のファスナーに取り付ければ寝袋に変身する。


 大きなフードは、路上で眠る際に街灯の光を避けるのに役立ち、口元にはスカーフ、袖部分には手袋が縫い付けられてある。

 ポケット部分も大きいので持ち物を保管しやすく、折りたたむとバックパックに収まり、日中は持ち運びが簡単だ。


 最初、このシェルタースーツをオランダホームレスの1人に提供してみたところ、かなり好評で、知り合いのホームレスと共有している話を聞き、「それなら100着作ってみよう」とティマーさんに意欲が湧いた。


大好評のシェルタースーツは世界中のホームレスへ


 当初、自身の駆け出しのブランドに戻ることを予定していたティマーさんだったが、シェルタースーツの評判はたちまち拡散し、需要は増え続けた。

 オランダを始め、他のヨーロッパ地域にも出向いて路上にいるホームレスの人たちにシェルタースーツを提供した。


 サラエボ難民やギリシャのレスボス島のキャンプにいる難民らにもシェルタースーツを配った。


 2019年には、既に1万着を超えるシェルタースーツが、世界中のホームレスの人たちの手に渡った。


 シェルタースーツは、ボランティアチームとオランダに移住してきた労働権利を得ているシリア難民たちの協力のもと、オランダにあるティマーさんのスタジオで作られている。


 子供から大人まで幅広く支援できるようにと、サイズもXXXSからXXXLまで取り揃えているという。

「世界中のホームレスの人たちに暖かくなってほしい」

 ティマーさんは、2019年3月にアメリカのテキサス州オースティンで毎年開催されているSXSWフェスに参加し、改めてオースティンにいるホームレスの多さを目の当たりにした。

 そして7日間ほどの滞在中だったにも関わらず、オースティンのホームレスたちを支援しようと、地元の支援団体に掛け合い、土地の気候を配慮した通気性のいい防水性の軽量な寝袋をデザインした。

 また今年3月には、ニューヨーク・ファッションウィーク中にニューヨークを訪れ、活動の場を広げることに成功。


 今年も世界中に1万着のシェルタースーツを提供したいと計画しているティマーさんは、その意欲を次のように語っている。

シェルタースーツを配っているうちに、ホームレスの人たちとの信頼関係も生まれてきます。

様々な事情でホームレスになった人たちがいますが、彼らを知ることで住む場所や仕事といった次の支援へとまた繋げることも可能になります。

今後も、より多くのシェルタースーツを生産するためにも、たくさんの企業の生地や部品の寄付を得て、世界中のホームレスの人たちに暖かくなってもらいたい。それが私の最終目標です。


References:Fast Companyなど / written by Scarlet / edited by parumo 全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52288214.html
 

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