2月19日に放送された『知らなくていいコト』日本テレビ系)の第7話。激動の神回の主役は野中春樹(重岡大毅)である。誰の立ち位置に立って考察するか? それはもう、彼しかいない。

ケイトの秘密をリークして「君は悪くない」と同意してほしい
「週刊イースト史上“最悪の一日”」なるサブタイトルが付いた今回は、急展開の連続だった。6話でイーストに夫の不倫ネタを持ち込んだ桜庭かずみ(三倉茉奈)が編集部に紛れ込み、夫が戻らない逆恨みで真壁ケイト吉高由里子)の腹をナイフで刺したのだ。

このときの編集部員たちの行動にはゾッとした。助けるより先に、先輩が刺される場面を携帯で撮り続ける小泉愛花(関水渚)。その動画を観て「よくやった!」「いい動画だ〜」と称賛する上司たち。
かつて、尾高由一郎(柄本佑)はカメラマンという職を「目の前に死にそうな人がいても、助けるよりもシャッターを切ることのほうが大事でないとできない仕事」と説明した。それは週刊誌記者も同じ。同僚が殺されそうになっていたら、撮影に専念することこそが正義。ケイトと尾高が病院に搬送されたばかりなのに、編集長・岩谷進(佐々木蔵之介)を先導役に士気を上げるイースト編集部。襲撃された事実を記事化することに邁進した。

活気づく編集部員の中、野中だけが冷めた目をしている。特集班だけでなく連載班の小泉もデスクの東山秀則(本多力)も興奮気味に仕事しているのに、彼1人だけが蚊帳の外だ。他の編集部員のため飲み物を買ってくるくらいしか彼はできない。「買い出し行ってきます」と言っても、こちらを振り向く者は誰もいない。

作家・丸山シゲオ(西村まさ彦)との食事会で会話が詰まった際、野中はこんな話をして場をしらけさせていた。
「スーパーで一度手に取った商品をやっぱりいらなくて他の商品棚に置いて行く人いるじゃないですか。あれを注意しようと思いまして、『これ、やるぞやるぞ』って見てたんですよ。やらなかったんですよね。すっごい見てたんですけど。何ていうか……雰囲気だけでした」
偏執的でねじ曲がった正義感の持ち主ということがわかるエピソードである。

以前、野中は屋上に呼び出した尾高に対し必死にアピールしていた。
「普通の人間なんですよ、僕!」
自分が“普通”であることを信じて疑わない野中にとって、週刊イースト編集部は異常に見える。でも、この中にいると自分1人が普通じゃないように思えてしまう。まともな神経じゃない(まともな神経ではやっていられない)編集部員たちに嫌悪感を抱いているのに、そんな自分を“普通”と認めてくれる者は周りにいない。

いや、いた。野中は受け取った名刺を取り出し、「深層スクープ」に連絡をした。
「真壁ケイトの父親は、30年前夏休みのキャンプ場で起きた無差別殺人事件の犯人、乃十阿徹です」
「乃十阿徹と真壁杏南が知り合った頃、乃十阿には妻子があり、2人は不倫関係でした」
「週刊イーストはいつも真っ当なことを書きますが、実は殺人犯の子どもがそういう記事を書いているんですよ。違和感ないですか? 不倫の果てに生まれた子どもが不倫を糾弾してるんですよ」

記事として大々的に発表し、審判を世に問うてみよう。不倫でできた子どもが不倫を批判するのはいいのか? しかも、その記者は殺人犯の娘だ。殺人犯の血を引く子どもとは結婚できないと判断した自分は“普通”ではないのか。「お前、最っ低だな」と貶される言われはないはずだ。僕は悪くないよね。そうでしょ!? 大勢に問い、騒ぎになった世間に同意してもらいたい。その心境が今回のリークに繋がった。
でも、野中は間違っている。不倫の末に生まれた子、殺人犯の子は自らの境遇をどうすることもできないからだ。“普通”でありたいばかりに、野中は闇堕ちした。

追う側だったケイトが「人間とは何かを考える材料」になる
先輩・小野寺明人(今井隆文)の代わりに、ほんの数秒でケイトは秀逸な見出しを思いついた。
「オンナ30 その愛貫くべきか」
まさに、今のケイトの立場そのものだ。尾高と一夜を過ごしたケイトは足を捻り、「バチが当たった」とつぶやいた。自分が悪いことをしているという認識が彼女にはある。

次回予告を観ると、野中のリークを元にでき上がった誌面にはおどろおどろしい文が踊っていた
「刺された美人記者 驚愕の正体 父親は殺人犯・乃十阿徹」
尾高に殴られた野中は「尾高さんとケイトさんの不倫がばれたら、もっともっと大変なことになりますからぁ〜!」と泣きわめいた。ケイト糾弾、イースト糾弾を図る第2、第3の矢があるのかもしれない。

岩谷は編集部員を集め、週刊イーストの編集方針、理念を唱えた。
「週刊イースト正義の味方ではない。婚外の恋に対しても誰も弾劾するつもりはない。不倫する側も不倫される側も我々にとっては同じ重さだ。イーストは人間の様々な側面を伝え、人間とは何かを考える材料を提供したいと考えてる」
人間の様々な側面を伝える者(ケイト)も、撮る者(尾高)も、読む者も、皆、不完全な人間だという事実。

「深層スクープ」の記事が出た後、「外を歩くとみんなの目が厳しい」とケイトは立ちすくんだ。今まで、ずっと“追う側”だったケイト。彼女は、自らが「人間とは何かを考える材料」になっても、信念を変えずにいられるのだろうか。
(寺西ジャジューカ)

『知らなくていいコト』
脚本:大石静
主題歌:flumpool 「素晴らしき嘘」A-Sketch
音楽:平野義久
演出:狩山俊輔、塚本連平 ほか
プロデューサー:小田玲奈、久保田充、大塚英治(ケイファクトリー)
チーフプロデューサー:西憲彦
制作協力:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中

イラスト/まつもとりえこ