まんが/榎本まみ

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<45>」
「私、離婚してもいいでしょうか」

 奥ゆかしく、上品な50歳代の女性が、私に尋ねた。法律相談に来た女性に、「離婚の許可」を求められることに私も慣れてきた。しかし駆け出しの頃は、本当に驚いた。そしてつい、「いや、それはご自身で決めることでしょう」と返してしまっていた。
 すると相談者は、「そうですよね、弁護士さんに聞くべきことではないですね」と言いながら帰って行った。しかし、何か釈然としない、消化不良の何かが残った。当時はそれが何であるか、よくわからなかった。

◆「先生、トイレに行っていいですか」
 ツイッターを見ていたら、北欧からの留学生が日本の大学の教室で、トイレの許可を求める大学生を見て驚いたとの投稿があった。

 確かに、トイレに許可は要らないだろう。しかし考えてみると、家庭で、学校で、そして会社で、私たちは、支配者あるいは上位者の許可を求めるよう躾けられ、教育されてきた。会社では「ほうれんそう(報連相)」などと言われ、常に上司の監督下に置かれる。モラ夫は、その組織の論理をそのまま家庭に持ち込み、自らが妻の「上司」となって君臨しようとする。そんなモラ夫につくづく嫌気がさして、離婚したいと思った妻がモラ夫に「離婚の許可」を求める。当然、モラ夫は許可しない。

◆迷惑はかけられない
 冒頭の女性に戻ろう。私が「家庭で何か辛いことがあるんですね?」と尋ねると、女性は夫に対する配慮が足りず、家事が不十分で夫に叱られてばかりいることを語り始めた。「怒鳴られるんですか?」と訊くと、小さく頷く。

「怒鳴らなくてもいいのにね」「怒られたり、怒鳴られたりしたら辛くなるよね」と声をかけると、涙が頬を伝っていく。

「あなたの人生だから、あなたが決めていいと思います」「これから辛い人生を送るよりも、離婚して自由になった方がいいと思います」
とそっと背中を押すと、女性は「でも、迷惑はかけられない」と小さな声でつぶやいた。

◆「主人は、口うるさいだけなんです」とモラ夫を擁護する被害妻たち
 被害妻たちの離婚できない理由で、私を含む離婚弁護士がよく出会うのは、以下のとおりである。

1、モラ被害の認識がない。
2、自責の念が強い等、洗脳状態にある。
3、別居、離婚に踏み出した時のモラ夫の反応が怖い。
4、許可がないと別居、離婚に進めない。
5、経済的な不安がある。
6、「迷惑かけない」が身に染み付いている。
7、子に父親も必要と思う。
8、自分さえ我慢すればよい。

 私の推論では、日本の男性の約8割がモラ夫/モラ夫予備軍である。ところが、多くの日本の女性/妻たちは、モラ被害の認識がない。
 しかし、離婚の相談にくる女性たちの殆どは、モラ被害を受けていると言って間違いない。それなのに、少なくない数の被害妻たちは、夫がモラ夫であることを否定する。妻たちは夫について、「口うるさいだけ」「理屈ぽいだけ」「短気なだけ」「体育会系だから」「仕事が大変だから」と夫の言動はモラハラではなく、夫はモラ夫ではないと言い張る。モラ夫であることを認めると、自らの心の中にある離婚願望を抑え込めなくなるからに違いない。

◆本当に、妻は「悪い」のか?
 そして、妻たちは、「主人を怒らせる私が悪い」と言い張り、いかに自分がドジか、いかに家事が不十分かなど自己批判を始める。

 大事なので、何度でも繰り返す。平等なパートナーであり、愛すべき妻を日々ディスる夫はモラ夫である。モラ夫は妻に対し優位に立ち、支配するためにディスるディスる理由がないと、理由を見つけ出し、作り出してディスる。妻が何か失敗をすると、嬉しそうな顔をするモラ夫までいる。そもそも、家事その他に妻として不足があるとしても、ディスり、怒っていい理由にはならない。仮に、妻に不足があるなら、その不足を夫が補って扶け合うのが夫婦/パートナーではないのか。

 被害妻たちは、モラハラの理不尽さに気づき、洗脳から目が覚めると、モラ夫から逃げることを考え始める。モラ夫たちは、君臨し慢心しているため、妻の「反乱」の準備に気が付かない。そして、妻が出て行ったあとに、「何で突然、出て行くんだ!」と叫ぶ。しかし、既に遅過ぎる。妻の気持ちが戻ってくることはない。結局、モラハラは妻だけでなく、モラ夫自身も不幸にするのである。

<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>

【大貫憲介】
弁護士、東京第二弁護士会所属。92年、さつき法律事務所を設立。離婚、相続、ハーグ条約、入管/ビザ、外国人案件等などを主に扱う。著書に『入管実務マニュアル』(現代人文社)、『国際結婚マニュアルQ&A』(海風書房)、『アフガニスタンから来たモハメッド君のおはなし~モハメッド君を助けよう~』(つげ書房)。ツイッター@SatsukiLaw)にてモラ夫の実態を公開中

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