つくばエクスプレス」を運営する鉄道会社が、社内のネットワーク(従業員向けの電子掲示板)に新聞記事を無断掲載していたとして、中日新聞社が2月中旬、鉄道会社を相手取り、約1250万円の損害賠償をもとめる訴訟を東京地裁に起こした。今回の訴訟のポイントについて、著作権にくわしい弁護士に解説してもらった。

●例外をのぞいて「新聞記事」にも著作権がある

中日新聞社は「つくばエクスプレス」を運営する首都圏新都市鉄道を提訴した。報道によると、中日新聞社の主張は次のようなものだ。

首都圏新都市鉄道は2006年年9月から2019年4月まで、中日新聞社発行の東京新聞に掲載された記事をスキャンして、社内の電子掲示板に無断掲載した。

首都圏新都市鉄道の本社や駅などに設置されたパソコンから、従業員に閲覧できる状態にした

●「新聞記事」にも著作権はある

そもそも新聞記事は、「客観的な事実」を書いているので(異論はあるかもしれないが・・・)、著作権はあるのだろうか。著作権にくわしい高木啓成弁護士が解説する。

「新聞記事は、事実をどのように取捨選択するか、選択した事実をどのようにわかりやすく、完結に伝えるかなど、記者の創作活動によって作られています。だからこそ、それぞれの新聞社によって、記事の内容が異なっているわけです。

ですので、訃報や天気予報など、創作性が入らない記事をのぞいては、新聞記事は著作物にあたります。

そのため、新聞記事をコピーしたり、PDFデータにすることは、著作権法上の『複製』にあたり、著作権(複製権)の侵害になってしまいます」(高木弁護士)

●「公衆送信権」の侵害にあたる

今回のケースでは、新聞記事をスキャンして、社内の電子掲示板に掲載していたということだ。

「社内の電子掲示板に掲載するように、多数の人が閲覧できる状態にすることは、著作権法上の『公衆送信』にあたり、著作権(公衆送信権)の侵害になります。

それでも同一構内だけで閲覧できる社内電子掲示板であれば、『公衆送信』にあたらないのですが、報道によると、本社や駅などに設置されたパソコンから従業員が閲覧できたようですので、やはり『公衆送信』にあたるといえます。

ちなみに、『職務著作』という制度があります。新聞社の従業員である新聞記者が書いた新聞記事については、新聞社(会社)が著作者となることが通常です。

ですので、新聞記者個人ではなく、新聞社が原告になって、著作権侵害を主張しているわけです」(高木弁護士)

●社内で共有する場合は注意を

社内の電子掲示板ではなくて、部署内でコピーを配布する場合なども問題なのだろうか。

「『私的使用目的』の複製であれば、基本的に著作権侵害にはなりせん。ただし、自分自身または家庭内で複製するような場合に限られます。会社の部署内での業務上の複製は『私的使用目的』とはいえません。

ですので、新聞記事をコピーして配布する場合は、たとえ部署内だけで配布したとしても著作権(複製権)侵害になります。

実際、新聞記事や雑誌記事の共有は著作権法の問題になりやすく、過去には、社会保険庁のLANシステム内での新聞・雑誌記事の共有について、著作権(公衆送信権)侵害が認められた裁判例もあります。

社内で新聞記事を共有するときは、新聞記事をコピーせずに回覧するなどの工夫が必要です」

【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。映像・音楽制作会社やメディア運営会社、デザイン事務所、芸能事務所などをクライアントとするエンターテイメント法務を扱う。音楽事務所に所属して「週末作曲家」としても活動し、アイドルへ楽曲提供を行っている。HKT48の「Just a moment」で作曲家としてメジャーデビューした。
Twitterアカウント @hirock_n
事務所名:渋谷カケル法律事務所
事務所URL:https://shibuyakakeru.com/

社内ネットワークに「新聞記事」無断転載して裁判沙汰に…「著作権」のポイントは?